ぶんぶんの進路歳時記

学習方法、進路選択、世界史の話題について綴ります

少子化なのに私立大学が定員増加?について考える

 2017年6月29日に新聞各社が「23区私大、2183人定員増」と報じました。

 

 文部科学省は29日、2018年度の私立大学の収容定員を発表し、47校が5701人の定員増を認められました。

 政府は9日に東京23区内の定員増を原則認めない方針を閣議決定し、文科省はこれ受けて12日に23区内で増員を計画していた12大学に3月の申請内容を見直すよう求めました。しかし大学は応じず、計2183人分の定員増が申請通り認められました。

 昨年の同時期にも44 校7,354 人分の増加が認められています。

 

*発展 急に「見直し」の話になったのは、政府の「地方大学の振興及び若者雇用等に関する有識者会議」が、地方大学の振興や東京一極集中の是正などについて『中間報告』を出したからだと思われます。

2017年6月の記事

eic.obunsha.co.jp

2015年度2月、2016年度8月の記事も参考にしています。

 

 18歳人口は下の表のように1992(平成4)年をピークに減少し、2018年から再び減少します。

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出典 文部科学省ホームページ 中央教育審議会大学分科会大学規模・大学経営部会(第9回)H22.12.9 資料2-2 のスクリーンショット

 

    今回、大学の「駆け込み」とも思える増員が続いたのは、文科省が定員超過の私立大学に対する補助金不交付などの基準を段階的に厳しくしたからです

 しかし定員が増加した割には、難関私立を中心に合格者が減っています。

 

 定員管理が厳格化されると定員が増える? 定員が増加すると入試が難しくなる? 今回はその謎について迫ります。

 

 

1 補助金がもらえない!

 

 文部科学省高等教育局が平成27年7 月10 日が学校法人理事長宛てに通知した「平成28年度以降の定員管理に係る私立大学等経常費補助金の取扱について」によると、

 

 平成26年度には、全国で約4万5千人の入学定員超過が生じており、そのうち約7割にあたる約3万1千人が収容定員4,000人以上の大・中規模大学に集中している。全国の約4万5千人の入学定員超過のうち、約8割である約3万6千人が三大都市圏に集中している。さらに収容定員4,000人以上の大・中規模大学における約3万1千人の入学定員超過のうち、約9割である約2万7千人が三大都市圏に集中している。このことから、大・中規模大学に定員超過学生は集中しており、これら学生は三大都市圏に集中しているといえる。

引用元

平成28年度以降の定員管理に係る私立大学等経常費補助金の取扱について(通知):文部科学省

 

 これを是正するために、まず私学助成が全額不交付となる入学定員充足率の基準が変更されました。

 

 私立大学は国立大学と違い何校でも受験でき、合格した中から進学先を選びます。大学は、合格した生徒のどれだけが入学手続きをするか、いわゆる「歩留まり」を予想して合格者を出します。

 定員ピッタリはほぼ無理です。そのために「定員充足率」が幅をもって設定されています。その幅を超えて入学させると、ペナルティーとして「私立大学等経常費補助金」(以下「補助金」)が交付されません。

 この幅が狭くなるということです。

 

表1

大学規模

8,000人以上

4,000人以上8,000人未満

4,000人未満

現行

1.2倍以上

1.3倍以上

改定後

2016年度

1.17倍以上

1.27倍以上

1.3倍以上

2017年度

1.14倍以上

1.24倍以上

2018年度

1.10倍以上

1.20倍以上

*医歯学部の入学定員超過率は既に1.1倍。

 

 さらに2019年度からは「入学定員を上回る学生分について交付金を減額」します。

表2

大学規模

8,000人以上

4,000人以上8,000人未満

4,000人未満

補助金の減額

超過入学者分

超過入学者分の1/2

超過入学者分の1/3

 

 ただし合格者を絞りすぎて入学者が定員を下回る可能性もあります。それだと大学が損をするので、文部科学省は「インセンティブ」として、入学定員充足率が0.95倍以上、1.0倍以下の場合には、一定の増額(下回った生徒分の補助金を増額)措置をとるとしています。

 

 

2 受験生は大都市を目指す

 

 実態はどうでしょうか。


 日本私立学校振興・共済事業団は、平成28年度「私立大学・短期大学等入学志願動向」が大学 577 校について調査したところによると、規模別では、800人未満規模のグループは定員割れ、一方800人以上規模のグループは100%を超えています。

 地域別では「三大都市圏」(埼玉、千葉、東京、神奈川、愛知、京都、大阪、兵庫)が106.44%、「その他の地域」が97.79%となっています。

 

引用元

私立大学・短期大学等入学志願動向|私学振興事業(助成業務)|私学事業団

 

 

3 上に政策あれば下に対策あり

 

 私立大学にとって国の補助金が交付されないのは死活問題です。

 

*発展 定員超過とその後の対応で批判を受けたのが2008年の立命館大学生命科学部です。この新設学部は人気を集め、280人の定員に対して415人が入学手続きを行い、入学定員超過率は1.48倍に達しました。

 先述のように補助金の交付基準は1.3倍未満ですが、新設学部は1.4倍未満までOKでした。そこで大学は他学部への転籍希望者25名(390÷280=1.39)を募集し、最終的に8人が転籍の申請をしました。

 この件の経緯および大学側の検証は立命館大学のHPで公開されています。


引用元 

http://www.ritsumei.jp/topics_pdf/admin_263201b47b92c841c63e239f176d91d3_1213936483_.pdf#search=%27%E7%AB%8B%E5%91%BD%E9%A4%A8%E5%A4%A7%E5%AD%A6+%E5%AE%9A%E5%93%A1%E8%B6%85%E9%81%8E%27

 

 そこで大都市圏の私立大学は定員を大きくした上で合格者を絞り、定員充足率を基準の範囲に収めるという対策をとりました。

 

 例えば立命館大学経済学部は昨年度定員735名に対して847名が入学(115.2%)、2016年度基準ではセーフですが2017年度ではアウトです。

 そこで2017年度は定員を60人増やし、昨年度合格者3,535名(2.4倍)に対して今年度は3,264名(前年比92% 倍率2.8倍)と合格者を絞りました。

 他方国際関係学部は昨年度282名のところ286名の入学者で、今年度は30名増員し合格者も50名増やしています。大学全体で定員充足率を調整しています。

 また後期入試(3月に実施)では合格者の全体が昨年度1,164名から856名と減少しています。

 

 こうした大学側の工夫で、三大都市圏の私立大学は志願者は増加したのに合格者数は軒並み前年比100%割れ、つまり合格しづらくなりました。

*参考:各大学のHP及び河合塾「第1回大学入試情報分析報告会」資料

 


4 いたちごっこ?

 

追記7/2  文科省通知の引用元が抜けていたので追加しました。

 

 大都市の私立大学への集中を減らすための「定員厳格化」だったのですが、逆に定員が増えてしまいました。 

 文部科学省の別の一手が「学部新設の厳格化」です(「大学等の「設置認可」に係わる基準の一部改正」通知  平成27年9月)。

 

 学部等の新設や既存学部等の定員増を申請する場合、従来は大学の規模にかかわらず、既存学部ごとに過去4年間の入学定員充足率の平均が1.3倍以上だと認可されませんでした。

 2017年度新設分からは大学の規模と既存学部の規模によってこの基準が変わり、全体として厳格化されます。また規模の異なる学部が存在する場合はそのすべてで基準を満たす必要があります。

    つまり「定員超過状態を解消してから新設しなさい」です。

 

表3 学部新設が不認可となる定員充足率(新設前年度から過去4年前の平均)上記通知を元に作成

大学規模(収容定員)

4,000人以上

4,000人未満

学部規模(入学定員)

300人以上

100~300

100人未満

すべて

現行

1.3倍以上

改定後

2017年度新設

1.25倍以上

1.30倍以上

1.30倍以上

2018年度新設

1.15倍以上

1.20倍以上

1.25倍以上

2019年度新設

1.05倍以上

1.10倍以上

1.15倍以上

 

*2018年度に大規模大学が新設学部を目指す場合、300人規模の既存学部を2014年1,19倍、2015年1.19倍と調整してきたら、2018年度に平均1.15倍にするためには残り2年を1.10倍程度に押さえる必要があります。

 

 

 

まとめ

 

1 私立の入試が厳しくなった!

 

 私立大学の合格者数が減ったことは受験生に大きな影響を与えました。

 

 「国立至上主義」の高校は「私立に合格するとモチベーションが下がる」という理由で私立の公募推薦は出させず、一般入試も受験を抑制する傾向にあります。

 今回の件で「意中の国立が危なくなってから難関、中堅私大の三月入試を出せば何とかなる」という指導だと、行き場がなくなる生徒が出てくる危険性があります。

 また「最後まであきらめるな」が合言葉の「進学校」は「私立は受け続ければ最後は合格する」という考えを再考する必要があります。

  

 

2 それでも生徒は大都市へ?

 

 リクルート進学総研の「18歳人口・進学率・残留率の推移 」によると、大都市部の生徒の残留率は40%以上に対して、それ以外の地域では20~30%台です。

 また河合塾の『栄冠目指して』Vol.1を見ると、ボーダー偏差値(合格・不合格が五分五分のライン)が低い大学が大都市圏以外で目立つのが悲しい現実です。

 

souken.shingakunet.com

 

注意! 偏差値は「入りにくさ」の指標であって、大学の教育や研究内容の指標ではありません。

 

 そもそも大学が多すぎです。18歳人口がピークの時に定員を増加させた私立大学が、生徒減少期に新設・改組を繰り返して定員を減らさなかったことが問題の発端だと思います。

 かといって生き残りのために大都市=総合大学、地方=一芸(地域創生や資格)大学という「棲み分け」を押しつけるのには違和感を覚えます。

 

 しかし、私の高校の生徒が好んで目指す大都市圏以外の私立大学があります。

 資格に強い(畿央大学)、地元で教員するなら無双(皇學館大学)、何やら面白そう(金沢工業大学)など「強み」がある大学です。入試担当者と話す機会がありますが、これら大学の「企業努力」(学校法人努力?)は並大抵ではないです。

 

 同じような大学なら生徒は「キラキラのキャンパスライフ」を優先するのが現実です。「身の丈にあったサイズ」と「教育と研究の独自性」で勝負する大学に生徒が魅力を感じ、受験することが私立大学の活性化を後押しすると信じます。

 

*発展 「私立の獣医学部は倍率約20倍」という話を聞いたら、「新設すれば受験生がたくさん来る?」という考えが頭をよぎっても不思議ではありません。

*発展 申し訳ないですが私のエリアの進学校は「国立至上主義」で、国公立大学であれば全国どこでも薦めます。んっ! 待てよ…。