はじめに
新聞報道によると、安倍首相は6月8日の衆院本会議で、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、大学入試に関し、日程や出題範囲などを盛り込んだ対応策を2020年6月中にまとめる考えを示したそうです。
ΣΣ(゚д゚lll) 何を悠長な? この時期私立大学は入試ガイドを出しているし、入試選抜要項もいつでも出せる状態のはず。
また本会議で首相は「高校生の意見も聞いている」とも言ってましたが、おそらく「文科省が5月末に全国高等学校長協会に対して依頼したアンケート調査」のことで、高校生の声を直接調査するように指示した訳ではありません。
6月末には「大学入試選抜大綱」が発表されますが、今年は共通テストに新様式の調査書と変更が目白押しです。高校の約三ヶ月の休校はかなり痛手です。
しかし文科省と大学入試センターは何事もなかったかのように大学入学共通テストを予定通り実施するつもりです。説明協議会は中止です。
(゚Д゚)ハァ? 実際に会場に行けばわかるのですが、電車は満員(この日を痴漢が狙っているらしい。(#゚Д゚)ユルサン!!)、暖房の入った待機場所も密です。「受験教室を増やせば解決」する訳ではありません。
とにかくこの入試改革は、結論ありき、理念を制度に落とし込めない(理念すら結論から後付けでは?)、利益誘導疑惑その他批判には応じないし決めたことは変えない、結局直前に破綻、の繰り返しです。
今回は共通テストが通常開催された場合に備えて、全国の教員や生徒がぼんやりと抱いている疑問や不安について、旺文社の蛍雪時代2020年5月号と河合塾のHP、東進のパンフを参考に解説します。
1 センター試験→共通テスト 変更なし
① 日時
毎年1月13日以降の最初の土曜日及び翌日の日曜日
(2020年度は2021年1月16、17日)。
② 活用方法
すべての国公立大学が一次試験として利用。私立大学も利用。
③ 試験範囲
現行の学習指導要領にもとづき、教科書の範囲内から出題。*1
④ 試験方法
すべて「マークセンス方式」
*1 ただし共通テストそのものが新学習指導要領の先取りなので、しれっと範囲外がでる可能性は捨てきれません。
参考 センター試験のシステム。
bunbunshinrosaijki.hatenablog.com
2 センター試験→共通テスト 変更あり
① センター試験より難しくなるの?
センター試験は平均点6割目標、共通テストは5割目標の予定なので、難しくなるといえます。
1)読む量が増える
「太郎さん・花子さん問題」と呼ばれる、先生と生徒の「アクティブラーニング」や、数学や理科の「実用的な場面」など、架空のシチュエーションを読んだ先に問題があります。つまり「読解力」と「読むことに対する耐性」が必要です。
こういう人には過酷です。
国語は、通常の入試はひとつの文章の中で同意反復部分を探すことがメインですが、共通テストは複数の文章を読み、同じ(違う)内容や根拠(反証)を探す問題がメインになります。
英語(リーディング)は6問すべてが読解問題なので、最後の方になってくると疲れてくるし時間が足りなくなってきます。
センター試験の英語は前半部を「ここは俺に任せろ、水鳥拳!」とばかりに始末して後半の問題に取りかかれたのですが、共通テストの英語は小ボスが並んでやってくる感じです。
2)知識の理解と知識の活用
共通テストの最大の狙いです。
世界史の試行調査では、「冊封体制」「総力戦」などの概念知識の内容がわかっていないと解答できない問題が増えました。つまり用語を「知っている」ではなく「意味を理解している」必要があります。
また初見の資料(史料)が出題され、学習した内容からその意味を類推する設問があります。*2
*2 第一次世界大戦が勃発すると、各国は自国の正当性を主張し、「総力戦」のために野党と政府の政争や労働者と資本家の対立が一時停止され(今は梅とかそばの話をしている時ではない?)国に協力しました。ドイツでは「城内平和」と呼びます。第1回試行調査(大学入試センターのHPより引用)
3)リスニングの分量と配点が増えて一回聴きが登場
大問が4から6に増加し、聞き取りに文法知識も必要*3、後半の問題は「1回聴き」、配点が100点とリーディングとの比率が1:1になりました。
*3:試行調査第1回第1問のB、”The man is going to have his house painted.”
まとめ
「読む」「聴く」という勉強の基本を授業の中で育み、「納得するまでが学習」と心得ている人にとっては共通テストは難しくありません。
一方で「定期考査は一夜漬け」「直前に過去問で出題パターンを覚える」という「その場しのぎ学習」を続けてきた人には難しくなったといえます。
② 過去問がないけれどどうしたらいい?
試行調査2回分(2回目の方がより本番に近い)と最後のセンター試験(科目によっては共通テストを意識している)の3つをやってください。
センターの過去問も5年分は演習に使えます。業者の共通テスト対策本を見ると、センターの過去問から似たような問題を拾っています。
ただし国語は記述式廃止で問題を差し替えるため、本番はどうなるか不明瞭です。
必要な知識や理解はセンター試験と大きく変化がないので、まずは基本(語彙、文法・語法・公式)を徹底し、学校で購入する対策問題集で勉強してください。
③ 去年のセンターボーダーは当てになるの?
センター試験は平均点6割を目標、共通テストは5割目標なので、単純計算だと去年のボーダーに5/6を掛けた数字になりそうですが、当面は去年のボーダー得点率を目標にしてください。
先述のように共通テストは成績上位層には難しくないので、最難関・難関にはあまり影響がないと考えます。
一方これまで「直前のパターン丸覚え」で点数を膨らませていた学力層は影響を受け、彼らが志望する大学のボーダーも変化するでしょう。
最後のセンター試験が共通テストの先取りをした結果、東海地方では名大・名市大・名工大志望者が点数を減らしました。その一部が三重大学に殺到してボーダーが上昇したそうです。
最新のボーダーについては、夏休み以降の正規受験で開催される模試の結果を参考にするしかありません。
④ 共通テストの準備で大事なことは?
従来は高校で知識や教養(コンテンツ)を身につけ、大学でより専門的なことを学び、企業で実社会に役立つ成果を出す(コンピテンシー)という分担がありました。
ところが昨今、企業が自前での教育を放棄して大学に即戦力を求めるようになり、その「玉突き」で大学が高校生にコンピテンシーを求める、というのが現在の(経産省主導の)大学入試改革の基本構造です。
試行調査の問題を見ると、教養よりも実生活に役立つことが重視される、情報を吟味するというよりはスキャニング、という傾向です。教科によっては(特に国語と英語)出題者が強迫観念にさらされているようで、お身体が心配です。
じゃあ「実用的な文章を読むテクニックがつけば点数が上がる」かというと、そうではありません。
1)「覚える」ではなく「考える」ことに慣れる
共通テストでは「実社会の場面」を想定して「複数の資料が示す情報とすでに知っている知識を組み合わせる」ことが求められますが、肝心の知識がなければどうしようもないです。
みなさんは授業で必要な知識や教養を身につけながら、常に「頭を使う」(論理だてて考える、複数の知識を比較し関連づける、自分なりのコメントをつける)ことを習慣にしてください。
2)問題パターンではなく、「読む」ことに慣れる
共通テストでは全科目でリード文の分量が増えています。文章量が多いと途中で嫌気がさしてくる人もいるかもしれませんが、大学に行けば「来週までにこれとこれと読んできて」は当たり前です。
「与えられた課題が何を書いてあるか」と「なぜ私にこの課題が与えられているか(何が問われているのか)」のふたつをすばやく読み取れるようになるには、やはり時間を使って量をこなし、慣れるしかありません。
まとめ
新しいテストであるため、これまでのパターン反復練習で直前に点数を膨張させる作戦が使えない、その分授業の段階から「知識・ロジック・関連づけ」を習慣づける必要があります。
ただ『ドラゴン桜』の新版に「『入試が変れば教育が変る』は幻想。すぐに対策が追いつく」みたいなことが書いてありました。たぶん5年もやれば共通テストもパターンバレして、「頻出ロジックを丸暗記する」対策が生まれるでしょう。
まるで「生徒が大人の求める主体性を演じる」のと同じです。
私は経産省の「反知性主義的傾向」と、それに抗えない文科省の態度にうんざりしますが(出口治明さんの爪の垢を煎じて飲むべき)、高校生のみなさんはこれを機に学習習慣を見直しましょう。
過去回
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