ぶんぶんの進路歳時記

学習方法、進路選択、世界史の話題について綴ります

文武両道について考えるその3

 「文武両道」の松は、「部活と勉強の相乗効果」の一歩先「勉強を部活のように楽しくやる」です。

 

 私が「文武両道」について学年集会で話をしたとき、前に座っていた野球部員二人に「野球の面白さって何?」と質問しました。最初のひとりは「より速い球を投げる、よりボールを遠くへ飛ばす」と答えました。もうひとりは「対戦相手を研究して、対策を練って、練習して、作戦がはまって勝ったとき」と答えました。

 この2つがそのまま「勉強の楽しさ」です。まず得意な教科については「その教科そのものの楽しさ」、数学の考え方、歴史の奥深さ、自然現象の不思議などに目覚めることです。「ヒット性の打球をアウトにできるようになった」と同じように、自分の中に新しい知識・技術・理解が増えて、ものの見方や考え方が豊かになることを楽しむのです。

 一方、苦手な科目は「戦略的な楽しさ」、うまい覚え方を編み出したり、過去問を調べて大学がどういう問題を出してくるかを研究して作戦を立てるなど、克服する方法を考えて楽しみます。部活動の大きな大会で優勝した経験がある人は、準備の大切さ、困難を克服して目標を達成する喜びを身にしみて知っているはずです。

 

 「文武両道」は部活と勉強を「別物」と考えているうちは達成できません。単なる息抜きでも、勉強からの避難所でもありません。部活動は学習指導要領で「特別活動」と定義されます。「しんどくても毎日やれば身につく」「結果が出た人は必ず努力している」「楽しんでやれば成果が上がる」は、部活動の方がよりはっきり、早くわかります。この物事が上達する核心を体感し、勉強に応用できたことに「楽しい」と感じてはじめて部活動の意義があると思います。

 

 そして「文武両道」という生徒の課題はそっくりそのまま教員、学校の課題です。生徒に求める「バランス」「相乗効果」「楽しむ」を私たちが実践できているのか、です。

 私の知りあいの先生は部員の弁当の中身まで指導しているのに、生徒には某社の模試判定システムでC以上のところを機械的に出願させて仕事終了でした。部活動では計画的に生徒を鍛えることに熱心ならば、「私は三年の夏休みまで部活頑張らせたから後は君の仕事」ではなくて、部活と同じ原理でその生徒にどんな力をつけて受験に送り出したいか考えて毎日の指導をするか、志望校から逆算して計画的に勉強させられるか、研鑽するべきです。

 また学校は生徒が勉強と部活をストレスなく両立できるような枠組みを作らなければなりません。例えば宿題の量、部活動の活動時間や期間、土曜や日曜の使い方です。先生が難関大学合格や全国制覇を目標にしてもらって結構ですが、生徒のキャパシティーを越えたらどれも身につきません。宿題を出す方は各教科で連絡を取り合って量を調整する、部活をする方は土日のどちらかはオフにするか、部活が終わった後に勉強をする時間を確保する、など教員間で連携を取る必要があります。

 

 そして何より、私たちが自分の教える教科について自分自身が楽しみ、生徒も楽しめるような工夫をしているか、です。

 「文武両道」はかけ声ではないと思います。三年間のスパンで生徒をどう育てるか、学校のビジョンや私たちの姿勢が問われていると思います。