もうすぐ新学期です。先日三年生の主任に「学年集会で5教科から受験勉強の進め方を教えてあげてほしい」と依頼がありました。
これは難問です。ターゲットが違えば学習の進め方が違うからです。
国公立大学第一志望ならセンター試験が行われる1月中旬と前期試験の2月25日、難関私立なら併願の1月下旬と本命の2月上旬、が目標になります。
そのスパンの中で「ひとつの教科・科目についてどの順番で完成させるか」と「いつまでにどの教科・科目を完成させるか」の二つを考える必要があります。
特に世界史は二年でやることが一通り終わる国・数・英とは違い、三年二学期のぎりぎりまで教科書が終わりません(他教科が演習をしている横で授業してます。トホホ)。
さらに、センター試験の点数を見てから二次試験の勉強をしても間に合う国公立大学(センター6割で合格ってどうよ、と思いますが)と、センター得点率80%以上かつ二次試験でも地歴が必要な難関国立大学では準備の量・質・プロセスが異なります。
今回は世界史の受験勉強の方法について(4月からではちょっと遅いのですが)、全般的なことを考えます。
1 すべての勉強の鉄則
- 必勝法はない。自分にもっとも合う勉強法、参考書、問題集を見つける。
- やったことしかできない。効率的な学習法はあっても、楽な学習法はない。
- 体にたたき込む。見る、声に出す、書く、を反復する。忘れた頃に復習する。
- 理解するとは既存の知識とつながって納得できること。理解できるまでが学習。
2 高校の世界史が目指していることとその養成方法
ポイント1:特徴を比較し関連づけよ!
ポイント2:まずは西洋史と東洋史を完成させよ!
ポイント3:身近に引きつけよ!
高校の世界史が目指していることは大きく分けて次の3つです。
- 日本を含む世界の各地域、各時代は様々な文化を育んだ。
- その文化は、その地域だけで生まれたのではなく、他地域の文化との交流の中で生まれた。
- 日本は、まずは東アジアの地域世界、19世紀以降は西欧世界との関わりの中で、その文化を受容しつつも、自己のアイデンティティは守って独立を達成してきた。近代の受容には光と闇の部分がある。
したがって、世界史で必要な基礎力は次の3つです。
- 「特徴をつかむ」
- 「特徴の成立、交流、変容の過程を時系列と地理的広がりの両面から理解する」
- 「特徴を比較し、共通点・相違点・関連性・因果関係を見つけられる」
世界史は軸が複数あります。かつては西洋史(英米が軸)と東洋史(中国史が軸)の2軸でしたが、最近は多様な地域世界を関係性の中で考えます。東南アジア、イスラーム、中央アジア、アフリカなどです。
西洋史分野に関して、まず各地域の時系列の変化(いわゆる各国史)を、英・仏・独・露・東欧を比較、関連づけながら理解します。
中国史に関しては新石器文化、殷から清までの王朝、中華民国と中華人民共和国について、各時代の特徴を政治、経済、文化の面から理解し、さらにどの王朝の時代に隣接地域とどう関わったのかを覚えます。
用語だけではなくて何世紀・何年のことか、場所はどこかも一緒に覚えます。センター試験で年号と地図の問題は毎年4~5問あります。
世界史をより記憶に定着しやすくするコツは「日本と比較し関連づける」ことです。これは「世界の時間と空間の中に日本を相対化して位置づける」という世界史の根幹でもあります。
たとえばオリエントやギリシア・ローマは、私たちにとって身近な都市、文字、産業、民主主義や帝国統治といった政治文化の源のひとつです。だから「文化の発展」や「民主主義の形成と衰退」というストーリーにもとづいて事項が配列されていることを見抜いて、重要事項を記憶します。
また「イスラームのカリフとスルタンの関係が日本の天皇と将軍との関係に似ている」という発見をして、「人間のすることは今も昔も、地域が違ってもたいして変わらないのか」と歴史を楽しむことは重要です。
3年生の後半で学習する西欧主導の「グローバル化」は、非西欧が西欧近代をどこまで受容し、どれは拒否するか、というまさに日本人の課題です。私はここが「世界史」の本丸だと考えています。
「西洋史」「東洋史」「国史」という三分法は乗り越えるべき課題ですが、受験の始動はヨーロッパ史と中国史を軸にして、「ああ、これがあったから今の日本はこうなんだ」と今の日本や世界と比較し、発見を楽しみながら学習しましょう。
3 大学はどこで生徒をふるい落とそうとしているの?(いる生徒 いらない生徒)
ポイント4 サービス問題は確実にとる!
ポイント5 「覚えにくい」と「手が回らない」で振り落とされる!
- 大学にふさわしい人…特徴把握、比較、関連づけできる力。
- 丁寧な勉強をしている人…うろ覚え、山勘ではなく、根拠を持って答えられる。
- 3年生の忙しい時期も勉強に集中している…20世紀史は必ず出題される。
- 試験科目以外の時間もちゃんと集中している…国語、現代社会、理科。
- この大学に絶対受かりたいという意志がある…過去問のやり込み、傾向分析。
例えば入試問題が大問4~5題の場合は、このような構成になっています。
A 大問1 大問2 …1,2年生の学習範囲
東南アジア(古代~18c)、中国(新石器~清)、イスラーム(オスマン帝国まで)
ヨーロッパ(中世~17cの主権国家体制形成まで)
*3年生の模擬試験で何度も出題される定番。解答できて当然の部分。
B 大問3~4… 3年生の1学期~2学期にかけて習うところ
ヨーロッパ18世紀(市民革命と啓蒙専制主義)、19世紀ヨーロッパの国民統合、
アジア・アフリカの植民地化と民族運動 帝国主義の時代
二つの世界大戦の時代のヨーロッパとアジア・アフリカ
*限られた時間で復習し、定着させられるかを競う。最も差が出るところ。受験勉強の取りかかりが遅く、社会まで手が回らない人を落とす。
C 大問5…「どうしてもこの大学に合格したい」と思っているか試す
「周辺」史:東欧、東南アジア、ラテンアメリカ、アフリカ、中央アジア
*授業で詳しく習っていなくても自習で内容を定着させているか、過去問を研究しているかが問われる。その大学への愛着で差が出るところ。
同志社大学は3問構成で、ほぼABCと出題されます。立命館大学の場合、東洋史中心の第1、第2問、西洋史中心の第3、第4問でACAB、ACACの並び、第2問は中国の現代史、第4問で文化史、「周辺」史がよく出題されます。関西学院大学は大問が5題で、だいたいAABBCの並びです。
センター試験の場合は、平均点60点を目標にしていますから、Cが問題数で5問程度、残りはAとBからです。ただし2014年のセンター試験のように、現代史がどっさり出たけれども知っていれば簡単な問題でした。逆に2011年の「太陰太陽暦」や2012年の「グラッドストンの教育法」のようにAやBの範囲でも踏み込んだことが問われる場合もあります。
4 一学期の勉強方針
ポイント6 既習と未習の「二正面作戦」に備えよ!
4月からの受験勉強の段取りとしては、まずAの箇所を5月の第一回全統模試(マーク、記述)までに総復習することです。できなかったことは8月の第二回全統模試までにケアし、多少細かいことが突っ込まれても答えられるようにします。
Bの部分は後からまとめて復習できませんから、授業をしっかり聴いて、宿題、定期考査でいったん作り、二学期の模試で定着させます。
Cの範囲は現役生には苦しいところです。二次に世界史がなく、センター総得点率70%~75%ぐらいの国公立を第一志望にするならば、冬休みにざっとやって「当たれば儲けもの」でいいと思います。センター試験の世界史を80点から90点にすることに労力を使うよりは、国数英で10点あげる方に力を入れるべきです。
ただし地歴が二次試験にある難関国立や難関私立大学は戦後史で差がつきます。夏休みに学校の授業の「先取り学習」をして、二学期の授業は復習で聞きます。
国立二次に世界史がある人は、いきなり論述のトレーニングよりは夏休みの時に私大の過去問を解いて「ベースになる知識」をつけておきます。
東大や阪大はグローバル化や同時代を横に聞く問題が多い、立命館は必ず中国の近現代史を出題する、同志社大学は戦後史が多い、など難関になればなるほど過去問に「何を準備するべきか」が明示されています。第一志望の頻出範囲はABCに関わらず得意分野にしておきたいです。
5 まとめ
- 世界史の学習はまず暗記です。
- 暗記するときには必ず時系列および地理的広がりの中で比較と関連づけをしながら記憶します。「いつ」(年代・年号)と「どこ」(場所)に気を配ります。
- 世界史はただ事実が羅列されているのではなく「今の日本を相対化する」という方針に基づいて事項が取捨選択され、配列されています。歴史を「意味のあるつながり」として認識するために、日本史と比較したり、自分の日常に引きつけたりしながら納得し、新たな発見を楽しみながら暗記します。
- 1,2年生の既習部分を夏までに模試を利用して完成させ、3年の範囲は授業と定期考査で完成させるという「二正面作戦」をとります。
- 大学入試は、西洋史、中国史にイスラームと東南アジアを加えた部分が「点数をとらせる問題」です。まずはこの部分の完全解答を目指します。
- 過去問にはかならず「これができる人を求めます」というメッセージが込められています。授業・復習と過去問演習を交互に繰り返しましょう。
ただ、大枠や段取りがわかったからといって世界史が頭に入るかどうか、また覚えた知識を瞬時に解答できるかどうかは別です。トレーニング方法は次回にします。