ぶんぶんの進路歳時記

学習方法、進路選択、世界史の話題について綴ります

どうなった?旧課程最後の2024年度入試(1 国公立大学編)

はじめに

 2024年度入試は旧課程ラスト、浪人したら経過措置があるとはいえチャレンジか安全かで迷う人も多かったと拝察します。

 今回は河合塾駿台、東進、代ゼミの2024年度入試の分析を著作権の範囲内で引用し、大学入試センター文科省の発表も参考にしながら、2024年度入試についてふり返ります。

参考

「実施結果等」を参照

www.mext.go.jp

駿台

www2.sundai.ac.jp

 河合塾の営業さんから「公開されているものは出処を示せば引用OK」と許可をもらっています。文中の表・グラフはここから。

www.keinet.ne.jp

目次

 

0 入試改革のゴタゴタ(テンプレ)

  1. センター試験→共通テスト
  2. 英語成績提供システム→2019年11月にストップ
  3. 国語と数学に記述式→2019年12月にストップ
  4. 主体性評価→Japan e-ポートフォリオが2020年4月に運用停止
  5. 国公立大学の態度→文科省に忖度から一転し、英語民間検定必須化は相次いで中止、主体性評価もコロナ禍を理由に入試での活用は保留が相次ぐ
  6. 共通テスト→「思考・判断力をより試す」は情報処理能力勝負、「実生活の場面」は非現実な場面、国語は出題者の利益相反疑惑から実用的文章は一旦消滅(2025年に復活)、平均点管理ができず4年で2回の得点調整実施
  7. 入試改革→そもそも「入試で教育を変える」という理念が間違い、さらに理念を制度に落とし込むことができず、改革の多くは土壇場で次々挫折、共通テストだけが残り、改革は文科省の各大学への予算をちらつかせた個別依頼に場所を移す

1 国公立大学

① 共通テスト 志願者は減少・受験者は微増

1)センター試験・共通テスト 志願者・出願者数推移

2020までがセンター試験大学入試センター資料より

年度 志願者数 昨年比 受験者数 昨年比 受験率
2015 559,132 100% 530,537 100% 95%
2016 563,768 101% 536,828 101% 95%
2017 575,967 102% 547,892 102% 95%
2018 582,671 101% 554,212 101% 95%
2019 576,830 99% 546,198 99% 95%
2020 557,699 97% 527,072 96% 95%
2021 535,245 96% 484,114 92% 90%
2022 530,367 99% 486,848 101% 92%
2023 512,581 97% 474,051 97% 92%
2024 491,914 96% 457,608 97% 93%

 2024年度は現役生は 419,534人(昨年:436,873人)と人口減少分を考えれば昨年並み、浪人生は 68,220人( 昨年71,642人)と3,422人と3年連続減少し、現役占有率は2022年から85%と高止まりです。

 申し込んで受験しなかった生徒は共通テスト初年度(つまりコロナ禍)がピークでしたが、その後は減少傾向です。

 高校では私立の指定校推薦で進学先を決めた生徒にも共通テストの受験をすすめる傾向にあります(出願は合格が決まる前)。四月から共通テストや一般試験をくぐり抜けた学生と机を並べる訳ですから、進学先が早くに決まって「ふぬけ」になったら他の生徒に悪影響を及ぼしますし、なにより本人が大学に入ってから困ります。

 追試者はコロナ5類による受験条件の緩和で減りました。

2)受験科目数の推移
  2020 2021 2022 2023 2024
8科目受験者 7,915 7,021 6,656 6,621 6,008
受験率 1.5% 1.5% 1.4% 1.4% 1.3%
7科目受験者 287,427 272,914 273,368 269,454 266,837
受験率 54.5% 56.4% 56.0% 56.8% 58.3%
6科目受験者 24,544 21,924 21,291 20,535 19,804
受験率 4.7% 4.5% 4.4% 4.3% 4.3%
5科目受験者 27,086 24,496 24,587 22,119 20,781
受験率 5.1% 5.1% 5.0% 4.7% 4.5%
4科目受験者 44,287 41,943 43,032 41,940 38,789
受験率 8.4% 8.7% 8.8% 8.8% 8.5%
3科目受験者 115,639 100,843 104,049 97,537 91,129
受験率 21.9% 20.8% 21.3% 20.6% 19.9%
2科目受験者 17,690 13,025 13,394 13,755 12,312
受験率 3.4% 2.7% 2.7% 2.9% 2.7%
1科目受験者 2,484 1,947 2,006 2,090 1,948
受験率 0.5% 0.4% 0.4% 0.4% 0.4%
受験者合計 527,072 484,113 488,383 474,051 457,608
平均受験科目 5.54 5.62 5.59 5.62 5.67

 国公立大学の基本である5教科7科目受験は、人数は昨年より約3,200人減少していますが比率は増加しています。一方私立アラカルトの中心である3科目受験は共通テスト初年度から続落しています。私立専願生が共通テストを見限ったということです。

 センター試験晩年に私大センター利用が広まったのは受験機会を増やす(受験料を稼ぐ)経営上の戦略です。多くの受験生にとってセンター利用は国立の併願や安全校の押さえなど「保険」みたいなもので、合格者の大半は辞退します。

 また関西の私立大学は国公立大学との併願関係が強く、一般試験はセンター試験の貯金が使える仕様でした。しかし「ガラパゴス化」した共通テスト(特に英語)は勉強の足しにならないどころか邪魔にすらなります。

ガラパゴス諸島に生息するアメリカグンカンドリ。アメリカ合衆国連邦政府の著作物なのでパブリックドメイン

② 一般選抜倍率は昨年並み

文部科学省のHPのスクリーンショット 別日程の公立大学は除く

 国立大学は、第一志望で受験する(はずの)前期日程は定数が増えて志願者も増えたので倍率は昨年と同じ、3年連続で3倍を割りました。国立後期は定員微減、志願者微増でトータルの倍率は上がっています。公立大学は前期・後期・中期とも微減です。

 今回は共通テストの平均点が上がり、理系を中心に成績上位者が増えました。一般的傾向として、共通テストの平均点が上がると受験生は5教科7科目を課す国立大学に出願し、逆に「荒れる」とアラカルト方式の公立大学が増えます。

河合塾のGuideline4,5月号(2024)より引用

③ 欠席率も昨年並み

第1日目の欠席者集計(文部科学省発表資料から)

前期 実施大学数は2024年

  2024年度 2023年度 増減
受験対象者数 出席者数 欠席者数 欠席率 受験対象者数 出席者数 欠席者数 欠席率
国立81大学 168,455 156,663 11,792 7.0% 167,052 155,542 11,510 6.9% 282
公立83大学 47,209 42,876 4,333 9.2% 47,369 42,709 4,660 9.8% -327
合計 215,664 199,539 16,125 7.5% 214,421 198,251 16,170 7.5% 45

後期

  2024年度 2023年度 増減
受験対象者数 出席者数 欠席者数 欠席率 受験対象者数 出席者数 欠席者数 欠席率
国立69大学 115,362 42,080 73,282 63.5% 113,027 42,127 70,900 62.7% 2,382
公立61大学 32,548 11,612 20,936 64.3% 32,114 11,300 20,814 64.8% 122
合計 147,910 53,692 94,218 63.7% 145,141 53,427 91,714 63.2% 2,504

 国公立前期の欠席の理由は、①私立に合格したから(共通テストで失敗して意中の国公立に出願できなかった)、②国公立の共通テストあり推薦に合格したから、のふたつです。今後国公立大学の推薦が拡充すると欠席者のさらなる増加が見込まれます。

 後期は前期合格者は欠席するので欠席率が高いのは当然、前期の欠席理由①の人も多いです。後期の実受験倍率は平均3~4倍です。何としても国公立の人は3月12日までは気持ちを切らしてはいけません。

③ 地域別動向

1)各地域堅調も北陸のみ落ち込み

 河合塾のGuideline4,5月号(2024)より引用

 国公立の志願者が堅調な割に落ち込みが激しいのが北陸地方です。

大学名 前期日程 後期日程
募集人員 志願者数 募集人員 志願者数
23年度 24年度 23年度 24年度 前年比 23年度 24年度 23年度 24年度 前年比
富山 1,156 1,172 3,404 2,570 75% 267 262 3,136 2,722 87%
富山県 307 321 926 777 84% 46 45 642 293 46%
石川県立 60 60 299 183 61% 36 36 469 245 52%
石川県立看護 40 40 91 87 96% 10 10 217 134 62%
金沢 1,537 1,551 3,742 3,493 93%
公立小松 122 122 300 258 86%
福井 429 429 855 1,133 133% 246 246 1,218 2,262 186%
福井県 177 175 591 690 117% 120 122 1,147 1,141 99%

 原因のひとつとして能登半島沖地震の影響が考えられます。ぶんぶんの教え子が現在金沢大学に通っていて、電話をしたら市内は大丈夫だったそうですが、あれだけ報道が統制されて被害状況が小出し(特に志賀原発)だと受験生が敬遠するのも無理ありません。

富山大学 前期の詳細(専門学科枠を除く) 大学HPより

実倍率は受験者数÷合格者数 増減と指数も受験者数、合格者数より算出。

  2024年度 2023年度    
  募集人員 志願者 受験者 合格者 実倍率 募集人員 志願者 受験者 合格者 実倍率 増減 指数
人文 125 349 318 138 2.3 125 439 408 138 3.0 -90 78%
教育 62 95 86 69 1.2 62 178 162 70 2.3 -76 53%
経済 229 523 502 252 2.0 229 519 493 258 1.9 9 102%
134 194 181 160 1.1 124 413 397 165 2.4 -216 46%
医ー医 70 222 162 75 2.2 70 350 273 74 3.7 -111 59%
医ー看 50 110 90 51 1.8 50 72 57 52 1.1 33 158%
薬ー薬 35 150 138 40 3.5 40 245 229 43 5.3 -91 60%
薬ー創薬 29 61 60 35 1.7 29 68 68 32 2.1 -8 88%
288 505 468 333 1.4 277 681 636 320 2.0 -168 74%
芸術文化 55 120 114 62 1.8 55 137 133 66 2.0 -19 86%
都市デザイン 95 241 230 114 2.0 95 231 223 111 2.0 7 103%
前期合計 1,172 2,570 2,349 1,329 1.8 1,156 3,333 3,079 1,329 2.3 -730 76%

富山大学 出身高校所在都道府県別志願者数・入学者数

占有率は各地区入学者数/総入学者数

  2024 2023 志願者増減
志願者数 入学者数 占有率 志願者数 入学者数 占有率
北海道 103 27 1% 106 31 2% -3
東北 167 50 3% 193 49 3% -26
関東 594 169 9% 886 157 9% -292
信越 756 200 11% 919 218 12% -163
北陸 2,687 828 46% 2,881 780 43% -194
東海 1,192 368 20% 1,546 377 21% -354
関西 298 107 6% 537 117 7% -239
中国 52 19 1% 86 21 1% -34
四国 24 8 0% 40 10 1% -16
九州 41 15 1% 47 12 1% -6
沖縄 22 7 0% 40 9 1% -18
その他 77 17 1% 102 16 1% -25
合計 6,013 1,815   7,383 1,797   -1,370

 富山大学の不人気には新幹線開業の影響もあると考えます。富山県の人は便利になりましたが、関西圏や国立至上主義の本家愛知県から富山県に行きづらくなりました。東海・関西圏からの受験生が約600人減少、新幹線で富山へのアクセスが向上した関東・甲信越地方も約450人の減少です。

 ぶんぶんはこれをネットでアナウンスして人が集まるとうちの生徒が困るので黙っていましたが(インチキ)、ここまでとは思いませんでした。(´・ω・`)

 この結果入学者の地区別占有率は地元北陸三県の比率が上がっています。

*愛知県からの志願者は846人から607人に減少しましたが、それでも志願者・入学者とも富山、金沢に次いで第3位をキープしています。どんだけ(以下略)。

パブリックドメインQのフリー画像

 増えた大学(募集定員100人以上 前年比120%以上)

大学名 前期日程
  募集人員 志願者数
  23年度 24年度 23年度 24年度 前年比
北見工業 153 147 265 498 188%
秋田県 195 195 535 810 151%
宇都宮 628 634 1,533 1,984 129%
都留文科 118 118 410 548 134%
山梨県 148 148 381 517 136%
長野県立 123 123 255 338 133%
福井 429 429 855 1,133 133%
三重 813 815 2,361 3,005 127%
滋賀医科 105 105 282 387 137%
和歌山県立医科 186 186 608 800 132%
島根 613 594 1,606 2,076 129%
島根県 243 243 581 728 125%
広島市 225 225 554 695 125%
香川 683 683 1,554 1,875 121%
北九州市 725 726 2,021 2,602 129%
長崎 1,061 1,062 2,556 3,233 126%
下関市 180 154 2,131 2,562 120%

 宇都宮と長崎は昨年度激減の反動(いわゆる隔年現象)、またぶんぶんの知る国立至上主義高校が大好きな西日本の国公立大学が膨張しています。

 三重大学が人気を集めています。ぶんぶんが複数の三年担任や進路指導関係者(東スポ?)に取材したところ、「文系学部で昨年なら余裕で合格する点数の生徒が前期で落ちてきた」という証言を得ました。

 三重大学は愛知県民と三重県民が7割強を占めるというスーパーローカル大学で、安全志向が働いたと推察されます(合格者最高点・平均点が発表されたら追加でアップします)。

 新課程では情報が追加され国語では実用的文書が登場するなど、ますます国立志望者の「共通テストにしか使わない勉強」が増加するので、現在共通テスト6割前後が合格ラインの地方国立大学の倍率が低下する懸念があります。国立至上主義高校にはまたとない追い風ですが、生徒が負担について行けるか心配です。

2)旧帝大+東工・一橋・神戸
  2024年度 2023年度    
  募集人員 志願者 倍率 募集人員 志願者 倍率 増減 指数
北海道  1,979 5,196 2.6 1,881 5,284 2.8 -88 98%
東北    1,629 4,423 2.7 1,601 4,239 2.6 184 104%
東京    2,960 9,432 3.2 2,960 9,306 3.1 126 101%
東工  892 3,982 4.5 930 4,167 4.5 -185 96%
一橋  797 2,721 3.4 817 2,641 3.2 80 103%
名古屋  1,731 4,359 2.5 1,731 4,258 2.5 101 102%
京都  2,623 7,800 3.0 2,622 7,417 2.8 383 105%
大阪  2,874 7,196 2.5 2,878 7,398 2.6 -202 97%
神戸  1,892 6,110 3.2 1,921 5,885 3.1 225 104%
九州  1,979 5,107 2.6 1,979 5,067 2.6 40 101%

 予備校は浪人生が減ると飯の食い上げなので2024年度入試では模試の分析段階からしきりに「安全志向ではなくチャレンジ志向だ」と宣伝していました。

 実際に共通テストの高得点が追い風になり、このところ過熱気味だった東京工業大学と昨年隔年現象で膨張した北海道大学以外は堅調です。阪大が凹んだのは上位は京都大学にチャレンジ、ボーダー付近は神戸大学に変更した生徒の増加が原因でしょう。

 なおこの10大学は倍率よりも合格に必要な点数がとれるかを気にしましょう。

④ 学部系統別 

 河合塾のGuideline4,5月号(2024)より引用

 河合塾調べによると、文学部が復調、経済・経営系は人気、法は一段落という感じです。安全志向から人気薄の文学部が狙われたのかもしれません。

 理系は工学部、理学部は引き続き堅調です。情報系も人気高止まりです。

 医療系は人気継続、関東では医学部がダメなら歯学部という流れだそうで、歯学部人気は継続です。

 教育学部はジリ貧です。一日12時間労働は当たり前で残業代4%で定額働かせ放題、休憩時間ほぼなし、土日祝は部活でつぶれ、責任だけは山ほどあり、休職者が後を絶たない労働環境が人口に膾炙しつつあるようです。この調子では部活のために教員を目指す人だけになり、ますます時間外労働が増えそうです。(´・ω・`)

 なお教員調整額を4%から10%にあげるという話が出ていますが、時間外労働を縮減する方が先です。 

まとめ

  • 受験人口減少と私立アラカルト受験者の減少で共通テストの受験者は減少するものの国公立志向の受験生の割合は増える
  • 平均点が安定しない共通テストだが、どの得点層が膨張・縮小するかで難関~準難関~地方国立の集まり具合が変わる
  • 受験生は各大学の特色よりも昨年の倍率やトレンドで動く。とりわけ国立至上主義高校に狙われている大学は隔年現象を起こしやすい
  • 受験生の負担増で地方国立は正念場
  • 国公立大学の実質倍率は約3倍、点数をみてフラフラするよりは、早めに志望大学を決めて、合格に必要な点数を取る力を養成しましょう

次回は私立大学編