ぶんぶんの進路歳時記

学習方法、進路選択、世界史の話題について綴ります

文楽『桂川連理柵』を鑑賞する@三重県文化会館

    うちの子どもがめでたく文楽など古典芸能を「激推し」する(あの方の発言がきっかけ?)国公立大学に合格しました。

    その記念に、手頃な料金で文楽が鑑賞できるという話を聞いたので三重県文化会館へ行きました。

 

中ホールと小ホールは演劇用で意欲的な催し物が企画されています。

www.center-mie.or.jp

 

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会場に行くとすごい人でした。ホワイエで人形と記念撮影ができました。

 

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夕方の講演『曽根崎心中』の出演者です。 握手とお辞儀をしてくれました。会いに行ける文楽

 

 演目は『桂川連理柵』(かつらがわれんりのしがらみ)でした。

 1776(安永5)年が初演、京都・桂川で娘と中年男の死体があがったという事件をもとに生まれた「お半長右衛門」の情話が下敷きです。歌舞伎、落語の題材にもなっています。

 

*史実では、呉服屋の番頭長右衛門が帯屋のお半を大坂に奉公に出す同行中に桂川の渡しで強盗殺人にあったらしいのですが、年の差カップルの変死事件に想像力が湧いてきて(笑)心中話に仕上がりました。創作の動機は今も昔も同じです。

 

 上演は「六角堂」「帯屋(前と切)」「道行朧の桂川」の三幕でした。

 

 そこまでのあらすじです。

 

 京都の帯屋の主人である長右衛門(38歳)は遠州からの帰途、伊勢詣りから帰る隣家信濃屋の娘お半(14歳)一行に出くわし、石部(現滋賀県)の宿で同泊します。

 その晩、丁稚の長吉に言い寄られて逃げてきたお半を長右衛門はかくまいます。お半は幼いときから長右衛門に好意を抱いていて、同じ布団で寝ているうちに盛り上がってしまい、性行為に及んでしまいます。その結果お半は妊娠します。

 

未成年とエッチかつ「14才の母」! ゲ○不倫!?

 

*丁稚の長吉がその様子を見てしまい、ムカッときて長右衛門が大名から預かってきた脇差しをすり替えます。これが後で長右衛門を追い詰めます!

 

 

六角堂の段

 

 長右衛門の女房お絹がお百度を踏んでいると、隠居している父繁斎の後妻の連れ子儀兵衛がやってきて、夫とお半の情事を知らされます。

    儀兵衛は証拠の手紙をネタに関係を迫りますが、お絹は撃退します。逆に長吉を買収して口止めを画策します。

 

 

帯屋の段 前

 

 繁斎の後妻おとせと儀兵衛は兄長右衛門を追い出そうと、繁斎やお絹の前で、長右衛門に使途不明金があること(ついでに自分たちがくすねた金も長右衛門になすりつけようとする)、預かった刀を紛失したことを暴露し、とどめとばかりにお半が長右衛門とのエッチを綴った手紙を読み上げます(文○砲?)。

 

うぁ、修羅場!? 長右衛門大ピンチ!

 

 しかしお絹は口裏を合わせた長吉を使って長右衛門を救います。また繁斎はおとせと儀兵衛の行為を「道理に反する」と叱責します。

 

*長吉が鼻水をすすって鼻にしまう、儀兵衛が手紙をいやらしく読む(広げた巻物をCGのように高速で元に戻すところが見もの!)、「お半と寝たのは長吉」というお絹の話に対して儀兵衛が長吉をからかい、大笑いして木戸に頭をぶつけるシーンは笑いどころです。

*後妻のおとせは元々は使用人でしたが、今は親として大事にしなければならないこと、弟儀兵衛が兄長右衛門を箒でひっぱたくことは許されないなど、修羅場の中でも「儒教倫理」は守られます(皮肉ともとれますが)。この辺はEテレのドロドロ人形劇『ねほりんはぽりん』に通じる教育的な展開です。

  

YouTubeの埋め込みに初挑戦


文楽「桂川連理柵 帯屋の段」 - 竹本住大夫 Bunraku Puppet

 

 

帯屋の段 切

 

 何とかその場は収まりましたが、お絹はすべてお見通し(このシーンのお絹は恐ろしいです。不倫はやめましょう)、使途不明金にも理由がありました。

    それでも長右衛門は刀の件にお半の妊娠と「不祥事のデパート」です。「死んでお詫びするしかない」と追い詰められます。

 そしてそれは縁談話が進むお半も同じです。

 長右衛門は会いに来たお半を追い返しますが、自殺をほのめかす書置を見つけて夜の桂川へ急ぎます。

 

*死を覚悟したお半が「最後にひと目」と長右衛門に会いに来て抱き合うシーンは切なく、エロスを感じます。

 

 

道行朧の桂川

 

 最後は浄瑠璃です。一緒に死ぬか、生きて恥を晒すのか、二人の心が揺れるのにあわせて唄、三味線、人形の舞が交錯します。まさにオペラです。

    ついに「一緒に死ぬのが運命」と悟った長右衛門は、お半とともに桂川の水面を目指します。

 


宮薗節・桂川恋の柵/ 桃山晴衣(浄瑠璃)宮薗千駒(三味線)

 

*この時、長右衛門はかつて芸者と心中未遂を起こし、自分だけ逃げ帰った過去が明かされます。どこまでもゲス男です(笑)。

 

 

まとめ

 

 この年になってはじめてライブで文楽を鑑賞しましたが、シリアス、サスペンス、コメディー、お色気(笑)はもとより、事件で生じた「亀裂」によって隠されていた人間の関係性があらわになるところは、私たちの表現文化と何ら変わりません。

 文楽を「旧を守って営業努力をしていない」とか言う人がいるそうですが、古典は「古い」のではなくいつの時代の人にも新しい、まさに普遍性を感じました。

 お近くにあるなら是非鑑賞してください。

 

 ただしお客さんの圧倒的多数は年配の方なので、学生さんはその中で鑑賞する少しの勇気(およびお小遣い)は必要かも(笑)。

 

こちら

国立文楽劇場 | 独立行政法人 日本芸術文化振興会