ぶんぶんの進路歳時記

学習方法、進路選択、世界史の話題について綴ります

どうなる?新課程最初の2025年度入試(① 模試動向編)

はじめに

 2025年度は新課程入試の初年度です。旧課程ラストの2024年度入試は、受験生が浪人すると実用文や情報に付き合わされるのを嫌って、チャレンジはするものの私立を手堅く出す作戦でした。

 今回は河合塾および駿台予備学校の「模擬試験の結果から入試動向を分析する会」で聞いた話を著作権の範囲内で引用し、2025年度入試について展望します。

*予備校は経営上チャレンジを進めるのでそのつもりで聞いてください。

 河合塾からは「公開されているものは出処を明記すれば引用OK」と営業さんから許可をいただいています。教員用サイトの2025年度入試分析が出処です。

www.keinet.ne.jp

www.keinet.ne.jp

目次

1 基本編

① 受験生を取り巻く環境

  • 2025度の高校三年生は約109.1万人、1994年度の約205万人から半減も昨年度(106万人)よりもやや増加
  • 受験人口は約65.6万人、進学率60.1% 
  • 2024年度(前年度)の私立大学(598校)の定員は503,874人で2025年度はそこから約1.400人減少(後述)。2025年度の国公立179大学の定員は130,573人。
  • 選り好みしなければほぼ大学に行ける状態だが昨年よりは競争あり

大学等進学者数に関するデータ 関係 - 文部科学省

https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/content/000255573.pdf

大学・短期大学数の推移

参考:大学入学者選抜関係資料「Ⅰ.18歳人口及び高等教育機関への入学者・進学率等の推移」

https://www.mext.go.jp/content/20201209-mxt_daigakuc02-100014554_2.pdf

② 迷走する入試改革

  • 政府の実学重視を文科省が丸呑みし、大学入学共通テストの英語は架空のシチュエーションで読む聴くに特化、国語で実用文導入、国語と数学ⅡCで時間延長、情報の追加と国公立志望生の負担は増加
  • 文科省は「英語成績提供システム」頓挫後も大学ごとに英語民間検定の活用を迫っている
  • Japan E-portfolio は頓挫、調査書6分割記載は廃止。観点別評価を調査書に載せるかは先送り

③ 政府の国立大学への干渉強化

  • 文科省は大学に推薦・総合型選抜の拡充や実学重視を迫っている
  • 政府は理系、デジタル人材の育成を文科省に求め、文科省は定員増加をちらつかせて国立大学にその分野の拡充や理系の女子推薦を迫っている
  • 政府は「国立大学法人法改正案」で「国際卓越研究大学」のみに設置するとした委員の半数以上は学外者とする「合議体」をすべての国立大学に設置するということを抜き打ち的に閣議決定し、大学への干渉を強めようとしている

https://eic.obunsha.co.jp/file/educational_info/2024/0209.pdf

2 国公立大学トピック

① 新設学部・学科は国策追従?

 第二次安倍内閣の私的諮問機関であった「教育再生実行会議」に代わる「教育未来創造会議」は、産学連携や文理横断など実学重視を掲げる一方、大学助成の見直しを掲げています。

 「デジタル・グリーン等の成長分野」(デジタルは情報、グリーンは環境)の学部・学科に転換する公立・私立大学については支援金支給(大学独自の給付型奨学金の原資)、国立大学については入学定員の増加を認めています。

 2025年度入試では秋田、山形、神戸で情報系学部が新設され、既存の電子・情報系学科では福島、筑波、横浜国立、岐阜、名古屋、三重、大阪、広島で定員の増員が認められました。

 こういうイラストはやはり「いらすとや」さんに限ります。

参考

成長戦略 | 首相官邸ホームページ

 大学ジャーナル

univ-journal.jp

② 理系「女子枠」は効果的?

  昨年度から複数の国立大学が一部学科で学校推薦入試に女子枠を設定しました。今年度は千葉や神戸が総合型選抜・学校推薦選抜で女子枠を新規実施します。2026年度も京都、大阪、広島が女子枠を実施する予定です。

 技術革新には「多様性と包括性」、言い換えると視点の違う人が忌憚なく議論することが必要です。またぶんぶんの知り合いで物理の教員をしている女子が「女子の『物理食わず嫌い』をなくしたい」と常々言っています。

 昨年度の「女子枠」の結果 河合塾前掲およびHPより

  学部 募集人員 志願者数 合格者数 倍率
北見工業 16 13 13 1.0
電気通信 情報理工 5 9 5 1.8
東京工業 物質理工 20 128 20 6.4
  環境・社会理工 9 62 9 6.9
  情報理工 14 26 12 2.2
  生命理工 15 48 15 3.2
金沢 理工 34 28 20 1.4
富山 10 9 8 1.1
名古屋 9 16 11 1.5
名古屋工業 28 99 34 2.9
兵庫県 15 36 12 3.0
山陽小野田市立山口東京理科 5 12 12 1.0
島根 材料エネルギー 6 7 6 1.2
熊本 情報融合 8 33 9 3.7
大分 理工 13 21 14 1.5
琉球 20 2 2 1.0

 国立の推薦・総合型は見合う受験生がいなければ定員割れにして一般入試に定員を回すことができますが、これを見ると第一志望で選ばれる人気大学はそこそこの倍率、そうでない大学は志願者が定員に満たなかったり、中には全入というところもあります。「女子枠」だから受験生が集まるという訳ではありません、

 このデータを知って今年度は国立至上主義高校が無差別飽和攻撃を仕掛けている可能性があります。「入試で女子枠を設けること」が「理系の女子比率を上げ、ひいては女子の研究職を増やす」の最適解ではない、とぶんぶんは感じます。

③ 年内入試って流行ってるの?

 河合塾の話によると、高卒者の数は6年前から1割ほど減少したのに対し、大学志願者数は94%、また大学以外を目指す人数は2割ほど減少しているので、これまで大学進学を考えていなかった層が増加しているとのことです。

 一方で一般入試を志願する生徒は国公立は志願者数減少、私立もやや減少なので、増加した層は総合型や学校選抜推薦、メディアが煽る「年内入試」志向と考えられます。

 国公立大学では後期を廃止して定員を総合型・推薦・前期に回す大学が増え、2026年度から三重大学はほとんどの学部で総合型を実施するなど新規参入も増加中です。

 国公立大学の推薦、総合型は次のようなルールや準備すべきことがあります。

  • 第一志望であること
  • 専願で合格したら必ず入学する
  • 学校推薦選抜は1年度に1大学1学部(学科)しか受験できない
  • 受験生は膨大な志望理由書、活動報告書、学習計画書等を作成する
  • 担任は膨大な推薦書、受験生の活動報告書を作成する
  • 面接の練習は一度や二度では済まない
  • 落ちたことも考えて一般入試の準備も並行して行う

 「勉強が間に合わないから総合型や推薦で潜り込みたい」「成績がいまいちの生徒は総合型に回して国立の数を稼ぐ」など目的をはき違えて安易に出願する(させる)と、志望理由書や面接の指導が大変です。教員の浅知恵(「○○先生の研究はまさに私がしたかったことですキリッツ!」とか)など大学教員は一瞬で見破ります。

 ぶんぶんはタフな総合型選抜や専門学科推薦は賛成ですが、「入試を多様化したら多様な人材が確保できる」は、受験の現場の感触では短絡的です。「尖った生徒」がゴロゴロいるなんてスーパー進学校の話で、そういう生徒は一般でも合格できます。

 定員割れの危険水域にいる地方国立大学が、背に腹は代えられず「ダメだこりゃ」と思いながら合格を乱発する…なんてことが起こらないことを祈ります。学力層が「多様化」しても大学にとってメリットはありません。(´・ω・`)

3 国公立大学模試動向

① みんな強気?

 河合塾の話では、第3回全統共通テストの受験者は既卒者はやや減少、現役生はやや増加です。フル受験(6教科8科目)は理系で増加、文系でやや減少です。志望欄を見ると国立・私立ともやや増加、私立併願数は絞り気味が継続です。

 昨年よりも私立専願者の共通テストが増加しています。関西圏では共通テスト利用が充実していて、特に3月入試の共通テスト利用で「ポロっと」通ることがあるので私大専願生も共通テストは(勉強の邪魔になっても)大事です。

 模擬試験の志望欄によると、難関10大学(旧帝大(北海道・東北・東京・名古屋・京都・大阪・九州)+東京科学(旧東京工業)・一橋・神戸)は理系を中心にどこも人気継続で、浪人は難関志向です。逆に準難関(大阪公立、広島など)は浪人の志望が減っている分、トータルでは前年並みの模様です。

 定員管理厳格化が緩和されて、私立のブランド大学が入りやすくなったことから、去年ぐらいから国公立はチャレンジ志向が継続しています。

② 系統別…やっぱり実学系? 

河合塾、上記のリンクのスクリーンショット

 河合塾の模試の動向では、文系では外国語系が回復傾向、経済系は人気継続です。理系は全体的に堅調ですが、過熱していた情報系は増設で学際系の情報とともに落ち着き気味です。

 医療系では看護系が一人負け、文理融合では生活科学が低調です。両者とも女子が多い系統で、理系学部へ流れた可能性があります。

 教員養成系は安定の低空飛行です。「教師のバトン」なんてインチキやってるツケが回ってきました。

bunbunshinrosaijki.hatenablog.com

 獣医学部は大学ごとに凸凹はあるもののトータルでは人気です。現在地方の公務員獣医師が不足しています。ぜひ家畜のお医者さんを目指してください。

 そういえば四国に新設された私立獣医学部は今どうなってるの?

bunbunshinrosaijki.hatenablog.com

3 私立大学編

① 定員割れで減員する大学も

 日本私立学校振興・共済事業団の「令和6(2024)年度私立大学・短期大学等入学志願動向発表」によると、調査した四年制大学598校について定員割れ(入学定員充足率100%未満)の大学は354校(59.2% 2023年度は53.3%)、入学者は定員503,874人に対し494,730人(98.19%)と(昨年99.59%)とちょっとヤバいです。

参考

https://www.shigaku.go.jp/files/shigandoukouR6.pdf

 文科省は定員未充足の大学に対する私学助成の減額率の引き上げや不交付を厳格化し、就学支援新制度(給付奨学金の原資)の交付について2024年からは3年連続で定員充足率8割未満なら他の条件(経営状態)がよくても一発不交付にするなど、学生集めに汲々とする中小規模校の経営改善や整理縮小を促進する腹積もりです。

 2025年度入試では人文・教育系、薬学系で入学定員の減員があり、前年から約1,400名の減少です。一方で大都市圏の私立大学が新設大学・学部改組による増員(先述のデジタル系)をしています。

 データサイエンス系は関西大学が新学部(ビジネスデータサイエンス学部)を立ち上げるなど、依然として各地で増殖中です。

② 模試の動向

 河合塾の模試では首都圏の女子大のみ志望欄に書く生徒が減り、首都圏、関西圏だけでなくそれ以外のエリアでも偏差値上位大学を志望欄に書く受験生が増えています。

 系統別は国公立とほぼ同じ傾向で、外国語系、経済系、理系が堅調、生活科学、看護が低調です。情報は雨後の筍のように学部学科ができたので競争は緩和気配です。

4 関西圏トピック

 ぶんぶんの「絶対領域」から気になる大学をピックアップします。

① 京都工芸繊維大学

 前期辞退率が京大・阪大よりも低く、「ダヴィンチ入試」は楽して国立に合格したい人お断りの総合型選抜、後期は阪大残念組が合格して大量辞退、という「第一志望者が集う愛され大学」です。

 2025年度からは後期を廃止し、前期と総合型に定員を振り分けました。駿台のデータを見たところ志望者の学力層に変更はないので「工繊💛」組には朗報です。前期阪大組が後期をどこにするかが気がかりです。

② 大阪大学

 工学部、基礎工学部とも定員増です。「何としても阪大」の人には朗報です。

③ 神戸大学

 工学部情報知能工学科を改組し、システム情報学部と学部化しました。AI、データサイエンス、スパコンなどが学べます。周知は進んでいて模試ではまずまずの人気です。

④ 「関関同立

 関西大学は2024年度入試では関関同立で唯一志願者を減らしましたが、反動で人気回復です。関西学院大学は相変らずの人気です。

まとめ

  • 浪人生は減少も現役生が増加し受験生がやや増加
  • 国立は理系で定員増加、私立は文系で定員減
  • 共通テスト負担増でも国立大学は難関大学、準難関大学とも人気
  • 国立・私立とも文系は外国語系と経済系、理系はおおむね人気継続。従来から女子の多い生活科学や看護系が人気薄
  • 総合型、学校推薦選抜を希望する受験生が増加
  • 情報系の定員拡充で、情報系の人気過熱はひと段落

*最新情報については必ず各大学の募集要項で確認してください。