2020年度(2021年度入試)からの「大学入学共通テスト」について、今回は英語の外部検定試験活用についてです。
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参考 文部科学省HP 主に「大学入学選抜改革について」より
高大接続改革の実施方針等の策定について(平成29年7月13日):文部科学省
追記 3/26
大学入試センターが「参加要件を満たしている」と判断した英語外部検定を公表しました。
お馴染みのメンバーが認定されましたが、実用英語技能検定(英検)は従来型(一次合格者のみ二次で面接)はダメ、1日で4技能試験が完結する形でとのことです(同じ団体のTEAPはそうなってます)。
http://www.dnc.ac.jp/news/20180326-02.html
4 英語の外部検定利用
(1) センター試験の英語で十分では?
「大学入学者選抜改革について 」によると、「グローバル化が急速に進展する中、英語によるコミュニケーション能力の向上が課題となって」いるそうです(「外圧」理論?)
英語については「読む」「聞く」「話す」「書く」の4技能をバランスよく身につけることが学習指導要領でうたわれていて、高校では英語の授業は英語を用いて行うことが基本です(みなさんの学校もそうですよね?)。
ところが大学入試センター試験は2技能(読む、聞く)です。リスニング試験も30分のためにすごい労力がかかります。さらに「書く」「話す」を50万人規模で一度に試験し、短時間で採点するのは不可能です。
しかし文部科学省は4技能を大学入学者選抜で評価したい、そこで英語については「民間の資格・検定試験のうち、入学者選抜に活用する上で必要な水準および要件を満たしているもの」を大学入試センターが認定し、活用するということです。
*発展:外部検定でも「話す」試験は大変、時間も人件費もかかります。インタビュー形式の英検は一次合格者、TEAPは全員が昼食休憩後です。TOEFL iBTはインターネット、GTECはタブレットを使います。
(2) 検定試験ってそれぞれ問題、難易度、成績、価格が違いますよ?
大学入試に利用する以上は検定と学習指導要領との整合性(教科書より簡単/難しすぎは困る)や検定の信頼性(採点とスコア)が求められます。
そこで文部科学省は、採点の質やスコアの客観性を確保すること、全都道府県で複数回実施すること、受験料を抑制することを実施団体に求めるとしています。
「大学入学者選抜改革について 」35頁のスクリーンショット。
英語4技能資格・検定試験懇談会の「試験情報サイト」に詳しい比較があります。
*発展 河合塾の調べによると、表の検定はおおむね学習指導要領や教科書の語彙をカバーしています。センター試験の語彙は、教科書カバー率が高い代わりに難しいものは少なめです。よく考えて作られているということです。
① スコアの客観性
それぞれの資格検定試験のスコアがCEFR(セファール)の6段階のどこに該当するかを主催団体に「自己申告」させています。
大学入試で要求されるレベルはB1「自立した言語使用者」としています(CEFRの段階別CANDOリストは前掲36頁)。
前掲、37頁のスクリーンショット
*発展:CEFRは(Common European Framework of Reference for Languages :Learning , teaching , assessment)の略で、「ヨーロッパ言語共通参照枠」と訳します。
多言語が行き交うヨーロッパでどの言語でどれくらいの語学力があるのか(特にその語学を使ったコミュニケーション力)共通して測る物差し(A1~C2の6段階)として欧州評議会(Council of Europe)が20年以上研究し開発したもので、2001年から公式に活用されています。現在では38の言語に対応した国際基準になっています。
「私はドイツ語圏出身なのでドイツ語はC1、フランス語はB2、英語はちょっと苦手でA1です」みたいな感じです。
んー、つまりEU言語圏の中での尺度ですよね? グローバル?
次期学習指導要領では「小・中・高等学校で一貫した目標を実現するため、外国語の能力を総合的に評価するCEFR等を参考に、段階的な「国の指標形式の目標」を設定するとともに、統合的な言語活動を一層重視する」とのことです。
② 価格・場所・回数
価格に関しては、認定試験の実施団体に対し「共通テスト受検者の認定試験検定料の負担軽減方策や障害のある受検者のための環境整備策を講じることなどを促す」としています。
場所に関しては全都道府県での実施が求められています。
前掲の表によると4技能で1万円を切っているもの、全都道府県で実施できているのは現時点では一部です。
「TEAP」は「個別試験の代わりに外部試験を利用する」目的で英検と上智大学が共同開発した検定です。アカデミックな内容を含み、首都圏の大学を中心に利用する大学が増えています。
「IELTS」と「TOEFL」は留学審査の指標として大学生の間では有名です。
ただしこれらは受験会場が限られていて、お値段も比較的高額です。
ん、それって、ひょっとして?!
(しっ! 声(以下略))
なお試験に有効なのは高校3年生の4月から12月の2回までとのことです(有効期限や既卒者の扱いは今後検討)。
あれ、私の知り合いの子ども2人は「3年生になって検定受けていたら勉強の邪魔」だから2年生で英検準1級に合格しました。有効期限は2年間のはず。
ここの塾(宣伝乙)
追記 3/26
英語の外部検定のスコアで大学の合否が決まるのであれば、信憑性の担保も重要です。
検定の実施方法が模擬試験と一緒(学校に問題が送られてきて先生が仕分けして試験監督をする)、面接官がたまたま同じ学校の先生に当たるなどは、不正はないと思いますが、「それで大学の合否が決まる」となればどうでしょう。
大学入試センターは「料金の負担軽減」を求めていますが、信憑性をあげようとすればコストが増えます。
③ どうやって検定のスコアを利用するの?
受験者は認定試験出願時に大学入試センターへ自らの成績の送付を実施団体に依頼します。団体は受験者の成績を大学入試センターに送付し、センターは各大学の請求に基づき共通テストの成績と共に認定試験の成績を大学に提供します。
大学のスコアの利用方法は次の3つが考えられます。すでに行われています。
1 スコアを出願の条件にする(上智大学、青山学院大学、東京海洋大学)
2 スコアを外国語試験の「みなし得点」とする
(国際教養大学 英検準1級はセンター試験の英語を満点と換算)
3 スコアを外国語試験の得点として(全部or一部)利用する
(青山学院大学 早稲田大学国際教養学部(リスニングの代替))
しかしCEFRは6段階、私立入試は1点刻みで何百人の合否を分けます。「みんなB1」では差のつけようがない気がします。
まとめ
「制度を変えないと意識が変わらない」という意見はもっともです。確かにセンター試験でリスニングが導入されて以降、学校でその時間は増えました。
ただし「グローバル人材の育成」のために「大学入試で4技能評価」という論法には飛躍があると思います。「英語」=「グローバル化」という構図も「西洋コンプレックス」のように聞こえます。
また利用が予定される資格検定はそれぞれ高校生向け、留学向け、ビジネス向けと目的が異なります。
表によると私のスコアはあとちょっとでB2のB1ですが、私の英語力はグローバル化には程遠いです(笑)。
昔オーストラリアの方からESL(English as a Second Language)という考えを教えていただきました。
多言語で英語が「公用語」の国だと勉強の「資材」がほぼ英語です。英語の「できる・できない」がリテラシーに直結します。
そこでESLを専門で学んだ教員が、英語以外を母国語とする子どもたちに「第二言語」としての英語を使って勉強できるよう支援をしています。
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一方日本の場合、高校までは必要な情報はほぼ日本語で入手できます。
4技能を高校で満遍なく勉強するのは当然として、入試では大学でまずやっていくための「読む」「聞く」でフィルタリングして、大学に入ってから学問に耐える英語力(文献、講義、議論、論文)をつければよいのでは、と個人的に思います(EAP "English of academic purposes")。
大学に入る前に「英語が完成している」を求めるのは贅沢過ぎるのではないでしょうか。
「グローバル化だから英語が必要」ではなく、日本人にとって英語とは何であり、英語を使って何をしたいか、そのためにどういう教育内容がどの段階で必要なのか、もう少し議論してほしいです。
まあ「いくら英語を話すのが得意になっても中身がペラペラではどうしようもない」と思う私の考えも「西洋コンプレックス」の裏返しですが(笑)。
*発展:大昔に英語科がある高校に勤務していましたが、生徒たちの多くは発音の正確さなど「ネイティブのようになる」ことを競い合っていました。まあ憧れますよね。英語の先生の多くは「通じればいい」といいますが。あ、英語の先(以下略)。
他にも高校現場を直撃する大事な変化が!(続く)