ぶんぶんの進路歳時記

学習方法、進路選択、世界史の話題について綴ります

2020年度からの大学入学共通テストについて(号外2019年8月)

 2020年度(2021年度入学者選抜)の共通テストについて、カオスな状態が続きます。7月中の検定団体との協定締結、記述式の応札の発表は8月16日現在情報がありません。

   二学期に先生や生徒に話をするので、今現在の情報を整理する目的で7月から8月にかけてツイッターで気になった記事を紹介します。

 

1 大学入試センターNHKの報道を否定

 

 7月4日のNHKニュースは「2020年度から始まる大学入学共通テストで導入される記述式問題の採点について、文部科学省学生バイトを認める方針を固めた」と報道しました(ページはリンク切れ)。

 これに対して大学入試センターは7月12日付で、HPで次のように回答しています。

https://www.dnc.ac.jp/news/20190712-01.html

 当センターでは、⽂部科学省が⽰している⼤学⼊学共通テスト実施⽅針にしたがって、記述式の採点業務については「⺠間事業者を有効に活⽤」して⾏うよう準備を進めており、現在、採点業務を委託する⺠間事業者を公募しているところです。具体的な採点の⽅法については、今夏以降に、採択された事業者との契約において定めていくことになりますが、少なくとも、厳正な審査を⾏って採点の適性がある採点者を採⽤すること、採点者に対して事前に⼗分な研修を⾏うこと、複数の視点で組織的・多層的に採点を⾏う体制を構築すること、等を求めていく予定です。

 また、NHKによる取材に対しては、採点者個⼈の属性(例えば、教員免許の有無や、⼤学⽣や⼤学院⽣など在学する学校種など)のみに着⽬して、採⽤あるいは不採⽤の条件とすることは考えていない旨をお伝えしてきたところです。(下線は筆者 以下同じ)

 

*感想

 「属性で不採用にしない」を置換すると「大学生のバイトもOK」です(具体と抽象の出し入れ)。大学生が悪いと言うわけではなくて、約57万人の将来が採点の経験が十分とは言えないバイトの採点に託されることを懸念しています。

 なお大学生は1月下旬は自分自身の心配をした方が身のためです。

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2 大学入学共通テストの記述式がマイルドに

 

 6月7日に「大学入学共通テスト問題作成方針」が発表され、7月から各地で教員向けの説明協議会が始まりました。

www.dnc.ac.jp

 記述式に変更がありました。

 国語については「実用的または論理的な文章のいずれかまたは両方」に⼩問3、「最も⻑い問題で80〜120字程度」です。他の⼩問は「それよりも短い字数」となりました(試行調査では20~30字、40~50字)。

 「短い字数」だと単純な抜き出しもありえます。長い方は複数のテクストを「批判的に読解する」というよりは「誘導に沿って言葉をかき集める」なので、それだと現行のセンター試験とあまり変わらない気がします。

 

 数学は次の通りです(共通テストのスライド資料 22ページ)

試行調査では数式を記述する問題、または問題解決のための方略などを端的な短い文で出題する問題を出題していたが、試行調査の結果を踏まえ、問題解決のための方略などを端的な短い文で出題する問題は出題しないこととした。

 そこで新聞各社が「初年度は数式のみを記述させる方針を明らかにした」と報道しましたが、7月16日の文部科学大臣は定例会見で「数式のみを記述させるという方針を決定した事実はない」と報道を否定しました。

 センターによると「数式以外に記号や数学的用語を日本語で記述することなども想定している」そうです。最初からそう言えば?

 

*感想

 これを日本の慣用表現で「火消しに躍起」と言います。

 国語は誘導に沿って正解を導くだけ、数学は答えを記述するだけ、これでは現行のセンター試験と内容的に大差がないのに採点に莫大な手間がかかります。

 約57万人分の採点を公平・正確・迅速にできるのか、「自己採点との不一致問題」をどうするのか、生徒・保護者・教員は不安でいっぱいですが、文科省とセンターはどうお考えなのでしょうか。

 まさか「やって反省」するおつもりでしょうか。約57万人の人生を左右するのに?

 文科省とセンターの中の人には「自分たちはどこを向いて仕事しているか」を今一度「メタ認知」していただきたいです。

 英語検定団体もセンターの要望をクリアしかねているみたいだし、「センター試験は準備不足で一年延期した」という先輩の英断を思い出しましょう。

 

3 英検協会、「高校三年生は浪人を予知して予約する」問題に右往左往する

 

 前回紹介しましたが、7月2日付発表の共通テスト対応版「英検2020 1 day S-CBT」の段取りは次の通りです。

第1回検定(2020年4月・5月・6月・7月実施)

 →2019年9月に予約申込、2020年2月に本申込

第2回検定(同年8月・9月・10月・11月実施)

 →2020年1月に予約申込、6月に本申込

 これだと現在の高校三年生が浪人を決める時期にはすでに予約申し込みは終了です。英検協会に苦情の電話が殺到したと拝察します。

 そこで英検協会は7月12日に次のように発表しました。

大学入試の合否が決定する、2020年3月下旬から4月上旬にかけまして、残念ながら進学先が決定しなかった方を対象に、英検2020 1 day S-CBT第2回検定(通常ですと2020年1月申込)の予約申込を行わさせていただきます。

 第1回検定については「皆さまのご希望に添えるよう、現在、鋭意検討中」だそうです。

 

*感想

 これを日本の慣用表現で「後手に回る」と言います。当事者の行動でわずか10日で変更になりました。

 

4 全国高等学校長協会、文部科学大臣宛ての要望書を提出

  

www.jiji.com

 全文

http://zen-koh-choh.jp/iken/2019/20190725.pdf

 共通テストに導入される英語の民間試験について、全国高等学校校長協会は「試験の実施方法などの情報提供が不十分だ」として文部科学省に改善を求めました。

 要望書によると、枠組みの全体像が明確になっていない英語民間検定試験についての不安は増すばかり、教職員、生徒・保護者からの問い合わせにも「校長として責任ある回答ができず、説明に苦慮しているのが実情」とのことです。

 次の6点を不安材料としてあげています。

1 生徒が希望する時期や場所で英語民間検定試験を受けられる見通しが依然として立っていない。

2 都道府県間はもとより、同じ都道府県内でも受験に対して地域格差・経済格差があり、それらに対する対応が不十分である。

3 実施団体ごとの検定試験の周知に計画性がなく、未だに詳細が明確になっていない。 学校では、今年度中の生徒への指導、来年度の年間行事計画及び生徒への指導計画が立てられない。

4 英語民間検定試験の公平、公正に対する不信が払拭されていない。特に、英語民間検定試験の実施方法(公 開会場での実施・運営方法、CBTに よる実施方法等 ) について、採点の方式、結果の周知時期、事故対応等の経験、実績のない実施団体があることなどにより、生徒も教員も不安を募らせている。

5 活用方法を明らかにしていない大学等があり、志望するにあたって不安である。

6 障害のある受験者への配慮が事業者ごとにまちまちである。

 「『実施に当たっての不安を払拭できなければ、実施体制が整うまでは実施を見送るべき』などの声が相当数の出席者から上がるほど」といいつつ、要望書は次のように締めくくられています。

本協会としては、この仕組みの制度設計を行った貴職が責任をもって一刻も早く事態の収拾にあたり、令和3年度の大学入学共通テストにおける英語民間検定試験の利用において、受験生に混乱が生じる事態を招かないよう 、また現場の校長たちが安心して生徒を受験に向かわせることができるよう、格段のご配慮をお願いいたします。

 文部科学省は「真摯に受け止めて情報を広く公開していきたい」と回答しています。

ん?

  いや貴職は「制度設計」の責任者であり、1~6について検定団体は「情報を秘匿している」のではなくて「できなくて困っている」のでは?

 全国の校長の切実な訴えに対して、文科省は業者に「早く!」と急かすだけで中身にはノータッチのように聞こえます。危機感が感じられないのは気のせいでしょうか。

 

*感想

 要望は『日刊ゲンダイ』に「甘噛み」と言われました(私も同感)が、校長が動いたことで大手メディアもこの問題を取り上げはじめました。

 新聞記事はこちらのツイッターから。

twitter.com

追記 8/17

 文部科学大臣の名前のツイッターで、制度に反対する投稿に対して「サイレントマジョリティーは賛成です」とリプしています。

 つまり情報が入ってこなくて意見すらいえない教員、生徒・保護者は賛成派、その不安をかなりの覚悟で代弁していただいた校長先生たちは「ノイジー・マイノリティ」、いや「甘噛み」のおかげで賛成派に分類されているかもしれません。

 校長先生、このまま黙っていると賛成派ですよ!

 

5 「共通テストの英語民間検定の問題点」をまとめた動画

 


【字幕あり】不公平英語入試はいらない!-2021年度(2020年度実施)の新大学入試における民間英語試験の問題点

 

*感想

 私はツイッターをロムしていたので、神津島のくだりで(調布行きのプロペラ機が反則)涙と怒りがこみあげてきました。

 朝日新聞神津島に取材に行きました。

https://www.asahi.com/articles/ASM7S4V2MM7SUTIL01V.html

こちらも

www.shin-eiken.com

 

 6 英検協会、「TEAP」をA1対応にする

 

 2019年07月05日、英検協会は「TEAP」及び「TEAP CBT」について、高校1年生も年度の第2回以降から受験可能としました(従来は高校2年生以上対象)。

 さらにこう続きます。

 TEAPスコアとCEFRの対応関係について、あらためて専門家による検証を行いました。その結果、TEAP、TEAP CBT共に、中学卒業時における到達目標レベルとされる、「A1」に該当するスコアが明確化になりました。(原文ママ

 具体的には、従来の①「B2 or above」②「B1」③「A2」④「A1 or Below」4段階を、①を「C1とB2」、④を「A1とbelowA1」に分けて6段階とします。

 難易度は変わらずA2~B2の問題が出題されます。

 「英検2020 S-CBT」は級別の受験で、例えば二級(B1)を受験し、不合格でも一定の成績ならA2ですが、やらかすとCEFRなしです。その場合「A1が出願条件」のゆるゆる大学にも出願できません。

*加点方式の大学のほとんどは「CEFRなし」について記述がありません。

 その点ライバルの「GTEC」(ベネッセコーポレーション)は、advancedならA1~B2まで判定できるので、やらかしてもA1はもらえます(どういうシステム?)。

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  TEAPの変更はこうした事情を踏まえてと拝察します。

 

*感想

 TEAP(Test of English for Academic Purposes)は上智大学と共同開発した「大学で学習・研究する際に必要とされるアカデミックな場面での英語運用力をより正確に測定するテスト」という触れ込みです。

 「共通テストのためにCEFRをインフレさせた」とも取れるのですが、上智大学はどうお考えでしょうか。

 

おわりに

 盆明けの動きを期待して今日はここまで。読んでいただきありがとうございました。

 英語検定の採点の実態に興味がある方はツイッターを見てください。

*こちらに関連記事がまとめられてあります。当ブログも入れていただいています。感謝です。

kouzouzu.web.fc2.com