2020年度(2021年度入学者選抜)からの「大学入学共通テスト」で実施予定の国語と数学の記述式、制度として破綻している事実が次々と明らかになっています。萩生田文科相は「年末までに結論」と発言しました。しかし、
「二年前ルール」は?
(入試で大きな変更がある場合は二年前に準備万端整えて発表)。
試験まであと1年と1ヶ月です。チコちゃんに叱られます。と思ったら12月12日に次のような記事が。
推移を見守りつつ記述式の問題点について考えます。第2回です。
前回
bunbunshinrosaijki.hatenablog.com
目次 (リンクしません)
1 前提がやばい(前回)
2 問題がやばい(前回)
3 採点がやばい←今回
4 自己採点がやばい
5 利益相反がやばい
3 採点がやばい
①採点業者が試験前に問題と正答例を知っている
「大学入学共通テストにおける「国語」及び「数学」の記述式問題採点関連業務に係る仕様書」
(2) 本試験実施前までに、採点に関する以下の準備を行うこと。
① 本試験及び追再試験の正答の条件及び採点基準(試験実施前版)の作成への助言及び採点マニュアル(試験実施前版)の作成
ア.センターが作成する正答の条件及び採点基準(試験実施前版)に関し、センターが設置する採点基準策定委員会(仮称)に出席し、採点の観点から助言及び提案を行うこと。
イ.採点者が正答の条件等に基づき正確な採点を行うことができるよう、採点マニュアル(試験実施前版)を作成すること。なお、採点基準と関わりのある採点マニュアル(試験実施前版)の内容については、採点開始までに採点基準策定委員会(仮称)において協議し、確認すること。
ん~?
大学入試センターは「問題と正答例を事前に教えて採点マニュアルを作らないと、20日間という短期間で大量の採点を行うことはできない」と言っています。
百歩譲って「問題の漏えい」はないとしても(疑われるだけで本当はアウト)、業者に正答例や採点基準に「助言」すると、その業者が採点しやすいように基準が改変される懸念があります。
またその業者の模擬試験の採点傾向が反映される可能性も否定できません。それは利益相反行為に当たります。アクティブ(業者がそれをウリに営業をする)、パッシブ(高校が生徒に高得点を取らせるべくその業者の模試を受けさせる)両方です。
* 文科省およびベネッセコーポレーション(以下「ベ社」)によると、ベ社と、採点を受注した「学力評価研究機構」は別なのでその批判は当たらないそうですが、11月の衆議院参考人質疑でベ社のカンパニー長が「弊社が受注した」と公言していましたし、また学力評価研究機構の社長はベ社商品企画開発本部長です(指摘されてから解消したそうです)。
②50万人規模の記述式の採点を正確・公平にできる?
仕様書
(3) 本試験実施及び追再試験実施後に、以下の業務を行うこと。
① 本試験及び追再試験の採点基準、採点マニュアルの確定
試験終了後から採点開始前に、前記(2)の①ウにおいて承認を受けた者が出席する採点基準策定委員会(仮称)において、受験者等の答案を踏まえ、採点基準(試験実施前版)が更新・確定される。更新・確定された採点基準を踏まえ、前記(2)の①ウにおいて承認を受けた者は、採点基準策定委員会(仮称)に出席し、採点基準と関わりのある採点マニュアルの更新案を提案すること。
② 本試験及び追再試験の採点(一般受験者の答案)
ア.採点作業は、設問毎の答案を正答の条件等に基づいて判断し、センターが指定した段階等に分類することにより行うこと。
イ.一次採点は複数名で独立して行うこと。その際、複数名の採点結果が異なる場合等には、採点監督者が採点結果の確認や不一致のあった答案の採点などを行い、独立して採点した結果が一致するまで当該答案に対する採点作業を行うこと。
ウ.採点作業中に適宜、採点結果の品質チェックを行うとともに、その結果を採点作業の改善につなげるなどにより、採点の質を確保すること。特に、採点作業の初期段階においては、品質チェックを充実させるとともに、必要に応じてセンターと協議し、採点マニュアルや作業方針に係る調整を行うなど、採点作業を円滑に実施するために必要な取組を行うこと。
エ.設問ごとに、繰り返し採点結果の品質チェックを行い、誤りなく採点を行うこと。また、その信頼性を示す資料をセンターに提出すること。
オ.採点開始後可能な限り速やかに行われる、センターにおける採点状況の点検(再採点状況の点検を含む)に応じること。なお、点検の際には、センターが指定する答案を抽出し、前記(1)の②のデータ共有及び点検機能等を用いて表示しながら質疑応答等を行うことができるようにすること。
カ.採点期間中は、採点状況について、センターの求めに応じて、随時、センターが指示する方法により報告すること。
ん~??
記述式では不規則な解答が当たり前です。国語は言葉の使い方で微妙に意味が変わりますし、数学もその答えに至るには無数のルートがあります。
一般的な大学入試の採点はおそらくこうです。
- 問題作成者が正答例および採点基準を作る
- 採点者が解答用紙のサンプルを見ながら議論をして、「これだと正答でこれは誤答」というより細かい採点基準を決める
- 採点中に予想外の解答が出てくれば時間をかけて議論し、正答か誤答か判断する。
- 判断の結果採点基準が変われば、今までの答案をすべて見直して、同じ解答に対して同じ点数をつける。
- 以下この繰り返し。
この仕様書では3.4.の工程がありません。
上位の採点官は複数の採点官の「ずれ」は見ますが、その答えが正答か誤答かどうかの方が重要です。
微妙な答案に〇をつければ、新しい採点基準を全採点官が共有し、いちから答案の見直しをする、この「同一の答えは同一の点数」は入試の公平性を担保する最も重要な部分です。49万9999枚目に「工工工エエェェ(゚Д゚)ェェエエ工工工」という答案が出ても同じです。
東京大学は教員総掛かりで3000枚程度が限界とのこと、50万枚はその167倍です。
私はこの点から「50万人分の記述式を20日間で短時間で正確に公平に採点するのは無理」と判断します。
12月6日の野党合同ヒアリングで、センターの人が言うには「毎朝ミーティングで採点官に新しい採点基準を周知する」そうです。( ´_ゝ`)フーン
③採点者は誰?
「ベ社」カンパニー長は衆議院の参考人質疑で「すでに2万人の採点者を確保している」と胸を張りましたが、衆議院の文部科学委員会で野党議員が「彼らがどういう人で、そのうち高校生の答案を採点したのが何人なのか」と質問したところ、大学入試センターの伯井氏は、
採点事業者がどのような属性の採点者を現に確保しているのかにつきましては、営業上の秘密に関する事項ということで、お答えは差し控えさせていただきます。
え???
大学の記述式は所属の教員が採点します。顔と力量(学問と採点は別かもしれませんが)が見えるので、不合格になっても納得できるものです。
国公立大学の一次試験は公的な行事です。企業秘密をタテに採点者の属性や能力の公開を拒むのはおかしいので公開してください。
仮に大学生、大学院生だとすると、1月末の忙しい時期に最低賃金で20日間拘束は非現実です。
12月9日のヒアリングでセンターの人は「採点の品質向上のために毎日採点者がテストを受け、合格した人しか採点させない」と言ってました。それ、誰が採点するの?
④採点ミスがやばい
第200回国会 文部科学委員会 第8号(令和元年11月20日)
義本参考人 平成二十九年度の試行調査における国語の問三、すなわち、百二十字程度の上限の問題でございますけれども、その検収結果につきましては、検収件数約四千件中、補正件数が二十五件となっているところでございます。
川内委員 大臣、四千件中の二十五件が採点ミスでしたと。
しかし、実は、これ、検収した後、要するに一回採点を終わった後、全部採点した後、更に再採点後の検収というのをこの一回目の試行調査ではやっているんです。再採点の後の結果の検収。
そうすると、国語の問三は、何件中何件、採点ミスが出ていますか。二回目の採点ミスです。
義本参考人 採点結果の検収で検収を行った解答以外を対象にいたしまして、国語の問一から問三まで含めて再検収、約五百件でございますけれども、そのうち、問三につきまして補正を行いましたのが九件になっているところでございます。
川内委員 だから、一回目の採点ミスのパーセントより、二回目、全部終わった後、もう一回やりましたら、採点ミスの確率が上がっちゃったという話ですよ。
思考力も表現力も試せないのに採点ミスは不可避、共通テストで記述式を行う理由が見当たりません。
さらに、野党合同ヒアリングで議員が「ベネッセの模試で採点ミスはどれぐらいあるのか」と質問したところ、センターの人は教えてもらったけど「企業秘密だから教えられない」とのことです。
ん~???
仕様書
(「第6 業務の内容の詳細」に関すること)
(5) 採点者の質の向上に関する工夫
採点者の経験年数や常時確保可能な採点者の人数など、高い質を有する採点者の確保の方策(質・量)、共通テストにおける採点日程や採点方法を踏まえた採点者の質を更に向上するための方策、採点ミスを防止するための方策などについて、独自の工夫があれば、優先順位をつけた上で、根拠に基づいて具体的に記載すること。
「弊社では過去この程度の採点ミスが出ていますが、次のような方法で採点ミスをゼロにします」が誠実な対応です。
どんなイレギュラーな要望にも応えていただける、困った時は様々な情報を教えていただける、いつものベネッセさんに戻ってほしいです。
まとめ
- 問題と正解を業者が事前に知ることによる情報漏洩と利益相反が懸念される。
- 50万人規模の採点を正確・公平・迅速に行える見通しがない。
- 質の高い採点者を1万人集められる保障がない。
- 採点ミスを完全に防ぐことができない。
- 受注情報を業者が開示しない。それについて文科省やセンターが指導しない。
採点結果が信用できない入試は入試ではありません。やばいではなくこの時点でアウトです。
もう結論が出ましたが、続く
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