ぶんぶんの進路歳時記

学習方法、進路選択、世界史の話題について綴ります

「バベルの塔」展@大阪 国立国際美術館2017

 先日仕事の隙を縫って大阪市中之島にある国立国際美術館で「バベルの塔」展を鑑賞してきました。

 身体の半分がアニメと特撮でできている私としては、『バビル2世』のあれの本物が日本に来ているなら見ないわけにはいきません。

 

公式サイト

babel2017.jp

 

 

 『バベルの塔』は16世紀ネーデルラントの画家ピーター・ブリューゲル1世の作品です。今回の展覧会はボイマンス美術館が所蔵する『バベルの塔』と、そこに至るまでの15~16世紀ネーデルランド絵画が展示されていました。


 会場は会期末ということもあり、入場制限こそありませんでしたが平日ながら中はかなり混雑していました。

 

国立国際美術館エントランス 

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1 16世紀のネーデルラント

 

 ネーデルラントは現在のベルギー、オランダを中心とする地域で、中世より中継貿易や毛織物工業が栄えました。15世紀にハプスブルク家の所領となり、16世紀にスペイン=ハプスブルク家領になります。

 16世紀の大航海時代の中で、香辛料や新大陸の銀が中心都市のアントウェルペン流入し、繁栄を極めます。

 

 最初のコーナーでは教会の祭壇を飾った聖人像や聖書の一節を描いた彫刻や三連祭壇画(つなぎ目があって屏風みたいに自立する)が展示されていました。ただこれらは教会が工房に発注したもので、制作者のサインがありません。


 時代がさらに進むと、市民層の台頭を反映してか、キリスト教を主題にするものの、単なる様式的な宗教画ではなく、人間の生き生きとした様子や、ネーデルラントの風景が織り込まれるようになります。


 そうした中で16世紀初頭に出現するのが、ヒエロニムス・ボスです。

 彼が手がけた祭壇画『放浪者(行商人)』は、宗教画でありながら名もなき人の日常を絵画の中に取り入れています。当時としては新しい取り組みです。

 また彼は絵画の中に様々な「小ドラマ」を仕込んでいて、それらはキリスト教の寓意で、観るものが「謎解き」を楽しめるようになっています。

 『放浪者』には小便をする人や売春宿など現実に存在するものが登場しますが、『聖クリストフォロス』には木にぶら下がった小さな水差しの中に人が住むなど「異形」が描かれています。

    さらに後の作品になるともうモンスターのオンパレードです。

 だから表面上は宗教的な戒めなのですが、よく見ると「小ネタ」が満載、その辺を鑑賞する人たちが楽しむ、という構造のようです。

 

 

2 ピーター・ブリューゲル1世

 

 ボスの「細部に暗示を含んだドラマをちりばめる」と「異形」は彼の後継者に引き継がれ、ピーター・ブリューゲル1世に至ります。

 彼は世界史の教科書にも載っている『農民の踊り』でおなじみですが、油彩は40点ほどしかなく、有名な『大きな魚が小さな魚を食う』や『七つの大罪』など宗教的教訓を題材にした銅版画を数多く残しています。

 最初ブリューゲルもボスのような「異形の小ドラマ」を絵の中に描き込んでいましたが、次第に名もない人たちの生活の一面を描き込むようになります。

 『子供の遊戯』はまさに遊びの百科事典です。さらに『農民の婚宴』『農民の踊り』では、これまでの「○○を探せ」風ではなく、人物が大きく描かれ、キリスト教の寓意を含みつつ農民の生活をダイナミックに描いています。

 

 

3 バベルの塔

 

 バベルの塔は『旧約聖書』の創世記に記された伝説の塔で、人間が神の下まで届く巨大な塔を作り、町を有名にしようとしますが。神の怒りに触れて、人間の言葉を互いに通じなくさせ、塔は未完成に終わります。

 

 

写真、SNS投稿OKポイント バベルの塔推定約510m。東京タワー333m。

 

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 この「神の戒め」の物語であるバベルの塔は、古くから多くの画家が題材にしていましたが、ブリューゲルの『バベルの塔』はネーデルラント絵画の「総決算」といえます。

 ベースは宗教画ですがそれに飽きたらず、当時のネーデルラントの隆盛を背景に人間の生活やネーデルラントの自然をパーツとしてキャンバス全体に描き込む、という構成になっています。

 

 「バベルの塔」の本物は小さいのですが、東京藝術大学が最新技術を利用して300%に引き延ばしたCGを見ると、様々な「小ドラマ」が絵の中で展開しています。

 絵には約1400人が描かれて、多くは現場で働く職人です。煉瓦やしっくい(接着剤)を運ぶエレベーターが取り付けられ、しっくいを運ぶところは白く汚れていて職人も真っ白です。上層部の建築中の部分には木製の足場が組まれています。

 塔の周りには当時のネーデルラントの風景が描かれています。

 

 16世紀のアントウェルペンは好景気に沸き、教会や市庁舎が数多く建設されます(『フランダースの犬』で有名な聖母大聖堂もこの時期に完成。ルーベンスの絵は17世紀)。

 『バベルの塔』は「人間の傲慢さへの戒め」なのですが、絵は真逆、日本の高度経済成長期を彷彿させる人間の自信を感じさせます。

 

 『バベルの塔』が描かれた背景と、そこに込められたメッセージがよくわかる展示会です。塔がコロッセウムに似ている理由も納得しました。

 会期は10月15日までです。お早めに。

 

 会場の解説および『AERA Mook』の「バベルの塔」展を参考にしました。