何かと物議を醸した大学入学共通テストの第二日程、追試受験者はセンター試験時代を含めて最多となりました。
通常は追試の問題は新聞には掲載されませんが、今年はwebサイトに問題が上がっています。本日は世界史Bの第二日程(追試)の問題の解答します。
公式
東進の過去問データベースは共通テスト・センター試験については会員登録なしで閲覧、ダウンロード可能です。ただし本試験だけ。(´・ω・`)
第一日程の解説
bunbunshinrosaijki.hatenablog.com
この間買った本にズバリ的中がありました!でも私のところで追試の世界史B受けた生徒はいません。(´・ω・`)
他の年度の追試解説
bunbunshinrosaijki.hatenablog.com
目次
1 大問構成
第1問 世界史上の植民地
A アフリカ(授業) B 東南アジア C シンガポール
第2問 世界史上の工業・産業の変化の授業
A 工業生産(授業) B 鉄道営業キロ数(授業)
第3問 世界史上のグローバルな接触
A 新大陸 B カスティリャとティムール
第4問 君主・指導者の言説
第5問 世界史上の国際関係
A 中東戦争(授業) B 中国 C WW2前(授業)
コメント
第二日程は試行調査で見られた「授業場面を試験に出せば高校でアクティブラーニングが促進される」という論理の飛躍問題が6ブロックあります。
第一日程にも会話形式は6ブロックありますが、教室は2つで残りは博物館や上野動物園などでの会話です。🐼
2 全33問 ダイジェスト
凡例
タイプ 一問一答:センター試験的な知識問題
内容理解:教科書の記述内容を問う
年号:年号や順番の知識
グラフ問題のうち年号読み取りはここへ、事実読み取りは資料へ分類
資料:地図やグラフの客観的事実を読み取る
読解:文章の言わんとする内容を読み取る
時代 アジアは18世紀まで前近代、ヨーロッパは中世まで前近代、18世紀まで近代
難 難易度
◎:「あれといえばこれ」問題。正解マスト
○:正解するには複数の知識をつなぐ、教科書の記述を理解している必要あり。
△:細かい知識、授業内容の理解、概念で複数知識を再構成する力が必要
傾向 セ:センター風 私立:私立個別風 二次:国公立風 新:新傾向
概念 私立一般や国公立二次で問われる概念知識
全33問の分析
タイプ | 話題 | 時代 | 地域 | 設問内容 | 難 | 方法 | 概念 | |
1 | 一問一答 | 政治 | またぎ | アフリカ | リベリアの判別と場所 | ○ | セ | |
2 | 読解 | 政治 | またぎ | アフリカ | リベリアと南アフリカ共和国の共通点 | △ | 新 | |
3 | 資料 | 政治 | 20世紀 | ヨーロッパ | ソ連の場所と内容 | ◎ | 新 | |
4 | 資料 | 政治 | 19世紀 | 東南アジア | 東南アジアどこ何 | ○ | 新 | 帝国主義 |
5 | 資料 | 政治 | 戦後 | 南アジア | インド帝国の解体とその後 | △ | 新 | アジアの独立 |
6 | 読解 | 政治 | 19世紀 | ヨーロッパ | ラッフルズの奴隷貿易への態度 | ◎ | 新 | |
7 | 内容理解 | 政治 | 戦後 | 東南アジア | シンガポールの独立 | △ | 二次 | |
8 | 資料 | 経済 | 19世紀 | またぎ | 中国とアメリカ合衆国の工業生産 | ◎ | セ | |
9 | 一問一答 | 経済 | 19世紀 | ヨーロッパ | 第二次産業革命 | ◎ | 新 | |
10 | 資料 | 経済 | 19世紀 | ヨーロッパ | ロシアとドイツの鉄道の発達 | ○ | セ | 帝国主義 |
11 | 資料 | 経済 | 19世紀 | またぎ | グラフの読み取りができている生徒は誰 | ◎ | 新 | |
12 | 一問一答 | 文化 | 前近代 | またぎ | アステカ文明 | ◎ | セ | |
13 | 一問一答 | 文化 | 近代 | ヨーロッパ | 新大陸から入ってきた農産物 | ◎ | セ | グローバル化 |
14 | 年号 | 政治 | 19世紀 | ヨーロッパ | ジャガイモ飢饉の後の出来事 | ○ | セ | |
15 | 年号 | 政治 | 近代 | ヨーロッパ | トルデシリャス条約とレコンキスタの時期 | ◎ | 新 | グローバル化 |
16 | 一問一答 | 政治 | 前近代 | 東アジア | 明の時代の出来事 | ◎ | セ | |
17 | 年号 | 政治 | 前近代 | ギリシアローマ | アウグストゥスの判別としたこと | △ | セ | |
18 | 読解 | 政治 | 前近代 | ギリシアローマ | アウグストゥスの統治方針 | ○ | 新 | |
19 | 年号 | 政治 | 前近代 | ギリシアローマ | 1世紀のローマ帝国の様子 | ○ | 私立 | グローバル化 |
20 | 年号 | 政治 | またぎ | ヨーロッパ | フランスとドイツの関係を読み取れている生徒は誰 | ○ | 新 | |
21 | 一問一答 | 政治 | またぎ | またぎ | 王朝と宗教の関係 | ◎ | セ | |
22 | 読解 | 政治 | 20世紀 | ヨーロッパ | シラクの歴史に対する態度 | ○ | 新 | |
23 | 読解 | 文化 | 前近代 | 東アジア | 訓民正音の成立理由と当時の受け止め方 | ◎ | 新 | 小中華 |
24 | 年号 | 政治 | 戦後 | 東アジア | 中国の文化いつ何 | ○ | セ | |
25 | 資料 | 政治 | 前近代 | 東アジア | 西夏の判別と場所 | ○ | セ | 中華王朝と北方勢力 |
26 | 年号 | 政治 | 戦後 | 西アジア | 中東戦争の並び替え | △ | 私立 | |
27 | 一問一答 | 政治 | 前近代 | 西アジア | イェルサレムの内容 | ◎ | セ | |
28 | 年号 | 政治 | 前近代 | 東アジア | 王莽の判別としたこと | △ | 新 | |
29 | 内容理解 | 政治 | 前近代 | 東アジア | 渤海の判別と特徴 | ○ | 私立 | 中華王朝と北方勢力 |
30 | 一問一答 | 政治 | 近代 | 東アジア | マカートニーの来朝 | ◎ | 二次 | 冊封体制 |
31 | 一問一答 | 政治 | 20世紀 | ヨーロッパ | 第二次世界大戦前の様子 | ◎ | セ | |
32 | 内容理解 | 政治 | 20世紀 | ヨーロッパ | ミュンヘン会談の内容と宥和政策 | ◎ | セ | |
33 | 一問一答 | 政治 | 20世紀 | ヨーロッパ | 対ソ干渉戦争と戦時共産主義 | ◎ | セ |
3 正解と正誤判定ポイント解説
- 正解は① 「アメリカ合衆国の解放奴隷が入植」から国名はリベリア。場所は授業で色塗りしてるはず。地図上bはコンゴ、cエチオピア dマダガスカル
- 正解は② やや難。読み取り問題。南アフリカ共和国の体制(少数の白人が黒人を支配)と生徒のメモ4「解放奴隷が先住民と対立していた」が共通する。①将校によるクーデタはエジプト、③「民族対立による内戦」は各地で発生するも南アフリカではない ④アパルトヘイトはリベリアには該当しない
- 即答で① ①コミンテルンからソ連、地図上でソ連がパン=ヨーロッパに色分けされていないことを読み取る。これ読解力?ソ連の範囲が違う(ペテルブルクがヨーロッパ)が、日本語訳本の地図がこうらしい。②「イスラームを国家原理とする共和国」は1979年のイラン。地図上のトルコは世俗国家なので不適当。③ラパロ条約はドイツ、④永世中立はスイスでいずれもパン=ヨーロッパ内
- 即答で② 東南アジアの植民地の位置と宗主国はマスト知識。①ビルマはインド帝国内でイギリス連邦。③はシャム(タイ)で独立を保っていた。「10年後の独立を約束されていた」のはフィリピン。④マラッカはイギリス領なのでパン=ヨーロッパに入らない
- 正解は④ 4と同じだが地図レス。学業の遅れで戦後史やってないとバングラデシュがわからないかも
- 即答で④ 文章を読めばラッフルズが奴隷貿易に否定的なことは明らか
- 正解は② 戦後史のやや難しい知識。1826年ベナン・マラッカ・シンガポールで海峡植民地→1895年ボルネオ地域を合わせてマレー連合州→日本の占領(シンガポールは「昭南市」)→1957年マラヤ連邦→1963年シンガポールと英領ボルネオを加えてマレーシア→1965年マレーシアのマレー人優遇政策に中国系住民が反発してシンガポールが分離独立 国立の小論述の定番
- 即答で① グラフの読み取り
- 即答で④ 第二次産業革命は石油と電力
- 正解は① い 東進鉄道敷設権は清朝から Y ブロック経済の説明
- 即答で① 第一日程から追い出された生徒の要約の正誤を判定する問題。センター試験のグラフの読み取り問題と同じ。
- 即答で② センター定番古代アメリカ文明。アステカ→太陽のピラミッド、マヤ→20進法 インカ→キープ 共通で「鉄なし牛馬なし車輪なし」は必須
- 即答で① サトウキビは旧大陸原産。ひっかけ
- 正解は③ ①カトリック教徒解放法 ③アイルランド自治法案のいずれかだが、ジャガイモ飢饉(19世紀半ば)以後だから③。ジャガイモ飢饉が1846年の穀物法廃止のダメ押しになった
- 即答で④ レコンキスタ完成(1492年)から判断。
- 即答で② ティムールと同時期は明。アンカラの戦いと靖難の役の終了が同じ1402年、モンゴルの後継者を自称するティムールが老体に鞭打って明に出兵したのは有名
- 正解は③ 1世紀前半に死去と「養父を殺害」からオクタウィアヌスと推理。要は年号問題。「ダキア」→「トラヤヌス」→④帝国領最大はひっかけ
- できれば即答で① 読解問題。ダミー選択肢Y「ローマの慣習や組織を破壊した」はオクタウィアヌスのしたこと(元首政)と真逆と気づきたい
- 正解は③ 「季節風貿易」を素直に選べばいいが④が判断に迷う。アクスム王国にキリスト教(コプト派)が伝わったのが4世紀、5世紀にはカルゲドン会議で異端とされた単性説が伝わる
- 正解は② 生徒の要約正誤判定問題。メルセン条約(870年)はマスト年号
- 即答で④ サファヴィー朝はシーア派(十二イマーム派)を国教にした
- 正解は③ 「シラクは『自分たちが犯した罪から目を背けてはいけない』と言っています」という出題者からのメッセージを読み解く問題。降伏したパリやヴィシー政府はダメでド=ゴールの自由フランスが「自らの伝統や本質に忠実」というのは第五共和政の歴史観
- 即答で④ 訓民正音の背景と小中華意識。読めばわかる
- 即答で④ 新文化運動が儒教道徳を批判したことも記憶。①柳宗元は古文の復興 ②イエズス会の指導で作られた暦は崇禎暦書(清代に時憲暦として公布)、授時暦は郭守敬
- できれば即答で① 西夏→チベット系タングート→甘粛は基本、地図bは雲南で大理国。地図はセンター試験の使いまわし。
- 戦後史を仕上げてあれば即答で④ 内容から第x次に変換 公立現役生泣かせ
- 即答で③ 岩のドームを知らなくても①後ウマイヤ朝:コルドバ ②ファーティマ朝:カイロ ④カーバ神殿:メッカはマスト知識
- ちょっと考えるけど正解は② 文章中の年号(紀元23年~27年)は新が滅亡して後漢になる時代。そうすると空欄イは王莽で、適する選択肢は②前王朝の皇后の親族=外戚が適切。何度も知識を置換する面倒くさい問題。
- 正解は④ これも「置換問題」で、靺鞨と高句麗の遺民から渤海、碁盤目状の都城から上京龍泉府を思い出す。渤海は2年前に東大と京大で出題。
- 即答で③ マカートニーかアマーストかは紛らわしいが、このブログの読者なら瞬殺
- 即答で① 第二次世界大戦前の話はこれだけ
- 即答で④ ミュンヘン会談はガチのアクティブラーニング授業実践が有名。
- 即答で② 対ソ干渉戦争→戦時共産主義→農民がやる気を失う→NEP→やる気復活、戦前の経済水準に→日本のシベリア撤兵→ソ連成立→レーニン死去、スターリン実権→第一次五か年計画→農業集団化
発展
リヒャルト・クーデンホーフ=カレルギー
地図の出処
父はベーメン貴族の家系でオーストリア=ハンガリー帝国の駐日大使、在任中に日本人女性と結婚し、リヒャルトが誕生します(2歳で帰国したので日本語は話せない)。
第一次世界大戦でヨーロッパは荒廃する一方、アメリカ合衆国とソヴィエト連邦が台頭します。危機感を抱いた彼は「パンヨーロッパ」を提唱します。
彼は世界を5つのブロック(ヨーロッパ、南北アメリカ、イギリス、ソヴィエト、東アジア)に分け、最終的にそれらをあわせた世界連邦を構想しました。ただし地図上のタイに「?」ついているあたりがいかにも当時のヨーロッパ人的。
世界恐慌が発生すると運動は停滞(パンヨーロッパより明日のパン?)、さらにナチ党の弾圧を受けてリヒャルトはアメリカに亡命します。
戦後ヨーロッパに戻って活動を再開しますが、実際のヨーロッパ統合はシューマンやジャン・モネらの「シューマンプラン」の線で進みます。
欧州連合の歌には彼の提案したベートーヴェンの『歓喜の歌』が採用されています。
欧州連合 賛歌「歓喜の歌(欧州の歌, An die Freude / Hymnus europae)」
4 第一日程・第二日程・試行調査2018の比較
① 出題タイプ
タイプ | 第一 | 第二 | 2018試行 |
一問一答 | 13 | 10 | 13 |
年号 | 5 | 8 | 8 |
内容理解 | 5 | 3 | 2 |
資料 | 3 | 7 | 5 |
読解 | 8 | 5 | 6 |
小計 | 34 | 33 | 34 |
一問一答+年号で半分程度、残りが読解という構成。
② ジャンル
ジャンル | 第一 | 第二 | 2018試行 |
政治 | 24 | 26 | 21 |
経済 | 4 | 4 | 8 |
文化 | 6 | 3 | 5 |
小計 | 34 | 33 | 34 |
文化史が第一日程でやや多かったがセンター試験では10問ぐらい出た年もある。
③ 時代
時代 | 第一 | 第二 | 2018試行 |
前近代 | 11 | 10 | 14 |
近代 | 6 | 3 | 7 |
19世紀 | 10 | 7 | 6 |
20世紀 | 2 | 5 | 3 |
戦後 | 3 | 4 | 3 |
またぎ | 2 | 4 | 1 |
小計 | 34 | 33 | 34 |
第二日程で20世紀、戦後の比率が多い。「学習の遅れ」に配慮して第一日程と問題を差し替えた?
④ 地域
地域 | 第一 | 第二 | 2018試行 |
東アジア | 11 | 7 | 7 |
東南アジア | 0 | 2 | 5 |
西アジア | 1 | 2 | 5 |
南アジア | 3 | 1 | 1 |
ギリシアローマ | 1 | 3 | 1 |
ヨーロッパ | 16 | 12 | 10 |
またぎ | 2 | 4 | 1 |
アフリカ | 0 | 2 | 1 |
アメリカ | 0 | 0 | 3 |
小計 | 34 | 33 | 34 |
第一日程がヨーロッパと東アジアに偏っているのは、「歴史学の方法」「史料の改ざんや管理社会への批判」という人文知の底力を示した結果。
⑤ 難易度
難易度 | 第一 | 第二 | 2018試行 |
◎ | 16 | 16 | 22 |
○ | 10 | 11 | 11 |
△ | 8 | 6 | 1 |
▲ | 0 | 0 | 0 |
小計 | 34 | 33 | 34 |
第一日程、第二日程とも難しいのは戦後史、朝鮮半島や東南アジアなど受験生の手が回りにくいところで同程度出題。
一問ごとの難易度と全体のバランスについては両日程に明らかな差はない(出題者がコントロールしている)が、第二日程の方が置換問題と戦後史が多いので、現役生には第二日程の方が難しいと思われる。
2月3日の中間発表では世界史Bの成績は次の通り。母集団違いすぎ。
第二日程(67人) 平均50.25(最高 88、最低18、標準偏差17.9)
第一日程(39,319人) 平均65.79(最高100、 最低0、標準偏差21.38)
⑥ 出題方法
傾向 | 第一 | 第二 | 2018試行 |
セ | 17 | 15 | 17 |
新 | 6 | 13 | 14 |
二次 | 5 | 2 | 0 |
私立 | 6 | 3 | 3 |
小計 | 34 | 33 | 34 |
半分がセンター試験的な知識で解ける問題。
第二日程の方が試行調査に近く、第一日程で消えた「疑似アクティブラーニング」問題も登場。クーデンホーフ=カレルギーの問題も地図を読ませるだけで終わっている。
第一日程には冊封と朝貢、財政=軍事国家説など国立大学の論述で問われるような概念知識が見られた。
まとめ
① 共通テスト世界史B、第一日程・第二日程の比較
- 第一日程と第二日程はコンセプトがやや異なるが、出題者はトータルで同程度の難易度にしようとしているのはわかる
- 試行調査に近い出題形式は第二日程
- 大学入試センターの考える「思考力」とは「資料やグラフに書いてあることを読解する」ことと、ヒント→歴史用語→内容→別の歴史用語と「知識を置換する」ことのように思える。前者は読めばわかるし、後者は知識出し入れ問題
- 出題者が考える「歴史的思考力」は、現在の問題意識から過去に問いかけ、過去から現在を再検討すること。第一日程にそれが色濃く出ている
② 高得点を取るために
- 丁寧な学習。教科書の重要事項およびその「いつ、どこ、なに、なぜ」の知識をつけ、それを道標に教科書のストーリーを理解する
- ひとりアクティブラーニング。新しく習ったことと既習の学習を比較し関連づけることを授業や家庭学習で意識する
- 教科書の記述内容を理解するためには、自分の身近で起きていることと関連づけるのが効果的。自分なりの考えを授業をまとめるとよい
- 試験前のパターン学習ではなく、日常から目的意識を持って勉強することが世界史で高得点を取る秘訣
第一日程はギミック抑え気味で資料に沿いながら問いを立てていて、授業で必要な知識(概念や考え方を含む)を身につけていれば解答できる仕様です。こっちでいいです。太郎さんと花子さんは来年はステイホームしていてください。