ぶんぶんの進路歳時記

学習方法、進路選択、世界史の話題について綴ります

国公立大学に出願する(4 割増率・辞退率・追加合格)

注意:こちらは2018年の記事です。2020年の記事はこちらです。併せてご覧ください。

bunbunshinrosaijki.hatenablog.com

 

 国公立大学、前期試験が無事終了しました。ぼちぼち発表が始まっています。

 「是が非でも国公立に進学したい」生徒は前期の翌日から後期試験の準備です。後期の小論文の練習を(慌てて)している人もいると思います。

 すでに私立大学を併願で押さえている人は、はるか彼方にある大学の後期の勉強に身が入らない、前期不合格なら「私立に手続きしよう」と考えている人も正直多いでしょう。

 そういう時に国立至上主義の高校の先生は、生徒のモチベーションを高めるために「後期試験は辞退者が多いからとりあえず受験」「大阪や名古屋で受験できるから楽だぞ」と親切に指導してくれます。

 

リセマムさんの記事 古い記事ですが率は毎年同じぐらい。

 

resemom.jp

 

 この(一部地域の)高校の「国公立大学推し」の裏で、ほとんどの国公立大学は入学辞退者に備えて割り増し合格者を出し、辞退者が多ければ追加合格を出す、さらに一部大学では再募集さえ行われてる模様です(阿部祐二風)。

 今回は『学研・進学情報』2018年12月号の記事を著作権の範囲内で引用し(営業さんの許可はいただきました)、一次資料である国立大学が公表している2018年度入試統計(実施状況)も参照しつつ、国立大学の割増率・辞退率・追加合格について考察します。

 

    学研の古い記事はウェブ上で閲覧できます。

http://www.gakuryoku.gakken.co.jp/pdf/articles/2015/12/p6-11.pdf

http://www.gakuryoku.gakken.co.jp/pdf/articles/2013/11/p6-11.pdf

2020年3月8日

アクセスが多いので、感謝の気持ちを込めて2019年度のデータを追加しました。

  

1 割増率

 

割増率の高い国立大学(学研、前掲書。大学のHP。率は筆者が計算、以下同じ)

  大学名 募集人員 最終合格者数 合格者割増率 追加合格者数 入学辞退者数 入学辞退率 入学者
1 北見工業大 307 528 71.99% 5 244 46.21% 284
2 茨城大 1311 1712 30.59%   338 19.74% 1374
3 宮崎大 806 1023 26.92% 16 172 16.81% 851
4 横浜国立大 1374 1730 25.91% 0 283 16.36% 1447
5 山口大 1511 1901 25.81% 290 15.26% 1611
6 滋賀大 578 718 24.22%   104 14.48% 614
7 京都工芸繊維大 503 617 22.66% 12 77 12.48% 540
8 鳥取 920 1126 22.39% 11 175 15.54% 951
9 徳島大 855 1043 21.99% 139 13.33% 904
10 琉球 1172 1429 21.93%   191 13.37% 1238

註:追加合格者欄の数字は最終合格者数の内数。*は追加合格が最終合格者に含まれているか不明な大学。

追加 2019年度入試

  大学名 募集人員(2019年度) 最終合格者数 合格者割増率 追加合格者数 入学辞退者数 入学辞退率 入学辞退率(2018年度)
1 北見工業大 307 573 86.6% 3 272 47.5% 46.2%
2 豊橋技術科学大 45 59 31.1% - 4 6.8% 1.9%
3 室蘭工業大 339 437 28.9% - 97 22.2% 19.5%
4 茨城大 1,311 1,667 27.9% - 296 17.7% 19.7%
5 横浜国立大 1,366 1,701 24.5% 0 263 15.5% 16.4%
6 東京外国語大 635 782 23.1% - 84 10.7% 12.2%
7 佐賀大 937 1,149 22.6% - 162 14.1% 12.2%
8 徳島大 842 1,019 21.0% 129 12.7% 13,3%
9 京都工芸繊維大 503 608 20.9% 14 76 12.5% 12.5%
10 滋賀大 578 698 20.8% - 104 14.9% 14.5%


    北見工業大学の割増率と辞退率はぶっちぎりです。

    北海道北見市に位置する北見工業大学は1960年設置の短期大学が前身で、1966年に四年制大学になりました。日本で最も北にある国立大学で、寒冷地の産業を支える人材育成を目標にしています。

    後期に学科試験を課して定員も多め、地方試験会場があることから、国立(以下略)の先生が持ち点的に後期を出しあぐねる理系生徒に受験を勧め、合格するものの辞退する(つまり一度も現地に行かない)という例をいくつも知っています。

    私の知り合いは入学し、トランポリン競技部に所属するなど充実したキャンパスライフを送ったそうです。住めば都です。

 

f:id:tokoyakanbannet:20190306225834p:plain

www.kitami-it.ac.jp

 

2 辞退率

 

辞退率の高い国立大学

  大学名 募集人員 最終合格者数 合格者割増率 追加合格者数 入学辞退者数 入学辞退率 2017年度辞退率 入学者
1 北見工業大 307 528 71.99% 5 244 46.21% 46.49% 284
2 茨城大 1311 1712 30.59%   338 19.74% 19.56% 1374
3 室蘭工業大 424 487 14.86%   95 19.51% 28.23% 392
4 宮崎大 806 1023 26.92% 16 172 16.81% 15.48% 851
5 横浜国立大 1374 1730 25.91% 0 283 16.36% 14.71% 1447
6 鳥取 920 1126 22.39% 11 175 15.54% 15.76% 951
7 山口大 1511 1901 25.81% 290 15.26% 12.97% 1611
8 群馬大 778 932 19.79% 13 138 14.81% 13.22% 794
9 滋賀大 578 718 24.22%   104 14.48% 11.74% 614
10 帯広畜産大 186 215 15.59% 0 30 13.95% 17.41% 185

追加 2019年度

no
大学名
募集人員(2019年度) 最終合格者数 追加合格者数 入学辞退者数 入学辞退率
1 北見工業大 307 573 3 272 47.5%
2 室蘭工業大 339 437 - 97 22.2%
3 茨城大 1,311 1,667 - 296 17.7%
4 横浜国立大 1,366 1,701 0 263 15.5%
5 滋賀大 578 698 - 104 14.9%
6 宮崎大 835 996 - 142 14.3%
7 佐賀大 937 1,149 - 162 14.1%
8 埼玉大 1,369 1,634 12 229 14.0%
9 鳥取 923 1,107 4 153 13.8%
10 徳島大 842 1,019 129 12.7%


    室蘭工業大学日中戦争期に増設された官立工業学校が起源で、新制大学になり北海道随一の工業都市である室蘭の人材育成を支えました。

    航空・宇宙分野などで注目すべき研究を行なっていて辞退するのはもったいない大学です。昭和生まれに「このバチあたりが!」と叱られそうです。

www.muroran-it.ac.jp

 

    帯広畜産は数少ない獣医学部を持つ大学なのですが、毎年畜産科学課程の合格者から辞退者が出ます。やっぱりワンちゃんのお医者さんがいいのでしょうか。

    いわゆる「地方国立大学」が並ぶ中で、横浜国立大学滋賀大学が水増し率・辞退率とも上位です。前者は早慶・マーチ上位、後者は同志社と「どっちへ行くか」考えるからと思われます。

 特に文系の場合「卒業生の多さ、結束力の強さ」はビジネスの世界で重要です。就活の観点からも地方の国立より首都圏の難関私立大学が選ばれて当然です。

    なお近畿圏住みとしては滋賀大学経済学部は近江商人発祥の地にあり経済界にOBも多くよい選択です。もちろん同志社ブランドも関西では強力です。

 

辞退率の低い大学(2018年度)

  大学名 募集人員 最終合格者数 合格者割増率 追加合格者数 入学辞退者数 入学辞退率 2017年度辞退率 入学者
1 旭川医科大 105 108 2.86% 0 0 0.00% 3.45% 108
2 東京藝術大 471 479 1.70%   1 0.21% 0.21% 478
3 東京大 2960 3014 1.82%   12 0.40% 0.63% 3002
4 京都大 2678 2733 2.05% 0 11 0.40% 0.22% 2722
5 一橋大 885 934 5.54%   5 0.54% 1.14% 929
6 滋賀医科大 125 126 0.80% 1 0.79% 0.23% 125
7 東京工業大 921 976 5.97%   12 1.23% 2.48% 964
8 大阪大 2929 3153 7.65% 5 58 1.84% 1.44% 3095
9 豊橋技術科学大 45 53 17.78%   1 1.89% 4.08% 52
10 名古屋大 1739 1820 4.66%   38 2.09% 2.41% 1782

 

    難関大学が並びます。割り増し合格率も10%以下が当たり前です。

    学研の2015年データ(冒頭のリンク先参照)では、京都大学の辞退者数10人中6人が医学部保健学科です。

 当時保健学科は専攻別の募集で、中でも看護学専攻のボーダーが低く(70%台)、合格だけして他大学に進学または浪人した、という可能性があります。

    まさかこの方法を組織的に行って京都大学の合格者数を稼ぎ、宣伝材料にしている高校なんてありませんよね?

    なお現在保健学科の前期は一括募集となり(推薦は専攻別)、教育内容も養成よりも研究にシフトしました。この結果ボーダーは上がり辞退者も減りました。

   ちなみに10位の名古屋大学の辞退者38人のうち13人が保健学科(募集126人)、工学部の7人(募集614人)を抑えてぶっちぎりのトップです。まさか(以下略)。

 

3 追加合格

 

 追加合格を多く出した大学

  大学名 募集人員 最終合格者数 合格者割増率 追加合格者数 入学辞退者数 入学辞退率 入学者 超過率
1 筑波大 1476 1645 11.45% 50 102 6.20% 1543 104.54%
2 愛媛大 1269 1528 20.41% 34 175 11.45% 1353 106.62%
3 北海道教育大 914 1002 9.63% 26 52 5.19% 950 103.94%
4 信州大 1692 1893 11.88% 21 196 10.35% 1697 100.30%
5 新潟大 1752 1948 11.19% 19 132 6.78% 1816 103.65%
5 鹿児島大 1639 1852 13.00% 19 178 9.61% 1674 102.14%
7 三重大 1088 1277 17.37% 16 112 8.77% 1165 107.08%
7 宮崎大 806 1023 26.92% 16 172 16.81% 851 105.58%
9 埼玉大 1368 1613 17.91% 15 223 13.83% 1390 101.61%
10 山梨大 660 766 16.06% 13 98 12.79% 668 101.21%
10 群馬大 778 932 19.79% 13 138 14.81% 794 102.06%

追加 2019年度

no
大学名
募集人員(2019年度) 最終合格者数 追加合格者数 入学辞退者数 入学辞退率
1 愛媛大 1,268 1,470 63 146 9.9%
2 信州大* 1,681 1,903 47 220 11.4%
3 筑波大 1,482 1,610 44 99 6.1%
4 金沢大 1,571 1,719 23 99 5.8%
5 山梨大 655 759 20 92 12.1%
6 鹿児島大 1,620 1,817 17 163 9.0%
7 京都工芸繊維大 503 608 14 76 12.5%
8 島根大 878 1,014 13 123 12.1%
9 埼玉大 1,369 1,634 12 229 14.0%
10 山形大 1,213 1,457 11 163 11.2%

 

 地方の国立大学は辞退者を見越してあらかじめ定員の1.10~1.20倍を取り、辞退者が多ければさらに追加合格を出して最終的に全定員の1.05倍以内に収める、という戦略のようです。

 上記の大学のHPで追加合格の詳細があるものをピックアップしました。

大学名 追加前期 追加後期
筑波大 社会・国際11,人間4,生命環境6,理工6,情報2,医(医)3,芸術専門2 生命環境2.理工12,情報2
信州大 理4,医(医)7,医(保健)3,工7
新潟大 医(医)7,医(保健)1,歯5 医(保健)4,歯2
鹿児島大 理1,医(医)1,医(保健)2,歯3,農2 医(医)2,医(保健)3,歯4,農2
三重大 工2 工14
宮崎大        工6,農8,地域資源創成2
埼玉大        教育2、理7,工6
山梨大   医(医)12,工1
群馬大      医(医)6,医(保健)7(4+二次募集3)

追加 2019年度

    追加合格者数 前期(学部,人数) 後期(学部,人数)
1 愛媛大
63
法文20.教育1,杜会共創3.理1,医(医)1,医(看護)1 法文16,教育1,理1.医(医)2.工10,農6
2 筑波大
44
人文・文化3,社会・国際3,生命環境2.理工12,医(医)3,医(保健)4 生命環境5,理工6,情報6
3 信州大 47 理7,医(医)6.医(保健)4,工26.繊維4
4 金沢大 23 理工2.医(医)2.医(保健)3 文系一括5.理系一括11
5 山梨大 20   医(医)20
6 鹿児島大 17 医(保健)1.歯2 理1.医(医)2.医(保健)4.歯5,工2
7 京都工芸繊維大 14 工芸科2 工芸科12
8 島根大 13 法文6.総合理工3.生物資源4
9 埼玉大 12 教育8,理4
10 山形大 11 地域教育文化5,医(看護)1 医(医)4,医(看護)1


 旧帝大並みの研究費をもらっている(その割に施設の老朽化が激しいらしい)筑波大学の追加合格が多いのは、先述の横浜国立大学と同じ理由と考えられます。
 医学部の追加合格が多いですが、当初は定員きっちり合格を出し、欠員が出た数だけ追加合格を出しています。工学部は元々の定員が大きいので追加も多いです。

 

  追加合格があるかどうかは各大学のHPに告知されますので、3月26日以降は該当ページを煙が出るぐらい更新しまくり、携帯電話は肌身離さず持ち歩きましょう。「5回コールで次の人」はテレビ番組の懸賞です。

 もちろん必ず追加があるとは限りませんから、浪人する覚悟ならいいですが、そうでないなら私立にはお金を入れておいた方が賢明です。    

    なお私立大学は所定の手続きをすれば(締め切りあり)入学金以外が返還されますが、すぐにお金が戻ってくる訳ではないので、国立大学の手続き金については保護者と相談してください。

 

4 第二次募集

 

    追加合格を含めてもなお定員が埋まらない大学は、おおむね3月26日ぐらいに欠員補充のための第二次募集が発表されます。

    こちらについても大学のHPで告知があります。文科省がまとめたものを発表しますし、リセマムさんはレスポンス早いので、「是が非でも国立」という方は目を皿のようにしてください。

resemom.jp

    ただし、ここまで来ると学部学科の希望は言えません。

 

まとめ

 

 合格しても辞退するなら最初から受験しないで私の高校の生徒に席を譲ってよ!と思いますが、できる人は総取り、できない人は全滅が受験の世界の掟です。

    私たちはそういうシビアな世界にいるのです。ここで勝ち抜くためには勉強しかないのです。

    まずは気持ちを切らさず中期・後期を受験しましょう。しっかり学力をつけた上で運が巡ってくるのを待ちましょう。