ぶんぶんの進路歳時記

学習方法、進路選択、世界史の話題について綴ります

2025年度以降の大学入学共通テスト(記述式も英語民間検定も断念?2021年6月前半)

はじめに

 2019年11月に英語成績提供システム(共通テストに英語民間検定を利用する)の運用中止、12月に共通テストの国語と数学の記述式の実施見送りが発表されました。

 さらに2020年8月にはJapan e-portfolioも運用停止となり、入試「改革」の目玉が揃って頓挫、共通テストだけがいびつな形で残った格好になりました。

gendai.ismedia.jp

 これを受けて、いったい何が問題だったのかを検証する「大学入試のあり方に関する検討会議」が開かれることになりました。

 以下引用はこちらの資料から

www.mext.go.jp

 2020年1月から始まり、2021年6月22日の第27回でこれまでの議論や検証を踏まえた提言の原案が提示されました。

 結論は「2025年度以降も記述式と英語民間検定の活用は困難」です。

www3.nhk.or.jp

 今回は第27回の資料を見ていきます。

過去記事 記述式の闇を連載した記事へのリンクあり

bunbunshinrosaijki.hatenablog.com

 

bunbunshinrosaijki.hatenablog.com

 

関連記事

 記述式採点を請け負った「学力評価研究機構」(オフィスなし、電話番号なし)は、東京都教育委員会が都立高校入試に導入する英語のスピーキング(会話)テストで再びスポットライトを浴びています。

www.nikkan-gendai.com

www.jcp.or.jp

 

目次 

 

1 記述式

① 課題は解決したの?

 大学入学共通テストへの記述式問題の見送りの段階で指摘された課題は次のようなことです。

(1)採点者の確保

→1月中旬の2週間に質の高い採点者を大量に確保するのは無理

(2)正確な採点など採点精度の問題

→50 万人以上の答案を短期間で採点する中で、採点ミスをゼロにすることは困難

(3)採点結果と自己採点との不一致

→平成30 年度試行調査では「国語」の約3割の採点結果が自己採点と不一致。劇的に改善するのは無理。生徒に点数を知らせるのも無理

*委員の一人で京都の市立高校の元校長が「自己採点も記述力」といって制度の不備を受験生のせいにしたことは何度でも蒸し返します。

(4)大学への成績提供時期の遅れ

→私立大学の共通テストを利用した選抜区分が実施に支障が出る

(5)民間事業者の活用に伴う利益相反の懸念の指摘

→機密の漏えいやそグループ企業間(教材販売など)での利益相反が生じる懸念

(6)採点をめぐる制約から評価できる力に限界があることの指摘

→自由度の高い記述式は50万人規模では採点不能、採点しやすい「条件付記述式問題」にすれば記述力は十分に評価はできない

 そこで提言の原案はこうです。

50 万人以上が同一日・同一時刻に受験し、短期間で成績を各大学に提供しなければならない大学入学共通テストにおいて記述式問題を導入することについては、一定の意義はあるものの、2.で述べた課題の克服は容易ではなく、その実現は困難であると言わざるを得ない。

  つまり指摘された課題の解決策はない、だから実現困難という結論です。

 んー? 2年前、文科省の役人は野党合同ヒアリングで「業者ができるって言ってるからできる」など木で鼻を括るような言葉を連発していましたね?。(´・ω・`)

 

② そもそも意志決定プロセスがおかしいのでは?

 提言では記述式の実施実態について、

平成28 年度大学入学者選抜において、国立大学の二次試験で、国語、小論文、総合問題のいずれも課さない選抜区分の募集定員は、国立大学の募集定員全体の61.6%であった。

しかし、今回(令和2年度)の実態調査で、全教科を対象に個別試験において記述式問題が出題された選抜区分による入学者割合を算出したところ、一般入試における個別学力検査において、短文・長文・小論文等(図表・グラフ・絵、英文和訳・和文英訳を含み、短答式・穴埋め式を含まない。)の記述式問題に該当する枝問が1問以上出題されたと推定される選抜区分に係る入学者数の割合は、国立98.7%、公立99.0%、私立55.2%であった。

 文科省が入試改革を言いだしたから慌てて各大学が記述式を増やしたのではなく、東北大学の調査にもあるように(過去ログ参照)以前から国立大学は基本記述式ですし、数学は中堅私立以上は記述式または客観式も計算して数値を入れる方式が多いです。

 改革の推進役である某教授の「私立大学で記述式をしているのは慶応大学だけ」は妄言だと、現場の教員は知っていますし、調べればすぐわかることです。

 先に「改革」があって根拠は印象、慌てて出したエビデンスも欺瞞(国語以外の記述式は記述式じゃない?)、実現可能性も考慮しない、という意志決定プロセスに問題ありです。

 

③ じゃあどうするの?

 提言の冒頭では「記述式問題の意義・必要性」は唱えられています(ただし理由のひとつには相変わらず「AIによって単純な定型的労働はなくなって、人間にしかできない創造的な業務の比率が増す」とあります)。

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 提言では実際には多くの大学で記述式が行なわれている現状を踏まえて、

各大学の多様性や自主性を尊重して一律の義務付けを行うことは適当でないが、大学入学者選抜で「記述させる部分をできるだけ増やしていく」「思考力・判断力・表現力等の評価を充実させていく」という大きな方向性を共有することは極めて重要であり、その出題が推奨されるべきと考える。  

 国公立大学ではより高度な記述式問題を、志願者数が多い私立大学については、一部の選抜区分や総合型選抜・学校推薦型選抜の活用も含め、「効率的な採点・出題の工夫により出題増に努める方向で改善を図ることが期待される」としています。

 一方提言は地方国立大学では教養部が廃止されて(平成3年度以降)高校の学習内容に詳しい教員が減り、出題が難しいと指摘しています。「高大接続」をうたう文科省自らが過去にその生命線を切っているのであって、矛盾の極みです。

理系の単科大学だと英語の専任スタッフが少ないため、某大学は英語以外のスタッフが採点できるパート(記号問題)と、英語教員が採点するパート(記述式)に分けるなど苦労の跡が見られます。

 私立大学については、中堅大規模校では受験生の利便(と受験者数の確保)を見据えて入試日程が細分化されています。多くの受験者の答案を短期間で採点し合否判定をしているので、全教科・全設問を記述式にするのは不可能です。

 またどこの大学も語学の教員は専任以外が多いなど、予算削減のしわ寄せは教養・語学科目に行き、高大をつなぐスタッフが不足する一方です。

近畿大学は一般入試だけで8試験日、公募制推薦(という名のプレ一般選抜)を入れると12試験日あります。難易度が同程度の問題をそれだけ用意できるものだと感心します。

 つまり記述式の採点を推進するのであれば、提言に述べられている出題の工夫や採点の効率化、過去問活用など小手先ではなく、「大学の常勤スタッフ(特に共通教育)を増やすこと」が高大接続にもかなう、がぶんぶんの意見です。

 

まとめ

「これまでの教訓を踏まえた大学入学者選抜の改善に係る意思決定のあり方」という項にこうあります。

 国における大学入学者選抜に係る意思決定に当たっては、大学・高等学校関係者との協議を踏まえることを基本とし、実証的なデータやエビデンスに基づき専門的・技術的な知見や幅広い関係者当事者の意見に耳を傾けつつ、見直しに伴う負担と得られる成果の比較考量も加味した慎重な検討を行うことが重要である。

 意思決定に当たっては、理念や結論が過度に先行し、実務的な課題の解決に向けた検討が不十分にならないようにする必要がある。的確な現状分析に基づいて改革の理念や方向性を定めた上で検討を進めつつも、実務的な実現可能性を常に確認し、課題の解消が難しいと判断される場合は工程を見直したり、他の方策の適否を検討したり、必要な場合は理念まで再度遡って検討したりするなど柔軟な姿勢で臨む必要がある。

 今回の入試改革の旗振り役は、利権や功名心からいじりやすい(邪魔する既得権団体がいない 文科省は省庁の中で最弱の一方で大学や小中高には尊大)教育に目をつけ、センター試験や各大学の入試問題をろくに調べず、「マーク式=暗記」という間違った認識で実現可能性の低いことを提言し、受験生・保護者・高校・大学を混乱させた、というのがぶんぶんの感想です。

文部科学省は「自分も被害者」と思っているかもしれませんが、公教育を司る省として、他省庁や政治家の介入について毅然たる態度を取っていただきたいです。

 会議で委員の末冨芳先生が「政策プロセスが不透明であり受験生や高校関係者等に大きな不安を与えた経緯を忘れるべきではない」と指摘されていました。

 本会議の趣旨は、なぜそのような「無理筋」が通ったのかを検証することですから、末冨先生が仰るとおり、最終提言にはそこを明確に盛り込んでいただきたいです。

 個人的には入試を混乱させた張本人の反省の弁をうかがいたいですが。

 次回は英語検定について(続く)