混迷を深める大学入学共通テストと英語民間検定・英語成績提供システム、8月の終わりに動きがありました。
柴山昌彦文部科学大臣は8月22日の記者会見で、高校関係団体からの「不安の解消」を求める要望書を受けて「資格・検定試験の日程や会場を含めた実施概要や、各大学の活用見込み等のなど関連情報を取りまとめて、文部科学省のホームページ上で提供する」と発表しました。
これまで文部科学省における関連情報提供がですね、高等学校関係者に対して、十分な提供がなされていなかったということから、不安の声が出ているということに鑑みまして、まさしく受験生や教職員に向けて関連情報を整理したかたちで分かりやすく提供するなど、丁寧な情報発信に努めていきたいというように考えております。
また記者からの「高校現場には十分な体制が整わないのであればいっそのこと見送ったらどうかというような、ちょっと強めな意見などもある」という質問に対して、
グローバル化が進展する中で、英語によるコミュニケーション能力の向上が求められており、高等学校学習指導要領においても、4技能を総合的に育成することが求めてられていることから、大学入学者選抜でも4技能を適切に評価することが我が国の英語力の向上のために必要だと考えております。そのため、各大学の入学者選抜における英語4技能評価を支援するために、大学入試センターが資格・検定試験の成績を一元的に集約して、大学に提供する「大学入試英語成績提供システム」をまさに構築をしているところでありまして、その重要性等に鑑みればですね、これをしっかりとスケジュール通りに実施をするということが重要だと考えておりますし、現在、それに向けてセンターとも連携をして全力を尽くしているところでございます。(下線筆者)
http://www.mext.go.jp/b_menu/daijin/detail/1420463.htm
現場の不安は「文科省が十分に関連情報を提供していなかった」のが理由で、このポータルサイト開設で不安が払拭される、という話です。(`・ω・´)
大学教員からは用途の異なる検定が第三者の精査を経ないまま一世代前のCEFRに換算し(時々しれっと変更)、そのCEFR評価を等価値とみなして一般入試の合否判定に使うことに疑問の声が上がっています。
高校教員は、地域によって受験できる英語検定に差がありその結果も生徒の英語力を正確に反映しているか疑問、高校の授業が検定対策になり「生きた英語」の学習が減れば4技能育成には逆効果、と考える人は少なくありません。
この「今のシステムでは4技能を適切に評価できない」は「情報公開」以外の方法で払拭すべきと考えます(文科省が関係者を除いた第三者委員会で検定の内容・採点・評価を精査する)。
この点に関してコメントはなく、ただ「グローバル化」という外圧理論(または「4技能教」)で「4技能を入試で課すことは必要だ」の一点張りです。
さらにツイッターでは制度に疑問を投げかける声に対して「サイレントマジョリティーは賛成」とリプし、予定通り実施する方針です。(´・ω・`)
今回の制度に対する批判の多くは「4技能そのものの意義」ではなく「システムに問題がある」(入試の公平性を破壊するだけでなく4技能の育成にもならないのでは)なのですが、「主体的で対話的な深い学び」を標榜する文科省のトップとは話がかみ合いません。
*発展:会見はテキスト化され「キーワード」がつきます。「埼玉県知事選の応援演説において大臣に抗議する学生が排除されたとの報道に関する件、大臣がサイレントマジョリティは賛成ですとリツイートした件」と担当者の「通常運転」がシュールです。
柴山昌彦文部科学大臣記者会見録(令和元年8月27日):文部科学省
また大臣は「エキスパートは賛成」と雑誌記事をツイッターに貼り付けていますが、賛成・反対両論載っているのに賛成部分(しかも政府に近い人)だけを切り取っています。文科省が共通テストの目玉とする国語記述式は「複数のテキストを批判的に吟味する」なので、これも不合格です。
まあ百歩譲って、このポータルサイト(というかリンク集)で不安が払拭されるかポチってみました。
み、見づらい!Σ( ̄ロ ̄lll)
当ブログも読みにくいことでは人後に落ちませんが(笑)、各大学の「検定の利用状況」は「こんなの読めるか (# ゚Д゚)!」ってPCを投げたくなります。
更新履歴もサイトの外ではなく本文中に「*〇月〇日訂正しました」とあるだけで、「知りたいって言ったのはあなたたち。毎日チェックすれば」的な塩対応です。
やっつけ仕事?(小声)
*聞こえたみたいでQ&Aも追加されました。でも「センターの資料のここに載ってるんだけどみてないの?」とでも言いたげに該当のリンク先に飛ばされます。
とはいえ「中の人」の頑張りで各大学の検定利用状況や、検定団体の日程と成績提供時期など基本資料になってます。これを見て新聞各紙は「3割の大学が利用方法未定」と報じました。
校長先生、不安は払拭されましたか?
2 英検協会、全国で説明会を実施
公益財団法人日本英語検定協会(以下「英検協会」)は8月下旬から主要都市で「2020年度大学入試英語成績提供システム利用型英検各方式実施方針の説明会」を開催しました。
知り合いの先生と保護者に参加を依頼しましたが、各会場あっという間に満席、参加した予備校関係者から話を伺いました。
基本的に英検協会のサイトに上がっているyoutube動画と一緒だったそうです。これは埋め込みだから英検さんOKですよね!
【全体版】大学入試英語成績提供システム利用型 英検各方式実施方針の説明資料
新テスト向けの説明なのに、要所で「従来型英検はなくなりません。成績提供システムを介さない入試では引き続き利用が可能です」という宣伝がつきます。
英検の日程と段取り。文科省の「ポータルサイト」にあるpdf、細かい!
英検CBT 1日完結型 3級~準1級(当初の「2級」がしれっと変更)
- 4技能ともパソコンで実施
- 受験機会は、成績提供システムに使うなら第1回検定期間が4月から7月の4回、第2回が8月から11月の4回。日付は上記参照
- 各検定期間の中で各級1回受験可能。例えば4月に準2級、5月に2級を受験するのは可能
- 15の都道府県、テストセンターで実施
- 料金は準1級9,800円、2級7,500円、準2級6,900円
- 申し込みに予約は不要。おおむね実施日の2か月前から申し込み開始(正確な日時は動画のシート29参照)
パソコンに慣れている、大都市に住んでいる人向けです。予約なしで指定された日の中から都合のいい日を選ぶのはある意味当たり前。
英検2020 1day S-CBT 1日完結型 3級~準1級
- リーディング、リスニングはマーク式。ライティングは記述式。問題はパソコン上。マウスで線を引いたりはできる
- スピーキングはパソコンへの吹き込み
- 受験機会は、第1回検定期間が4月から7月、第2回が8月から11月。土日および平日の夜に実施
- 各検定期間で1回の受検。4月に準2級、8月に2級みたいな感じ
- 全国186エリアに約260のテストセンターを設置予定
- 申し込みは、第1回検定期間が予約2019年9月、本申し込み2020年2月、第2回が予約2020年1月、本申し込み2020年6月
- 予約申し込みの120%のキャパを確保、予約した人のみが本申し込みできる
- 予約時には受験者情報、受験希望級、希望場所を入力。予約金3,000円を支払う
- 本申し込みで受験日時、級、場所を入力。ただし先着順。検定料(3,000円を差し引いた残り)を支払う
- 料金は英検CBTと同じ
- 当日病気等で欠席しても振替はできない。お金も返ってこない
- 現在の高校三年生は2020年3月下旬から4月上旬に第2回検定期間の予約ができる。第1回については前向きに検討中
英語成績提供システム用本丸です。英検の中の人は「従来の英検と内容、形式、内容全く変わりません」と言っています。
確かに解答は紙に書く(PBT)ものの、パソコンで問題を見たり、マウスでアンダーラインを引いたりするのは慣れが必要です。
なお英検協会のサイトに「英検CBT」の体験版があるので練習してください。
また「予約をしないと本申し込みできない」ので、第1回を受験して不合格が判明した時にはすでに予約も本申し込みも終了しています。だから2回受験するなら1回目の受験前に2回目も予約と本申し込みをする=2回分フルでお金を払う必要があります。
ディオ様に「無駄無駄無駄無駄ー!」って言われそうです。
なお英検協会は予約の集まり状況を見てテストセンターを確保するそうです。その予約金が会場、パソコン、仕切りのついた机を調達する原資になるのでしょうか。
自転車操業?(小声)
もしそうなら、「共通テストに英語民間検定を使う」と発表された直後に大量のタブレットを発注した(と営業さんが雑談で言ってました)某社さんとは営業力と財務力で太刀打ちできないです。
英検2020 2Days S-Interview 3級~1級
- 吃音など合理的配慮を必要とする人対象で、予約申し込み時に特別申請が必要
- 3技能は紙に解答、スピーキングは対面式
- 会場は全国400か所、おそらく従来型英検と同じ
- 日時は従来型英検と同じ。第1回は3技能5月31日、スピーキング6月28日。第2回は10月1日、11月8日
- 料金は他の新英検と同じ。1級16,500円
- 申し込み方法は英検2020 1day S-CBTと同じ。第1回検定期間が予約2019年9月、本申し込み2020年2月、第2回が予約2020年1月、本申し込み2020年6月。予約金3,000円、返還しないも同じ
4 大学入試センター、3団体と協定を締結
8月30日に大学入試センターは、英語成績提供システムに参加する検定6団体のうち、ケンブリッジ英語検定、IELTS(オーストラリアの方)、 GTECの主催団体と協定書を締結しました。
のこり3団体のうちIELTSとは合意済み(形式的な手続き待ち)、TOEFLと英検とは大枠で合意したそうです。
https://www.dnc.ac.jp/news/20190830-01.html
本来は「特別措置の生徒は高校2年生の検定も可」ですから、昨年度末に協定が締結されてしかるべきです。それがいつの間にか「7月末」になり、センターと検定団体の「後出しじゃんけん大会」を経て、やっと合意となりました。
英検さんは説明会で「従来型英検はあります!」と訴えているし、TOEFLさんは留学用として定評があるので、個人的にはもう4団体でやってもらって構わないし、むしろその方がこの制度の闇が明…、と思ったら英検の予約は9月18日からだそうです。
参考
英語成績提供システム
http://bunbunshinrosaijki.hatenablog.com/entry/2019/07/15/090915
英語民間検定を共通テストに使う問題点
http://bunbunshinrosaijki.hatenablog.com/entry/2019/06/23/194009
全国高等学校協会の訴えなど
http://bunbunshinrosaijki.hatenablog.com/entry/2019/08/16/181959
クリスマスローズさんの「英検CBT体験版」レポート