ぶんぶんの進路歳時記

学習方法、進路選択、世界史の話題について綴ります

2020年度の大学入学共通テストについて(2018年度版3 国語の記述式)

 2018年6月18日の大学入試センターの発表をもとに、高校一年生が受験する「大学入試共通テスト」(以下「共通テスト」)について整理します。

 今回は英語の外部検定と並ぶ「目玉」である記述式問題についてです。

 

 

公式発表 資料1

http://www.dnc.ac.jp/news/20180618-01.html

試行調査の結果 資料2

http://www.dnc.ac.jp/news/20180326-01.html

前回

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Q7 国語と数学に記述式問題ってどうなるのですか?

A7 国語と数学Ⅰで、それぞれ小問3問の記述式問題が導入されます。特に複雑な国語について説明します。

形式

 20~30字程度、40~50字程度、80~120字程度を記述する問題がそれぞれ1問ずつ出題される予定です。数学は大問の中に記述式の小問がありますが、国語は大問1がまるまる記述式です。

解答時間の延長

 「国語」は20分増えて100分(数学は10分増えて70分)になります。

解答用紙

 解答用紙の中にマークシートと記述式の解答欄が設けられます。

問われる内容

 記述式の問題は実用的で論理的な文章が出題され、「テクストの内容や構造を把握し解釈すること、要旨を端的にまとめわかりやすく記述することを求める」とされています。

評価

 段階別評価が示されます。小問ごとに4段階表示、総合評価については80~120字程度を記述する小問についてのみ1.5倍の重み付けを行った上で5段階表示とすることが検討されています。

資料1 別添8のスクリーンショット

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採点

 民間事業者に作業を委託しながら、センターで行います。

自己採点

 記述式問題の正答の条件や段階別評価の基準がテスト実施後に公表され、受験生はそれを見て自己採点を行います。

成績の提供

 記述式問題の導入に伴い、センターから大学への成績提供時期は現行の大学入試センター試験よりも1週間程度後ろ倒しされる見込みです。

 成績については素点及び国語の記述式問題の段階別評価が提供されます(各科目についても9段階程度の段階別評価を検討中)。

 国語については古文、漢文の大問も含めた全体の素点の提供を原則とする予定です(参考として大問ごとの素点についても提供することも検討中)。

 

参考 2018年度の試行調査の内容 資料1より

(1)国語

 近代以降の文章(論理的な文章、文学的な文章、実用的な文章)、古典(古文、漢文)といった題材を対象とし、言語活動の過程を重視します。言語を手掛かりとしながら、与えられた情報を多面的・多角的な視点から解釈したり、目的や場面等に応じて文章を書いたりすることなどが求められます。大問ごとに固定化した分野から一つの題材で問題を作成するのではなく、分野を越えて題材を組み合わせたり、同一分野において複数の題材を組み合わせたりする問題も含まれます。

 

ん? ちょっと待って!

 

1 表現力ってどう評価するの?

 昨年の試行調査、場面は生徒会部活動委員会の執行部会で設問は次の3問でした。

① 生徒会規約のうち部活動設立の条件(50字)

② 部活動の兼部条件の見直し(25字)

③ 部活動の終了時間延長の妥当性と認めた場合に起こりうる課題(80字)

 

問題、解答例はこちら

www.dnc.ac.jp

 

 どれも誘導(①は新聞に載せる、②③は文中の空欄に嵌る形にする)にもとづいて、提示された資料から必要な情報を取り出して制限字数にまとめる形式です。

 さて高大接続改革の理想は学力の3要素(①知識・技能、②思考力・判断力・表現力、③主体性)を高校段階でバランスよく身につける、それを促すために大学入試でこれらを評価する、でした。

 しかし解答例を見ると、用意された正解がまずあって、誘導に沿ってつじつまが合うように資料から情報を抜き出す力が試されているようです。

 たしかに論理性も表現力のひとつですが、大人が用意した正解を探すだけなら従来のセンター試験と本質的に変わらないように思います(個人の感想)。

 ただこれはセンターのせいではなく、「入試選抜」そのものが「相対性と公平性」に縛られるからです。

 すなわち入試選抜は大勢の受験生を相対的に順位付けし、それに合否のラインを引きます。その「線引き」の前提は「試験が公正であること」です。

    その「公正さ」の前提が「正解」です。

    つまり50万人規模で実施される国家的共通試験で「多様な表現力や主体性」を評価するのは無理、試せるのは正解が示せる論理性ぐらいということでしょうか。

 

2  記述の採点って50万人規模で可能なの? 

 昨年の試行調査で問題になったのが「採点のぶれ」と「自己採点との不一致」です。

 採点についてはベネッセが委託を受けて、国語6.5万人、数学5.4万人の答案を約1000人で採点しました。

    採点基準を揃えるために1枚の答案を複数で採点し、一致しない場合は上位の判定者と協議して決めました。上位判定者まで回った答案は1割弱でした。

 さらにセンターが問題ごとに約4000~9000件の答案を抜き出してチェックしたところ、採点基準を明確にして判断を変えた答案がのべ85件ありました(資料2)。

 このためセンターは、業者委託はそのままですが採点に最初から関わることになりました。

 また今回の文書には「解答用紙の使い方」について長々と書かれています。生徒の書き方が悪いから採点がぶれたということでしょうか。

資料1 27頁のスクリーンショット

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*事前に準備すれば防げたことを「試行調査の成果」と言われてもね…。

    本番では50万人以上が受験します。採点者は数千人を確保するそうです。答案と採点者が増えればミスをゼロにすることはますます難しくなります。

    採点ミスを防ぐ方法としては「採点しやすい」つまり「指定条件をすべて満たすものが正解でそれ以外は0点」にするのが効果的です(数学はそれに近い)。

 

3  記述式の自己採点って正確にできるの? 

 自己採点については、調査によると不一致率は国語で21.2~30.5%、数学は4.0~10.6%でした(数学の方が一致率が高いのは「無解答」が多かったからという笑えない理由)。

 高校では生徒の自己採点が2,3点違うだけで先生に叱られるシーンを見かけますが、わずか1点が合否を分けるからであって、2割の生徒がずれたら(しかもそれが点数化される。後述)「出願指導」は一大事です。

 これも「こうとしか書きようがない」ものを正解として、それ以外はすべて不正解にすれば自己採点は正確にできます。

 

 このように入試の客観性をあげようとすればするほど自由度は減ります。

    高大接続改革の理想はグローバル化社会に対応する人材の育成のようですが、50万人規模の試験では、記述式のために膨大な労力とコストを投入しても従来どおり「用意した正解を見つける力」を測るのが限界と感じます(個人の感想)。

 

*問題に登場する場面は理想を反映してアクティブラーニングになっています。それって形(以下略)。

 話はずれますが、高校のアクティブラーニングで「色々な意見を言いなさい」と強要される割には先生の「正解」が用意されている、というのはあるあるです。

 

Q8 大学は記述の段階的評価を入試でどう使うのですか?

A8 国大協の基本姿勢は次のようです。

    国語の記述式問題の段階別成績表示については(中略)その結果を点数化してマークシート式の得点に加点して活用することを基本とし、加点する点数の具体的な設定については、各大学・学部等が主体的に定める。

    加点の具体的な方法については、例えば「総合評価」の段階別表示の段階ごとに加点する点数を定め、加点する最高点がマークシート式の得点と合わせた国語全体の満点に占める割合を(中略)適切な比重(例えば2割程度)とすることが考えられる。

www.janu.jp

  

 高校現場では、センター試験終了後に生徒に自己採点を行わせ、業者のサービスを使って国公立大学の出願先を決定します。

 すべてが点数化される現行制度とは違い、国語の段階別評価やCEFRも加算した上で(調査書も活用するならその情報も)A判定、ボーダーラインを判断することになります。

 

B社さん、K社さん、頑張ってください!

 

 また大学に共通テストの成績が送付されるのが現在の2月1日ぐらいから約1週間後ろ倒しになります。

 現在センター試験で一次選抜を行っている推薦入試は2月7日前後に二次面接を行っていて、2月10日までに合否を出しています。

 一週間遅れると2月17日に合格発表、前期試験の25日まで一週間です!

 また前期試験でセンター試験を一次選抜に使う大学も多数存在します。

 成績送付が後ろ倒しになれば他の段取りも遅れます。各大学がどうするか、公式の発表を待つしかありません。

 

まとめ

 色々明らかになってきましたが、問題山積という印象です。

 記述式は思考力や表現力を試すために有効なのは明らかで、大学の個別試験でどんどんやるべきと思いますが、国家的共通試験でそれをやろうとすると物理的に無理が生じて、妥協すればするほど趣旨が薄まっていくように感じます。

   高校一年生の皆さんは、今できることをしっかりやって入試制度の全貌が明らかになるのを待ちましょう。