ぶんぶんの進路歳時記

学習方法、進路選択、世界史の話題について綴ります

コロナ禍の中の大学入試(総合型選抜とオンライン面接)

はじめに

 2021年度入学者選抜からAO入試は「総合型選抜」となり(中身は同じ)、願書受付は9月1日(今年度は文科省がコロナ禍に配慮(したふり?)して9月15日)以降、発表は11月1日以降となりました。

 多くの大学は前期はリモート授業、オープンキャンパスもウェブ開催など、なるべく学生や受験生をキャンパスに入れない措置を取ってきました。

 その影響は大学入試にも及んでいます。朝日新聞河合塾が合同で実施する「ひらく 日本の大学」の調査によると、総合型選抜の実施方法を「変更する」と回答したのが643大学中14%、「検討中」と合わせると33%にのぼります。

 参考

www.keinet.ne.jp

朝日新聞の有料記事

www.asahi.com

 総合型選抜ではその性格上面接が必須です。昨今の状況から面接をリモートで行う大学があるのですが、これが物議をかもしています。

 全国高等学校校長会(以下全高長)は10月22日付で文部科学省高等教育局長に、全国の都道府県協会の調査に基づいた要望書を提出しています。

*全高長が提出した「英語成績提供システムを見直して」の要望書は代理が玄関先で受け取ったのに、私立中高連の「そのまま実施」要望は大臣自ら大臣室で受け取りました。定期的蒸し返し(#゚Д゚) プンスコ!

 今回はこの要望書をベースに、『AERA』2020年11月9日号の記事も参考にしつつ、オンライン面接で何が問題になっているのか整理します。 

全国高等学校校長会 「全高長意見・要望」→「2020年度」

www.zen-koh-choh.jp

アエラドットにあがってました。私は買いましたよ!

dot.asahi.com

目次

 

1 生徒自宅をオンラインによる面接試験会場に指定

 ぶんぶんは「入試は大学と受験生の契約のもとに行われるもの」と考えます。

 募集要項の取り寄せ、出願、受験料の支払いは受験生本人が保護者の了解のもとに行い、会場への交通費や宿泊費は受験生側が負担します。

 その理屈で言えば、オンライン面接も受験生が端末を用意し通信料は自分持ち、受験も自宅または大学が用意した場所が適当と考えます。

*ぶんぶんの自治体では高校のオンライン授業が受けられない家庭を対象にパソコンやモバイルルーター(契約は保護者負担)を貸し出しています。

① 回線は大丈夫?

  要望書にはこうあります。

生徒の自宅を試験会場とする場合には、自宅の通信環境が整っていること、個人所有のカメラ付きパソコン又はスマートフォン等を用いて静かな環境の部屋で試験を受けることが必要である。生徒は必ずしもこうした環境下にいるわけではない。また、生徒のプライバシーを守ることにも不安がある。 

 名桜大学は一般選抜でオンライン面接を実施予定で、詳細なQ&AやマニュアルがHPに掲載されているので参考にします。

十分な通信速度を確保するため、光ファイバー回線などの高速、かつ有線のインターネット環境が理想的です。Wi-Fi(無線)やモバイル回線(携帯電話会社提供の回線)を使うこともできますが、通信速度は最低でも 8Mbpsは必要で、20Mbps以上あれば理想的です。また、Teamsでは、音声・映像 1時間あたり 690~810MBの通信量が必要とされています。モバイル通信を利用する場合は、通信量制限によってビデオ通話が途切れることがないよう、ご自身の契約プラン・利用状況を事前にご確認ください。

www.meio-u.ac.jp

  ぶんぶんの自治体も休校中にオンライン授業を実施しましたが、家庭によって通信機器や通信回線に差があります

 学校の授業なら途中でフリーズしても後で聞けばいいですが、面接試験は一発勝負、固まったら一大事です。それが理由で不合格にはならないと思いますが、受験生は動揺します。

② プライバシーは大丈夫?

 同じく名桜大学のQ&Aより

オンライン試験の最中に第三者が立ち入らない静かな環境で受験してください。その環境を確保できるのであれば、自宅でもかまいません。

※不正防止の観点から、オンライン試験を開始する前に、環境確認(オンライン試験で使う場所の確認)のため、ウェブカメラ(内蔵カメラ含む)での撮影を依頼します。プライバシーに関わるものが映らないようにご注意ください。

 船場吉〇の女将みたいな人が横にいないか、試験場所を確認するということです。しかしそれだと自室に置いてある本(思想信条にかかわる)や自宅の経済状況がわかるようなものが映り込む可能性があります。

 それを判断の材料にしないでしょうが、入試は性悪説で行うべきです。名桜大学は、自宅が難しい場合は相手の了解の上ホテルなどを借りて行なうことも可としています。それなら身バレしないしパソコンも借りれて高速ネット回線も使えます。

*「バーチャル背景で窓の外にプール付きの庭が映り込めば!」と思いましたが名桜大学は「バーチャル背景は不可」です。(´・ω・`)

f:id:tokoyakanbannet:20201103225237p:plain

2 高校をオンラインによる面接試験の会場に指定

 「高校なら問題はないだろう」という判断からか、一部大学は高校でオンライン面接を実施するよう求めているそうですが、それも問題があります。

 要望書では次のような点が指摘されています。

  1.  ICT環境やオンライン回線が不十分であったり、不安定であったりすることにより、大学が求めるオンライン受験の環境を整えるのが困難であること。
  2. セキュリテイ上の問題や試験実施時にトラブルがあった場合、責任の所在が不明確であること
  3. 土曜日、日曜日に実施する際に、予め計画されている学校行事や保護者会、学校説明会、部活動等の実施により、静粛な環境を整えるのが困難であること
  4. 土曜日、 日曜日に対応する教職員の服務に課題があること
  5. 学校によっては、数十名のオンライン面接に対応しなければならないことが考えられ、適切な実施が困難となる状況があること

① 学校でできる?

 平日(私立は土曜日も)が試験日の場合、授業と並行してオンライン面接を行うと、チャイムはなるし休憩時間は移動でガヤつくし「3年A組ぶんぶん、すぐ職員室に来なさい!」とか聞こえます。ネット環境があり静粛にオンライン面接をできるスペースは高校では限られます

 またそうした施設を生徒が勝手に使うわけにはいきません。教員がつくにしても授業があるし、複数の大学を何人かが受験すると人手が足りません。

 休日の場合は教員は時間外労働になり、勤務時間削減の流れに逆行します。

 要望書によると、ある芸術大学は選抜が土・日の2日間にわたり、それぞれ9時から16時半までの間、Zoomはつなぎっぱなし(講義に参加した後作品を描き、それを教授に見せる。さらに集団面接・グループディスカッション)、2日間とも担任が出勤したそうです。┐(´д`)┌ ヤレヤレ

② 回線は大丈夫?

 自治体によって高校のネット環境は違いますし、高校によっても様々です。

 「高校ってどこでも高速無線LANだよね?」と誤解している人がいますが、ぶんぶんの高校はながらく教室には有線LANの口が一つだけ、やっと先日無線LANが開通しましたが、授業用なので使用端末やアクセスポイントが限定されます。

 無線LANを自由に使える高校でも、授業で一斉に使うとものすごく遅くなり、その横でオンライン面接をしたら画面カクカクです。

 「高校の回線を使えば自宅の経済状況に関わらず受験できる」と言われたらそうなのですが、学校によってインフラに差があるのが実情です。

f:id:tokoyakanbannet:20201104182020p:plain

③ 生徒(と教員)の負担

 ぶんぶんの高校も休校中に担任がオンラインで生徒の面談を(カクカクの画面で)行っていましたが、生活相談と受験は全く別です。また対面式の面接とオンライン面接では勝手が違います。

 さらにプレゼンテーションや演奏を動画に撮影して送付するのは生徒だけでは無理なので、教員の負担が増えます。

まとめ

 大学は前期はほぼオンライン授業でしたし、「高校もオンライン授業していたから受験もオンラインで可能」と思うかもしれませんが、授業と受験は違いますし、まだ在籍すると決まったわけでもない受験生に在学生と同じ要求をするのはどうかと思います。

 ぶんぶんはこれまでたくさんの大学入試課の方と懇談をしていて、ハンディキャップに対する配慮を最大限行なっていただいています。

 オンライン面接も、受験生が希望する場合は対面で実施するなど配慮をしていただきたいです。

 また「総合型選抜」はペーパーテストだけでは測れない受験生のよい点を大学のアドミッションポリシーに照らし合わせて評価するのが目的であって、「デジタルスキル」は含まれないはずです。

 大学には面接で評価する点について評価し、物理的なエラーやそれに伴う受験生の動揺は評価に含まないようにお願いします。

おわりに

 昨今「大学に入れないのに設備費取るとかおかしい」など大学と学生(と元保護者)の対立を煽る報道が見受けられますが、文科省(と財務省)がほくそ笑むだけです。同じように大学と受験生(と保護者)と高校が争っても意味ありません。

 大学も突然降ってわいた文科省の「リモート授業しなさい」で疲弊していると聞いています。文科省がお金を出さないので大変でしょうが、それは高校も同じです。

 まあ高校の先生は生徒のために時間外労働を厭わない人は多いですが、「善意に頼る」制度設計はよろしくありません

 一般入試の募集要項が発表される時期ですが、大学におかれましては、今一度「それ受験生はできるのか」「代替の方法は用意されているか」お考えいただき、高校生および高校に過度な負担が及ばないようにご配慮願いたいです。