ぶんぶんの進路歳時記

学習方法、進路選択、世界史の話題について綴ります

読書の楽しさと図書館の活用について考える

 先日学校図書館の研修会があり、「講師の話が面白い」と司書の先生に誘われて参加しました。

 講師は大阪の河内長野にある清教学園中・高等学校の探求科、片岡則夫先生です。図書館を核とした系統的な読書指導や総合学習を実践されている方で、ネットを検索してみると各地の研修会で引っ張りだこのようです。

 

学校はここ

学校法人 清教学園

 

「清教学園 リブラリア」で検索すると色々な取り組みを見ることができます。

清教学園研究報告会「入学時からはじめる読書生活の習慣化」 | ほんとも!〜学校図書館おたすけサイト〜

 

リブラリアのツイッター

twitter.com

 

 図書館は「清教学園リブラリア」と呼ばれ、約53000冊の蔵書を有し、年感約37000冊が貸し出されています。有志が制作した「図書館の一日」というビデオを見ると、授業、休み時間、放課後とひっきりなしに生徒が図書館を訪れています。

 朝の読書の時間が設定されるなど、学園全体で読書指導を行われています。ちなみに生徒たちは揃いの赤いポーチを持っているのですが、キリスト教の学園なので聖書と賛美歌が入っていて、読書の時間の次に使うそうです。

 

 授業で図書館を利用するのは、中学1年~3年が総合学習で週1回(年間30回)、高校2年~3年が探求科で週2回、3年生は「タラントン」と呼ばれる卒業論文を作成します。この日は主に中学1年生の取り組みが紹介されました。

 

 最初はいわゆる「図書館オリエンテーション」です。ひとり10冊、分類番号に従って本を書架から取ってきます。その後4人グループになって持ち寄った本を並べ、正しい場所に戻します。図書館の本が一定の法則によって並んでいることを理解して、本に親しむ環境を作ります。司書の仕事も理解できます。

 

 次に「すくど文庫」と呼ばれる、図書館おすすめの本を使って「お試し読書」をします。ノンフィクション、フィクション別に読んで「借りて読みたい」「面白い」「それなり」「面白くない」のどれかに投票します。

 フィクションでは森絵都の『カラフル』、はやみねかおる(私と同県の元同業者です)の『都会のトムソーヤ』、ノンフィクションでは荒俣宏水木しげるの妖怪ものや尾木 直樹の『尾木ママの女の子相談室』などが人気だそうです。 

 最初のセレクトは「先生的に読んで欲しい本」ですが、投票されたデータから「どんな本が中学1年生の心をつかむのか」を分析して、次に本を購入したり「すくど文庫」に入れる本の参考にするそうです。

 

 面白いと思ったのは「作者に手紙を送る」です。

 手紙のテンプレートは先生が用意し、生徒は「私はこの本の『○○○…』というところが印象に残りました、なぜなら…」の部分を考えます。メール世代の中学生にとって封書は未知との遭遇(宛名のバランスや切手の貼り方がわからない)のようです。

 手紙を出版社に送ると(先生が色々と段取りをします)、作者から丁寧な礼状が来る場合もあります。読んで感想を書いたことが目に見える成果になり、生徒は喜んで再び読書に向かいます。

 

 また学級文庫を移動式のマガジンラックにして、定期考査が終わる毎に入れ替えます。「お試し読書」で高得点だった本の第1巻を入れて、続きを読むために図書館に足を運んでもらおうという仕掛けです(某サイトの1話無料?)。

 

 調べ学習の指導方法が聞きたかったのですが、時間切れでした。中学1年は画用紙一枚、2年はブックレット、3年生は卒業研究で画用紙絵本閉じ20ページ以上のものを作成します。完成品は後輩のために図書館で閲覧できるようにします。

 

 学習習慣の定着は低学年で「やったらできるので楽しい」というサイクルを作れるかにかかっていますが、読書習慣も同様に「読みたくなる」初期指導が大事だということがわかりました。誘っていただいて感謝です。

 

 

 さて私の学校は司書の先生が熱心で、読書が楽しくなる取り組みを毎月工夫していますが、やはり多聞に漏れず学校図書館に来て本を読む生徒は街の喫茶店の「なじみの客」状態です。

   学校も最近、総合学習のカリキュラムとして「ブックレビュー」に本腰を入れ始めましたが、宿題の前には来館数も貸し出し数も増え、終わると潮が引く、という状態はあまり変わりません。

 

 私が進路主任をしていたとき、『進路の手引き』の小論文の章を大幅改訂し(以前は些末な書き方論でした)、さらに国語科が作成した(ネタ元は業者の小論文研修会)「小論文を書くために読んでおきたい本」というリストをつけました。

 司書の先生はそのリストの中で図書館が保有している本に目印をつけて生徒が借りやすいようにしてくれたのですが、新書の貸し出しは思わしくありません。

 そもそもそのリストには本のタイトル、著者名と「人文系」とか書かれているだけです。内容がわからなければ生徒が手に取らないのも当然です。

 それに小論文が課されるのは主に国公立の後期試験で、生徒の大半はセンター試験まではドリル一色、自己採点後に「○○大学の後期なら合格できそうだ」と担任に勧められて、そこから本を探す有様です。また一般試験で合格するのが難しいから推薦で合格したい、面接があるから本を探すという本末転倒な生徒も毎年います。

 

    私は高校生には読書の楽しみを知って欲しいですが、受験勉強を通じて教養をつけるのもありと思っています。その方針の人はペーパーテストで入試を突破し、大学でゆっくり読書してもらえばいいです。勉強も読書も嫌いなのに小論文や面接で大学に潜り込もうと考えるのはやめて欲しいです。

 愚痴っても仕方がないので(国語の先生も「今日から第一志望」の志望理由書や小論文が全部回ってくると愚痴ってます)、私は去年からリストを元に「回転の悪い」新書の書評を書いて、司書の先生が発行している『図書館だより』の埋め草として半ば強引に掲載してもらっています。一年間続き、約20冊紹介しました。

 評論や小論文の題材ですから読みやすい本ばかりではありませんし、難しい本を平易に紹介するのには限界があります。貸し出し増加には貢献していないようですが、1年生にはブックレビューのサンプル、3年生には後々小論文のヒント、と先を見据えて紹介文を書いています。

 

*追記 今年の新入生はブックレビューで新書を紹介する生徒が増え、新書の貸し出しも増えました。私のおかげではなく(笑)うちの図書館と中学校の読書指導のたまものでしょう。

 

 林修先生は「自分が楽にできることで勝負する」と言っていましたが、書評は「ご近所に優しい世界征服」(©鷹の爪)ならぬ「楽しいレジスタンス」です。

 最近は図書委員が書評を書いてくれたり、司書の先生が貸し出し本に挟む「この本は○日までに返してください」のしおりに新刊本紹介を書いていたのを生徒が手伝ったりと、作戦は着々と進行しています。

 

*追記 しかし今年は何と『進路の手引き』からリストそのものが削除されてしまいました!(受験大手の「読んでおきたい本」というリンクだけになりました)。レジスタンスはもちろん継続です。

 

 この間1年生のブックレビューの発表を見ましたが、「筋のいい」人が何人かいました。とにかく学校図書館は、生徒がすぐに行ける「ワクワク感」と「へえー」の殿堂です。たくさんの生徒の来館をお待ちしています。