2018年度、京都大学の世界史の問題を解きます。後編です。
前回
bunbunshinrosaijki.hatenablog.com
問題はこちらから
Ⅲ
200年にわたる中世ヨーロッパの十字軍運動の性格の変化。十字軍運動が中世ヨーロッパの政治・宗教・経済に及ぼした影響。
|
before |
after |
十字軍の性格 |
第4回十字軍 経済的目的 |
|
政治 |
封建社会 諸侯の勢力 |
諸侯の衰退 王権の伸張 |
宗教 |
教皇権の絶頂期 |
教皇権の衰退 |
経済 |
封建社会 現物経済 |
商業の復活 貨幣経済 |
解答例
十字軍運動はキリスト教の普及と生産力の拡大を背景に、聖地奪還を大義に教皇の東西教会の再統一や教皇権の拡大と諸侯の対外進出など宗教的政治的性格を持っていたが、第四回十字軍がヴェネツィア商人の求めでコンスタンティノープルを占領したように次第に経済的性格が強まった。十字軍運動の影響で封建的社会が動揺しはじめた。政治的には従軍で諸侯が没落する一方、十字軍を指揮した国王の権力が伸張した。宗教的には教皇権が失墜して教会大分裂や教会批判を招く一方、東方植民などでキリスト教世界が拡大した。経済的には北イタリア諸都市を中心に東方貿易が盛んになり、バルト海沿岸やヨーロッパ中部でも商工業や貨幣経済が活発化した。(298字)。
ポイント
授業で必ず習うところで与しやすかったのではないでしょうか。
要点だけ書くと300字を下回るので、解答例では背景や具体例を入れて、十字軍運動が封建社会が解体する端緒になった、という流れにしました。
阿部謹也先生の講義に参加したことがありますが、古来のヨーロッパも日本と同じく森に対する畏敬の念を持っていて(ケルト神話とか)、人間の世界=「都市」はいわば広大な宇宙=「森」の中に浮かぶ小宇宙みたいなもの、と言われていました。
映画なら『もののけ姫』や『ロード・オブ・ザ・リング』を思い浮かべてもらえばよいと思います(ヨーロッパは平地に森がある)。
ところがキリスト教は一神教、森の中の霊的な存在を認めません。
そこで修道院は修行の一環および経済基盤の確保のために森をガンガン開墾していきます(いわゆる大開墾時代。特にシトー派修道会は有名)。
そうすると森には神がいないことがわかります。
ふたつあると思われた世界は実はひとつ、農民も「それだったらキリスト教に入ろうか」と思うでしょう。
かなり乱暴かもしれませんが、三圃式などの農業革命とキリスト教の普及が同じ時期なのは、そういうとらえ方をすればイメージしやすいと思います。
阿部謹也さんは一般向けの本を多く書かれています。
こちらも
Ⅳ
問 | 枝 | 解答例 | 難 | |
a | アレクサンドリア | ◎ | ||
b | プトレマイオス | △ | り | |
1 | エウクレイデス | ◎ | ||
2 | 帝国貴族に軍役を負わせる見返りに国有地の管理や徴税権を認める | ▲ | ぜ | |
3 | アリストテレス | ◎ | ||
4 | ナポリ王国 | ○ | り | |
5 | 聖職者への課税権を巡ってフランス王フィリップ4世とローマ教皇ボニファティウス8世が争い、前者が後者をアナ-二に監禁し、憤死させた。 | ○ | り | |
6 | エラスムス | ◎ | ||
7 | カール5世 | ◎ | ||
8 | ツヴィングリ | ○ | ぜ | |
9 | モルッカ諸島 | ◎ | ||
10 | リシュリュー | ◎ | ||
11 | ア | メキシコ | ◎ | |
イ | フアレス | △ | ま | |
12 | リカード | ◎ | ||
13 | 第二次囲い込み | ◎ | ||
14 | 穀物法 | ◎ | ||
15 | 機械を打ち壊す運動 | ◎ | ||
16 | フイヤン派 | ○ | ぜ | |
17 | 国民公会 | ◎ | ||
18 | テルミドール9日のクーデタ | ◎ | ||
19 | フランスは元々農民の人口が9割を占め、さらに革命の成果で土地の保有が認められて都市労働者に流れる人口が少なかったから。 | ▲ | り | |
20 | マジャール人 | ○ | り | |
21 | AFL(アメリカ労働総同盟) | ○ | ま | |
22 | ドレフュス事件 | ◎ | ||
23 | イギリスが中国から茶を購入する一方インドに綿製品を輸出し、インドから中国にアヘンを輸出して銀を回収した。 | ○ | り | |
24 | 洋務運動 | ◎ | ||
25 | ベトナム青年革命同志会 | △ | ぜ |
いつもの「狙われやすいカテゴリー」で考えます。
紛らわしい
11 メキシコは2017年のセンター試験で出題。フアレスの近代化→ディアスの長期独裁→マデロのクーデタ→サパタ、ビリャらの運動→カランサによる安定、と名前を覚えるのが大変です。難関私大の「削り」問題で時々出題されます。
メキシコは日本と並んで19世紀から20世紀にかけて近代化を達成した国のひとつ。
推理・理解
b 『地理志』で反射的にストラボンと書かないこと。天文学大全がヒント。
5 23 センター試験の知識を文章にすれば大丈夫。
19 このブロックで最も難しい問題。フランス革命による自作農の増加とフランス資本主義の緩慢な発展(七月王政は銀行家中心。露仏同盟後にシベリア鉄道に投資した)を結びつけられる人は「世界史頭」です(笑)。
20 なまじ詳しいとチェック人と迷う(スラヴ民族会議、パラツキー)が、独立宣言をしたのはコシュートのハンガリーの方。
有名どころの前後もの
2 11世紀のプロノイア制と対になるテマ制は、7世紀にアナトリアを4つのテマ(軍管区)に分けて中央から派遣された長官が軍事と民政を一元的に行う制度。
屯田兵制は、テマの兵士に一定の土地保有を義務づけて世襲の農民兵とする。
ビザンツの政治状況(7世紀はアラブ人の侵攻、11世紀は帝国の縮小)とセットで記憶しましょう。
16 フイヤン派は『詳説世界史』では欄外の表へ追いやられています。帝国と東書はばっちり太字。
25 キター! 同志社大学を併願している人は当然書けます(笑)。
今回は最初の論述が難しかったですが、残りはほぼ教科書および授業で解説される部分からの出題です。普段の授業の時間から、自分なりのストーリーを考えたり、狙われそうな用語は瞬時に覚える癖をつけましょう。
次回は東京大学
bunbunshinrosaijki.hatenablog.com