ぶんぶんの進路歳時記

学習方法、進路選択、世界史の話題について綴ります

大学入学共通テスト2021年世界史B徹底解説(3センター試験との比較)

 2021年の大学共通テスト世界史B、今回は来年度の受験生に向けてセンター試験や試行調査との類似点・相違点について考えます。

 今回は河合塾の共通テスト分析(井上徳子さんの解説と分析資料集)を参考にし、駿台代ゼミの分析、東進ハイスクールからいただいた共通テスト設問別正答率(学校関係であれば大学入試センターに申請すると開示してもらえる 有料)を援用します。

前回 

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問題 

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アドバイス www.kawai-juku.ac.jp

 

目次

  

1 データ編 

① 2021年大学入学共通テスト世界史B 全問の概要

 上記第一日程。第二日程のリンクを参照してください。

② 参考 2020年センター試験の全問 

  タイプ ジャンル 時代 地域 内容 正解の内容
1 一問一答 政治 またぎ ヨーロッパ イタリア ゲルフとギベリンの争い
2 一問一答 経済 またぎ またぎ 交易 清、公行
3 内容理解 文化 またぎ またぎ 宮廷文化 吟遊詩人の内容
4 一問一答 政治 前近代 ギリシアローマ ギリシア社会 アカイア人
5 一問一答 経済 またぎ またぎ 世界の制度 魏は屯田
6 内容理解 文化 またぎ またぎ 文化の受容 12世紀ルネサンス ガンダーラ美術
7 一問一答 文化 前近代 またぎ 技術の伝播 授時暦は元代
8 一問一答 政治 またぎ またぎ 革命の指導者 アギナルド
9 一問一答 文化 またぎ 中南米 中南米 マヤ文明の内容
10 一問一答 政治 またぎ ヨーロッパ ユトレヒト条約の内容 エドワード3世百年戦争
11 一問一答 政治 19世紀 ヨーロッパ 国家の膨張 ロシア、コーカンド=ハン国併合
12 一問一答 文化 前近代 南アジア 言語 ムガル帝国ウルドゥー語
13 一問一答 政治 19世紀 ヨーロッパ 国家間の争い 門戸開放宣言はアメリ
14 一問一答 政治 20世紀 ヨーロッパ ロシア・ソ連の歴史 対ソ干渉戦争
15 年号 政治 戦後 ヨーロッパ 冷戦 コメコン SALT1 アフガニスタン鉄平
16 一問一答 政治 またぎ またぎ 外交 ブラント東方外交
17 一問一答 政治 戦後 東アジア 鄧小平のしたこと 文革で批判される
18 内容理解 政治 戦後 東アジア 中国の対外関係 ベトナム戦争中越戦争の流れ
19 年号 政治 前近代 西アジア ファーティマ朝の成立時期  
20 一問一答 文化 前近代 またぎ 文字や記録媒体 甲骨文字
21 一問一答 文化 前近代 またぎ 翻訳 鳩摩羅什
22 一問一答 政治 19世紀 ヨーロッパ 植民地化 イギリス スリランカ
23 一問一答 文化 前近代 またぎ 旅行記 大唐西域記 地理誌
24 一問一答 政治 19世紀 ヨーロッパ 1848年革命の出来事 フランクフルト国民議会
25 一問一答 政治 19世紀 ヨーロッパ オーウェン工場法  
26 資料 政治 20世紀 ヨーロッパ ダンツィヒの位置  
27 内容理解 文化 またぎ またぎ 書物 マヌ法典の内容
28 一問一答 政治 前近代 東アジア 武帝のしたこと 南越征服
29 一問一答 文化 前近代 東アジア 歴代王朝の都 唐の長安マニ教寺院
30 内容理解 政治 前近代 またぎ ユーラシアのモノの動き サータヴァーハナ朝の内容
31 年号 政治 またぎ またぎ 移民 東方植民12世紀
32 内容理解 政治 またぎ またぎ ペルシア戦争の影響
33 一問一答 文化 またぎ またぎ 芸能や文芸 宋代は詞が流行
34 一問一答 政治 戦後 ヨーロッパ ハンガリー ナジ首相
35 一問一答 政治 またぎ またぎ 人の移動 バルトロメウ=ディアス喜望峰
36 年号 政治 19世紀 ヨーロッパ セルビアの死亡者数 セルビアの独立 サライェヴォ事件

 

2 分析編

① 難易度(ぶんぶんの分析)

難易度 2021第一 2021第二 2018試行 2020セ
◎(一問一答知識) 16 16 22 17
○(やや細かい知識) 10 11 11 9
△(難しい) 8 6 1 9
▲(ドボン) 0 0 0 1
小計 34 33 34 36


 約半分は点数を取ってもらう問題、勉強していれば8割は可能、平均点6割を想定しているのはセンター試験と変わりません。

 大学入試センターが集計した「第一日程の設問別の得点率」は次の通りです。

難易度   正答率
18 平均点(63%)以上
7 53%~62%
9 52%以下

 問題ごとでは、ぶんぶんが「難しい」と思った割に受験生が解答できているもの、その逆のものがありましたが、全体ではおおむね分析どおりでした。(`・ω・´)シャキーン

 ベネッセ・駿台の「データネット」の集計によると、世界史の点数分布は毎年いわゆる「正弦曲線」(平均点が頂点の山)ではなく、80点付近が最も度数が大きいです。

 大学入試センターの発表では世界史Bの受験者は85,690人。日本史B143,363人、地理B138,615人に比べるとニッチなマーケットですが、「できる人には楽勝」という傾向はセンター試験と同じです。

ベネッセ・駿台データネットのHPより引用

dn-sundai.benesse.ne.jp

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② 出題タイプ

タイプ 2021第一 2021第二 2018試行 2020セ
一問一答 13 10 13 25
年号 5 8 8 4
内容理解 5 3 2 6
資料 3 7 5 1
読解 8 5 6 0
小計 34 33 34 36

 一問一答(内容理解も含む)が減り、その分読解問題に移りました。ただし読解問題も一問一答知識がないと解けません(後述)。

 

③ 出題ジャンル

ジャンル 2021第一 2021第二 2018試行 2020セ
政治 24 26 21 23
経済 4 4 8 2
文化 6 3 5 11
小計 34 33 34 36

 政治史メインなのはセンター試験と同じです。

 文化史は年によっては「ケチャップみたいに」ドバドバ出ますが、ぶんぶんが2007年から2020年までのセンター試験を調べた結果、文化史に分類できる設問は平均すると36問中約7問でした。同じ傾向です。


④ 時代と地域

時代

時代 2021第一 2021第二 2018試行 2020セ
前近代 11 10 14 10
近代 6 3 7 0
19世紀 10 7 6 6
20世紀 2 5 3 2
戦後 3 4 3 4
またぎ 2 4 1 14
小計 34 33 34 36

地域

地域 2021第一 2021第二 2018試行 2020セ
東アジア 11 7 7 4
東南アジア 0 2 5 0
西アジア 1 2 5 1
南アジア 3 1 1 1
ギリシアローマ 1 3 1 1
ヨーロッパ 16 12 10 12
アメリ 0 0 3 1
アフリカ 0 2 1 0
日本 0 0   0
またぎ 2 4 1 16
小計 34 33 34 36

 センター試験のリード文は教養に資するものが多いのですが、リード文の単語に下線が付され、「下線部①に関連して…」といいつつリード文とは関係のない、時代も地域もバラバラな選択肢の正誤判定を行なう問題が多数を占めていました。

2020年 問題番号12

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 センター試験教科書の全範囲から広く薄く出題するみたいな「縛り」があったみたいで、先述のぶんぶん調べでは、地域ではヨーロッパと南北アメリカで約16問、残り約20問が非ヨーロッパ地域(うち東アジアで7問程度)という構成でした。

 正誤問題のダミー選択肢の中に各地域・時代のトピックを織り込めば1問で4つの知識を問うことができます。ある意味便利な手法でした。

 一方で選択肢の文章の語句の入れ替えや時代の違いの正誤判断ができれば解答できるため、「リード文は読まなくていい」という指導がまかり通っていました。

 そこで共通テストでは試行調査の段階からリード文を読解する問題や、その内容に関連する問題が増えました

 「地域と時代はまんべんなく出す」方針は継続で、2021年度の共通テストの本試験(第一日程)はヨーロッパ史、非ヨーロッパ史はおおむね1:1ですが、今回は下記⑤の表で明らかなように、テーマの関係(文書改ざんや管理社会)からヨーロッパ史、東アジア史に出題が偏りました。

 この点についてはすでに批判があるらしく、東南アジア史の某先生は「東南アジアの資料問題の年があってもいい」と反論していました。つまり今後は「年度によって特定の地域がケチャップみたいにでる」可能性があります。

 時代については、ぶんぶん調べではセンター試験は前近代と近代以降がおおむね1:1で、戦後史は年度によってケチャップ(以下略)です。共通テストも同じ構成です。

 

⑤ 読解問題

文章の読解、選択肢の内容理解、資料問題の抜粋

◎~△はぶんぶんの難易度予想 %は大学入試センターの正答率

  タイプ 地域 備考1 DNC
3 読解 東アジア 司馬遷による批判の対象となった政策 70.0%
4 読解 ヨーロッパ 文章の前提となっている出来事と、文章の趣旨の組み合わせ 66.6%
7 読解 ヨーロッパ 第二次英仏百年戦争と紙幣の変化 64.8%
13 内容理解 ヨーロッパ ペストとその影響 74.0%
14 内容理解 ヨーロッパ 修道院 59.1%
16 読解 ヨーロッパ 19世紀ロシアの政治運動 83.3%
19 読解 東アジア 四庫全書での史料改ざんの理由 52.3%
20 資料 ヨーロッパ サン=ステファノ条約 60.9%
21 資料 ヨーロッパ ブルガリアの位置 51.4%
23 資料 東アジア ニクソン訪中、中ソ友好同盟相互援助条約、日中共同声明の虫食い 95.3%
25 内容理解 東アジア アメリカと中国との当時の関係 48.3%
26 読解 南アジア インドの文化に対するイギリスの理解 72.8%
27 読解 南アジア イギリスのインドでの英語教育導入の動機 59.5%
29 内容理解 ヨーロッパ シチリアでの翻訳運動 54.6%
32 読解 東アジア 大院君の攘夷思想 51.9%
33 内容理解 東アジア 朱子学の説明 33.7%

1)知識を渡らせる

 読解問題といえども知識がなければ正解にたどり着けません。

問題番号3 

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 「司馬遷の生きた時代」は武帝の頃(教員が「宮刑」について語るところ)、武帝の政策は②と③で、①は武帝の前、④は北魏の孝文帝なので×、がセンター試験的。

 さらに、下線部の「自由な経済政策を重んじ」と「政策への批判」から②が正解。

 河合塾の資料(塾の現役生と浪人生の再現答案)では、現役で①を選んでいる人が多く、誤答の原因は知識の不足です。

 これは「読解問題」というより「司馬遷」というヒントから「武帝」を思い出し、さらに歴史用語の「いつ、どこ、だれ、内容」から正誤を判断する、複合知識問題です。

 名前がないと寂しいので、知識をつなぐ様子から「反射衛星砲問題」命名します。

dic.pixiv.net


 「反射衛星砲」で最も平均点が低かったのが問題番号33です。

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 「朝鮮王朝は明の影響で朱子学両班の学問とし、清朝に服属した後は「小中華」を自認し、儒教儀礼清朝以上に守られた」は2020年度の東京大学一橋大学の出題です。

 「オ」が朱子学とわかれば、次に王守仁→王陽明陽明学朱子学を批判、と反射衛星を経由して正解は②ですが、河合塾の資料では④(王重陽は全真教で金代、儒教・仏教・道教を統合した)を選んだ生徒がかなりいました。

2)読解は簡単、むしろ知識で差が出る

 単独の読解問題(問題番号16、23)は正答率は高いですが、知識と読解を組み合わせる問題では知識問題で引っかかっています。

問題番号4

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 河合塾の資料によると間違えた生徒は⑥を選んでいるので、国民議会・立法議会・国民公会・総裁政府の判別ができていません。

問題番号19

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 「18世紀」から「四庫全書」一択ですが、河合塾資料では「宋」に引っ張られて「資治通鑑」を選んだ受験生が多かったです。

 問題番号33も同様で、読解部分の「攘夷思想」は読み取れているのに、知識部分で「大院君」ではなく「西太后」を選んだ受験生がいました。

1883年撮影 クーデタに失敗し幽閉中の大院君 ウィキメディアコモンズパブリックドメインの画像

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 朝鮮近現代史に手が回らないのか、問題番号34(壬午軍乱・甲申政変・甲午農民戦争の整序)も低解答率です。「大院君:壬午軍乱 金玉均:甲申政変」や「1969年 珍宝島(ダマンスキー)島」は当ブログのマスト知識です。(`・ω・´)シャキーン

問題番号27

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 河合塾の資料では現役生が④を選んでいます。藩王国(地方のボスに甘い汁を吸わせて植民地統治を円滑に行なう)やベンガル分割令ヒンドゥームスリムを分断する)の理解が足りないようです。住民の分断は他人事ではありません。

 共通テストの選択肢は、センター試験と違って出題者の意図を混ぜ込みやすい(今回は思想弾圧、文書改ざん、管理社会、英語スピーキング偏重は植民地主義)です。受験生は主権者として政治に関心を持ちましょう。

 

⑥ 授業シチュエーション問題

第二日程

第1問 世界史上の植民地 A アフリカ

第2問 世界史上の工業・産業の変化 A 工業生産 B 鉄道営業キロ

第4問 君主・指導者の言説 B シラクの演説

第5問 世界史上の国際関係 A 中東戦争 C WW2前

 理由は不明ですが、試行調査で出た教室場面は第二日程に追いやられました。

 ぶんぶんは形式が講義だろうが話し合いだろうが、生徒自身が既習事項と新しい事項を組み合わせて、自分なりの仮説を立てるのが「ディープラーニング」と考えます。

 したがって「授業の場面を出せば学校の授業改善につながる」は違うと感じますし、実際に共通テストの出題も知識勝負です。

第二日程 問題番号2

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 リベリア南アフリカ共和国の共通点(少数の入植者が現地の多数派を支配)なので知識問題です。

 この問題は戦後史としても細かいです。①エジプト ②リベリア ③ルワンダ ④南アフリカ共和国で、現役生が授業で②を詳しく習うことはまずありません。

 もちろん授業で「第二次世界大戦後のアフリカ諸国の状況についてグループで地域を決めて調べ学習してください」をすれば、自分の班が選んだ課題はディープラーニングできるし、他の班の発表を聞けば知識は増えます。

 入試が迫る3年2学期に、戦後史の1単元に3時間程度を調べ学習に割けるなら、この問題の肝である概念知識(「共和制と王制」「開発独裁」「ヨーロッパの分割統治が内戦の原因」「人種隔離政策」)は深まるでしょう。

 それでも出題が授業の場面である必然性はありません。

第二日程 問題番号11 

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 これまでのセンター試験の正誤判定文を生徒にパネルにしているだけ。要はグラフの読解=年号知識問題。

 したがって受験生は通常の学習をして、問題文を解くために必要な知識を呼び出してくれば解答可能です。


まとめ

①共通テストとセンター試験の比較 

  • 「平均点6割、政治史中心、地域と時代はなるべくまんべんなく」というセンター試験の方針は踏襲されている
  • 単純な一問一答や正誤判定は減少し、複数の知識を渡らせて解答に至る問題が増えた
  • 資料読解問題は知識問題と組み合わせてあり、読解は難しくなく、知識問題で引っかかる場合あり
  • アクティブラーニングの場面などのシチュエーションはギミック。基本は他と同じく知識や読解問題
  • 年号知識はセンター試験と同じく重要
  • 共通テストでは概念知識がセンター試験以上に問われる

②勉強法

  • 一問一答的知識(年号や地図を含む)は必要
  • 事項の名前だけ覚えても通じないのはセンター試験と同じ。常に事項の「いつ、どこ、だれ、何、なぜ」も合せて記憶する
  • 教科書を読み、授業を聴き、一問一答で確認、問題集(穴埋め・下線部・正誤問題)で完成というルーティーンは鉄板
  • 時系列でストーリーを把握する、紛らわしいものを判別する、ひとつの事項から芋づる式に他の事項を連想するなどセンター試験・私大の勉強方法は共通テストでも有効
  • 教科書の全範囲をもれなく勉強する
  • 世界史は「今の私たちのあり方を相対化する」視点が不可欠。共通テストはセンター試験よりもその辺を混ぜやすい。歴史を自分の問題に引き付けて考える