2018年11月実施の大学入学共通テストの試行調査の問題を解いて、新テストの狙いとつけたい力について考えます。最終回です。
今回は字数が多いです。
過去ログ 問題は1にリンクがあります
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大問4
問1 下線部①に関連して,20 世紀前半のヨーロッパにおける政治状況について述べた文として誤っているものを,次の1 〜4 のうちから一つ選べ。( 23 )
1 スペイン内戦で,フランコが勝利した。
2 ユーゴスラヴィア連邦が解体した。
3 イギリスで,保守党と労働党が二大政党となった。
4 フランスとベルギーが,ルール地方を占領した。
正解は2。3は「マクドナルドが労働党単独政権で世界恐慌の時に失業保険を削減して党から除名された」→1929年の後と「年号サーフィン」する。
ユーゴスラヴィア内戦について
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問2
⑴ 絵(註:ポーランド分割の風刺画)の中の「あ」と「い」(註:オーストリア以外のポーランド分割に参加した君主)について,それぞれが表している国とその君主の名の組合せとして正しいものを,次の1 〜6 のうちから一つ選べ。なお,正しいものは複数あるが,解答は一つでよい。( 24 )
1 あ:ロシア― エカチェリーナ2 世
2 あ:イギリス― エリザベス1 世
3 あ:フランス― ルイ14 世
4 い:ロシア― ニコライ2 世
5 い:プロイセン― フリードリヒ2 世
6 い:イタリア― ヴィットーリオ= エマヌエーレ2 世⑵ ⑴で選んだ答えについて,その国や王朝の歴史について述べているものを,次のa〜hから三つ選択し,それらを年代順に配列したものとして正しいものを,下の1 〜8 のうちから一つ選べ。( 25 )
a シュレジエンを獲得した。
b ウィーン会議に参加した。
c ローマ教皇領を併合した。
d ペテルブルクを築いて,都とした。
e テューダー朝が開かれた。
f ユトレヒト同盟を結成した。
g ドイツ帝国を建国した。
h 三国協商を形成した。1 a → b → g 2 b → a → h 3 c → a → b
4 d → b → h 5 e → f → b 6 f → g → h
7 g → a → d 8 h → e → c
正解は(24)1(25)4 または(24)5(25)1
25はよくある整序問題だが、不要なものが混じっている。事項から「いつ、どこ、なに」を思い出すトレーニングをする。
資料1 トルコ語碑文「ビルゲ= カガン碑文」(735 年建立)
天神のごとき天から生まれた突厥のビルゲ= カガンとして,この時,私は即位した。ウテュケン(モンゴル高原にある聖山)の山林より良いところはない。国を保つべき地はウテュケンの山林である。この地に住んで,我々は中国の民と和睦した。彼らは金・銀・酒・( ア )を限りなく与える。中国の民の言葉は甘く,その( ア )は柔らかい。甘いその言葉,柔らかいその( ア )に欺かれて,多くの突厥の民が死んだ。その地に行くと,お前たち突厥の民よ,死ぬぞ! ウテュケンの地に住んで,隊商を送るのであれば,お前たちにいかなる憂苦もない。
アルタン= ハーンが中国に出発して迫り,平等に大いなる政事を話し合うために駐営すると,中国の明皇帝は,モンゴルのアルタン= ハーンに順義王という尊い称号を奉り,大いに金銀など諸々の財物と,莫大な量のさまざまな( ア )の衣服を与えた。アルタン= ハーンをはじめ数多くの王侯たちは,規約を定めて中国とモンゴルの政事を協議して定めて,莫大な賞賜と交易品の望んだものを取って,引き揚げた。
問3 資料中の空欄( ア )に当てはまる語a・bと,資料1 と資料2 から読み取れる事柄あ・いとの組合せとして正しいものを,下の1 〜4 のうちから一つ選べ。( 26 )
アに当てはまる語
a 綿織物 b 絹織物読み取れる事柄
あ 中国王朝は,遊牧国家の武力を警戒する一方で,遊牧社会から物産を入手しようとしている。
い 遊牧国家は,漢人社会の経済に組み込まれることを警戒しながらも,中国王朝から物産を入手しようとしている。1 a ― あ 2 a ― い
3 b ― あ 4 b ― い
正解は4。知識と読解の複合問題。冊封・朝貢に関する出題は前年度もあったが、これは新テスト風の仕上がり。
なお契丹は北宋から絹や銀をもらっていたが、その銀でさらに絹を買っていたので、銀は商工業地帯に戻り、それを北宋が徴税して再び契丹に送る、という銀の循環システムが生まれた。
問4 資料1 は,630 年に中国王朝に一度滅ぼされた後,復興した突厥で立てられた碑文の一部である。この中国王朝について述べた文として最も適当なものを,次の1 〜4 のうちから一つ選べ。( 27 )
1 現住地で所有している土地・財産に対して課税する税制が採用された。
2 天子の力が衰え,有力な諸侯が,天子に代わって諸国を束ねた。
3 口語に近い文体で表現する,新しい文学運動が唱えられた。
4 人材を九等で評価して推薦する官僚登用法が採用された。
即答で1。
問5 資料2 は,中国の王朝と自国との関係を,自国の優位ないし対等とする立場から述べた歴史書の記述である。これとは異なる立場に立って書かれたと考えられる資料を,次の1 〜4 から一つ選べ。( 28 )
1 隋に宛てた日本(倭)の国書:日出ずる処ところの天子が,書を日没する処の天子に致す, 恙はないか。
2 明に送った琉球国王の国書:琉球国王の尚巴志が謹んで申し上げる。我が国は,父祖が太祖皇帝(洪武帝)から暦を頂戴して臣属して以来,今に至るまで五十数年,厚い恩を受け,折にふれ朝貢している。
3 ベトナムの黎朝が出した布告:我が大越の国は文を重んじる国であり,国土は別々である上に,習俗もまた南北(ベトナムと中国)で異なっている。趙・丁・李・陳(ベトナムの諸王朝)が我が国を興して以来,漢・唐・宋・元とそれぞれ並び立つ帝国をつくってきた。
4 チベットのラサに立てられた「唐蕃会盟碑」チベットと中国の両国は,現在支配している領域と境界を守り,その東方全ては大中国の領域,西方全てはまさしく大チベットの領域で,チベット人はチベットで安らかにし,中国人は中国で安らかにするという大いなる政事を結んで一つにした。
読む分量が多いが即答で2。選択肢間消去で解答可能。
中華帝国と周辺地域の関係は、域内(羈縻政策)、冊封、朝貢、同盟関係(家人の礼)とグラデーション。昨年の大阪大学、名古屋大学で出題。
日本は7世紀以後は「化外」(中華とおつきあいできる文化レベルでない)の立場を利用して「文化だけいただく」という戦略をとる。
大問5
グラフは省略。
問1 生徒Sの発言(註:3人の生徒の仮説の背景にあるものを述べる)中にある空欄( ア )に入れる文として適当でないものを,次の1 〜4 のうちから一つ選べ。( 29 )
・機械化によって大量生産が可能になった
・機械の燃料となる石炭の輸送費が下がった。
・人件費が安くなったことも影響している。1 蒸気機関が,工場の動力として導入されたこと
2 運河や鉄道などの交通網が整備されたこと
3 保護貿易によって,輸入品の価格が下がったこと
4 囲い込みの進展で,都市部に人口が流入したこと
正解は3。国語の問題だがイギリスで最初に産業革命が起きた背景は記憶。
「イギリスで消費される原料綿花は,18 世紀末まではイギリス領西インド産の割合が多いのですが,19 世紀に入ると, ( イ )産の割合が急増し,1840 年頃には4 分の3 以上を占めます。( イ )産は,( ウ )で大量生産される低コストの綿花でしたので,その割合が急激に増加したものと考えられます」。
問2 先生の説明の中にある空欄イとウに入れる語句の組合せとして正しいものを,次の1 〜4 のうちから一つ選べ。( 30 )
1 イ― インド ウ― 農奴を領主直営地で働かせる制度
2 イ― インド ウ― 黒人奴隷を大農園で働かせる制度
3 イ― アメリカ合衆国 ウ― 農奴を領主直営地で働かせる制度
4 イ― アメリカ合衆国 ウ― 黒人奴隷を大農園で働かせる制度
正解は4。グラフの読み取りを伴うが基本的に知識問題。
問3 先生の指示によって生徒たちが作った次のパネル(インドから西への綿布輸出とイギリスから東への綿布輸出の推移に関するグラフを参考に発表する)のうち適当でないものを,次の1 〜4 のうちから一つ選べ。( 31 )
1 1820 年頃を境に,イギリス産綿布の東への輸出総額が,インド産綿布の西への輸出総額を上回りました。
2 産業革命期において,イギリスの綿糸価格が下落した最も大きな要因は,原料綿花コストが下がったことです。
3 19 世紀半ばのイギリスは,アメリカ合衆国産の綿花を主な原料として綿布を生産し,インドなど東へ大量に輸出しました。
4 イギリスで産業革命が進展した時期には,イギリスからの綿布輸出と,イギリスへの原料綿花の輸入は共に増加傾向にあります。
即答で2。国語の問題。
問4 生徒の発言中にある空欄( エ )(註:グラフで石油価格が1970年代まで大きく変動がない、その為替面からの理由)に入れる文として最も適当なものを,次の1 〜4 のうちから一つ選べ。( 32 )
1 世界貿易機関が,自由貿易のルールづくりを推進していた
2 米ドルに対する各国通貨の交換比率が固定されていた
3 アムステルダムが,国際金融の中心として機能していた
4 大国が,植民地を囲い込む経済ブロックを形成していた
正解は2。知識問題。
問5 下線部①の人物(為替相場が変動した時のアメリカ大統領)の外交に関する事績として正しいものを,次の1 〜4 のうちから一つ選べ。( 33 )
1 ヨーロッパ諸国とアメリカ大陸の相互不干渉を表明した。
2 国交のない中華人民共和国を訪問し,関係改善に踏み出した。
3 共産主義陣営に対し,封じ込め政策を開始した。
4 ラテンアメリカ諸国に対し,善隣外交を展開した。
即答で2。アメリカ大統領の「したこと整理」は受験の定番。1モンロー 3トルーマン 4F.ローズヴェルトと、事項から名前が思い出せること。
問6 下線部②に関連して,次の文章中の空欄(オ)と(カ)に当てはまる国について,それぞれの位置を示す地図中のa〜dの組合せとして正しいものを,下の1 〜4 のうちから一つ選べ。( 34 )
註:地図はa:アフガニスタン b:イラン c:イラク d:サウジアラビア
Yの時期(註:1979年)には, ( オ )で王政が倒れ,イスラーム共和国が成立した。
Zの時期(註:1991年)には,隣国を侵略した( カ )に対し,多国籍軍が組織された。1 オ― a カ― c 2 オ― a カ― d
3 オ― b カ― c 4 オ― b カ― d
正解は3。戦後史は受験生には手が回りにくい一方、出題者はテレビの前で釘付けになった懐かしい記憶。GG(ゼネレーションギャップ)問題。
まとめ
新テストの目玉は「言語活動」つまり読解を含む問題です。今回の問題のうち特徴的なものをピックアップしました。
問題 | 内容 |
7 |
カナダで英語とフランス語を第一言語とする地域がある理由 |
13 |
ヨーロッパによる東南アジアの植民地化 |
14 |
孫文らの活動内容 |
16 | |
26 | |
28 |
資料から対等か、冊封かを判断する |
31 |
イギリスとインドの綿布輸出のグラフから読み取れないものを選ぶ |
このうち13、14、26、28は植民地化と民族運動、中華帝国との原理など歴史的な概念を知っている上で読解を伴う問題です。
ただ7や31は選択肢間で消去できる(28も)、16は「スカルノ」を知っているかで勝負が決まる問題です。
他にも読む分量が多い割には知識勝負の問題も散見されますし、大問5はアクティブラーニングの形式になっていますが知識問題です。
歴史学は暗記の学問ではないのは自明ですが、歴史的思考力には「知識のストック」と「知識の運用」が欠かせません。
重箱の隅をつつくような知識は不要ですが、重要な歴史上の出来事について5W1Hが記憶されていて、それぞれを順番通りに配列できる、またそのひとつから残りの5つが瞬時に思い出す、という力は必要です。
この力があってはじめて、各時代、地域での統治システム(今回なら古代民主政治、多文化国家)や地域間の関係性(中華帝国、植民地支配、移民)について、比較したり、関連づけながら考察することが可能になります。
例えば2017年の東京大学の第1問、古代ローマと中華文明の「帝国」を比較する問題は、多数の歴史的事実が頭に入っていないと「帝国」を概念化できません。
ですから「新テスト」も、知識と問う問題がベース(もちろん微細な知識は不要)で、多少知識を運用する出願を混ぜるでかまわないと思います。
形式や場面の目新しさもそう重大なことではありません。
さて来年はどうなることやら。