ぶんぶんの進路歳時記

学習方法、進路選択、世界史の話題について綴ります

ヒアリとグローバル化@三重県立博物館2017

 各地の港湾のコンテナなどでヒアリが見つかって大騒ぎになっている最中、私がよく横を通る四日市港でも在来種と確認できないアリが見つかりました。

 調査の結果、ヒアリなど特定外来種ではなかった模様です。

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いらすとやさん、仕事早いです。


 先日三重県立博物館に行くと、エントランスにヒアリの標本が展示されていました。

 以下は展示の説明、環境省のHPおよび啓発パンフレット(『ストップ・ザ・ヒアリ』)を中心に、一部NHKEテレ『地球ドラマチック』の内容を参考にして、ヒアリについて考察し、事故防止につとめたいと思います。

 

環境省ホーム>政策分野・行政活動>政策分野一覧>自然環境・生物多様性>外来生物法について>ヒアリに関する諸情報について

 

環境省_ヒアリに関する諸情報について

 

『ストップ・ザ・ヒアリ

https://www.env.go.jp/nature/intro/4document/files/r_fireant.pdf

 

 


1 ヒアリとは?

 

 原産地は南米で、日本国内では未定着ですがアメリカや台湾では広く定着しています。毒性が強く、毒針で刺されるとアレルギー反応で死に至ることもあるので、外来生物法で「特定外来種」に指定されています。

 見た目は赤っぽくツヤツヤしていて腹部の色は暗めです。働きアリは2.5mm~6.5mmと小さいですが、個体の大きさが連続的に違うのがヒアリを見つける手がかりです。

 

 展示物には台湾産のヒアリ(女王アリ、オスアリ、働きアリ)の実物標本計4個体と、日本で確認された実物標本2個体が展示されていました。小さくて、虫眼鏡で覗いてもよく分からないです。

 展示説明によると、腹柄(第二節と第三節をつなぐところの盛り上がり)がふたつ、触角が10節で棍棒部分が2節、などが見た目の違いです。

 ヒアリと似ている在来種はオオズアリ、ヒメアリなどで、拡大写真をよく見ると確かに違いがわかりますが、肉眼では??です。

 

環境省『ストップ・ザ・ヒアリ』4ページのスクリーンショット

環境省のコンテンツは出所を明らかにすれば改変、公衆送信可とのことなので、自説のために引用します(写真の出所記載がないから環境省のですよね?)

 

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2 生態系を破壊する!

 

 一般に外来種は、原産地にいる時は生態系の中に天敵がいるので個体数は抑えられます(どう猛なヒアリがビビる生物って?)。しかし新天地ではやりたい放題、ヒアリはものすごい勢いで繁殖します。

 ヒアリの特徴は「アリ塚」で、土で直径25~60 cm、高さ15~50 cm のドーム状のアリ塚を作ります。このアリ塚が地下トンネルでつながっていてコロニーを形成します。在来種のアリはこのようなアリ塚を作りません。このコロニーの中にヒアリが数万~数十万匹いるそうです。

 

環境省『ストップ・ザ・ヒアリ』3ページのスクリーンショット

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 女王アリは一日100個の卵を産みます。コロニーの中に複数の女王アリがいることもあります。

 ヒアリは極めて攻撃的で、競合するアリを毒針で攻撃します。節足動物のほか爬虫類、小型哺乳類をも集団で攻撃し捕食することが知られています。


*発展:ヒアリは環境適応能力に優れ、洪水が起こると働きアリが合体して「いかだ」を形成し、女王アリや卵を守ります(『地球ドラマチック』その他参照)。

    またアブラムシの分泌物を好み、その天敵のテントウムシを攻撃するのでアブラムシが増え、作物に被害が及びます。

 

定着したらかなりやばい!

 


3 刺されるとマズイ

 

 ヒアリの毒にはアルカロイド系のソレノブシンやホスホリバ-ゼ(ハチの毒にも含まれる)が含まれます。特にハチに刺されたことがある人は要注意です。

 刺された場合の症状は人によって異なります。

 軽い症状だと痛みと痒み程度ですが(刺されると熱いので「fire aunt」という)、中度の症状では刺されてから数分から数十分後ぐらいに刺された部分を中心に腫れが広がり、じんましんが現れることがあります。

 ひどい場合は激しい動悸やめまいが起こすことがあり、進行すると意識を失います。いわゆる「アナフィラキシーショック」です。放っておくと危険です。

 

*発展:アレルギー症状が重い人は、「エピペン」(アレルギー症状を緩和するアドレナリン自己注射キット)を医師に処方してもらっているそうです。ヒアリに刺されたときも有効です。

 

 もしヒアリに刺された場合は、20分~30分は横になって安静にして、体調に変化がないか注意して、無事でも病院へ行きましょう。アレルギー反応が出たらすぐ近くの病院へ急行しましょう!

 

 

4 駆除は可能

 

 ヒアリは熱湯をかけると死にますが、巣の奥の女王アリまで駆除できません。市販の殺虫剤も有効です。時間はかかるものの最も効果的なのは毒餌(ベイト剤)で、ヒアリが巣に持ち込み、巣の中の個体も駆除できます。

 ただしヒアリを駆除する殺虫剤等は在来種のアリも殺してしまいます。

 『地球ドラマチック』によると、ヒアリに卵を産み付ける「ゾンビバエ」がいるそうです。ヒアリの体内で卵がかえるとヒアリの体液を餌にしながら徐々に頭部に向かい、脳を食べたらヒアリの首を切り落として外へ出てくるそうです。

 

怖すぎ!

 

*発展 アメリカではこのゾンビバエを使ってヒアリを駆除しているところもあるそうです。ゾンビバエはヒアリのみを攻撃するので、ヒアリが死ぬとゾンビバエも繁殖しなくなるそうです。

 しかし外来種を駆除するのに外来種を導入するのは不安です。

 

 環境省によると、ヒアリらしきものを発見したら殺虫剤等で殺してからテープに挟んだり小瓶に入れるなどしてサンプルを採集し、専門機関に鑑定を依頼してください、とのことです。生け捕りはダメですよ!

 

 

まとめ

 

    人類はこれまで移動による疫病の拡大を何度か経験しています。

 有名なのは14世紀にヨーロッパで流行した黒死病です。港町から感染が拡大したことから、13世紀から始まる世界規模の交流の活発化が一因とされています。

 

*発展:   遺伝子解析から「ペスト菌の共通祖先が中国に起源を持つ可能性が高い」という研究報告があります。13世紀のモンゴルによるユーラシアの一体化や15世紀の鄭和の南海遠征との関係性も指摘されています。

 

    また20世紀初頭の「スペイン風邪」は、第一次世界大戦で植民地から動員された兵士が復員して世界中に拡散したという説もあります(「スペイン風邪」の名称は大戦中に中立国のスペインの情報のみが伝わったため、といわれます)。

 ヨーロッパ人によって「新大陸」に持ち込まれた天然痘が先住民人口を減少させたことも有名です(以上3つは大阪大学の過去問にあり)。

 

 ヒアリが北米南部に定着したのは、南米からの船がヒアリが紛れ込んだ砂を船のバラストに使っていて、出航するときにその砂を港に捨てたことがきっかけだそうです(『地球ドラマチック』より)。

 またヒアリは巣と巣の間にトンネルを掘りますが、硬い土よりも人間が掘り返して柔らかくなった土、つまり宅地や農地が生育に好都合です。

 人為的に移動してきて、人為的な土地を好み、在来種を攻撃する。ヒアリグローバル化時代の申し子のようです。

 

    とにかく水際対策、正しい知識、情報開示が重要だと感じました。

    展示は9日3日(日)まで、入場無料です。