ぶんぶんの進路歳時記

学習方法、進路選択、世界史の話題について綴ります

高校二年生4月 やりたいことを見つけるには

 新学期になりました。二年生は「中だるみ」ではなく、この1年間のうちに学習習慣、得意科目、進路先、何より「勉強していて楽しい」気持ちに目処をつけたいです。

 

過去ログ

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 先日リクルートマーケティングパートナーズの佐野正明さんから「これからの進学(将来)に向かって」と題してお話をいただきました。

 私がこのブログで好き勝手言っている(笑)ことの上を行く内容でしたので、許可を頂いてその要旨を引用しつつ、新二年生の心構えについて考えます。

 

* ◎と下線は私が大事だと思った部分です。

 

 

内容

 

1 進路を決める際の基本的なスタンス

 

  •  ◎「やりたいこと」は自分の知っていることの中からしか見つからない。知っていることを増やせば「やりたいこと」に出会う確率が上がる。
  •  人間は「見たいと思ったことしか見ない」性質がある。だから何かあったときにちょっと立ち止まって考える習慣を持つ。
  •  ◎一見自分に関係なさそうなことでも、「もういいや」と思わずちょっとかじってみる
  •  たくさんのことを知っているよりもひとつのことを深く考えた方がいい。例えば「福祉の資格が欲しいが旅行業界にも興味がある」と悩んでいる人は、福祉学科に進んで高齢者が安全・快適にできる旅行を考えることもできる。

 

2 進路の絞り方

 

  •  まず「自分が何に興味があるか」考える。
  • 職業はおおむね「つくる」(製造)「あらわす」(表現)「おしえる」(教育)「つたえる」(伝達)「たくらむ」(企画)「うる」(販売)のどれか。
  •  二年生の時に「これが面白いな」というものに出会う。
  • 興味がわいたものを突き詰めていくとなりたい職業や学びたい学問に出会える。
  •  したいことが思い浮かばない場合は「得意なこと」「活かせること」から考える。英語が好きなら「文学」「語学」「背景にある文化」など、英語のどこに興味があるか深めていく。

 

3 大学の選び方

 

  •  「したいこと」が見えてきたら、それぞれの大学の特徴を調べてマッチングさせる。
  •  大学はイメージではなくデータで比較する。「グローバル○○学科」など似た名前の大学の場合「英語学習がメイン」と「社会の考察がメイン」など学習内容に違いがあり、取れる資格が異なることもある。
  •  大学の学問は常にアップデートしている。受験生は知っている情報だけで判断せず、常にアンテナを張って自分の情報もアップデートする。
  •  合格するのが難しい大学ほど設備、研究資金、人的資源が豊富。知らない世界に出会えて自分を鍛えられる。その結果希望する職種に就く可能性が高くなる。

 

4 普段からの心がけ

 

  •  「行きたい気持ち」と「行くための力」が揃って進路は拓ける。
  •  ◎社会人に必要な「コミュニケーション能力」とは「どうすれば相手に伝わるかを工夫する」スキルと、「伝えたいことをキャッチする」スキルのこと。
  •  ◎自分で自分の可能性に蓋をしない。「もう少し練習すれば」「ここを先生に聞いていれば」と、常にちょっと立ち止まってもう少し考える習慣をつける。
  •  目標が決まっている人は「山登り」学習。目標を決めて、そのためのスモールステップを作り、ひとつひとつこなしていく。
  •  ◎目標が決まっていない人は「筏下り」学習。とにかく目の前のことをクリアしていきながら自分ができることや興味のあることに気付く。

 

 

以下は私の感想です。

 

 

1 「行きたい気持ち」を起こさせる

 

 高校の先生は「まずなりたいことを決めて、必要な仕事を見つけて、必要な大学を見つけて、必要な勉強をしましょう」と言います。

 しかし多くの生徒は「したいことが見つからない、目標が立てられないから勉強する気が湧かない」と言います。逆に「私はペットが好きだから獣医(またはトリマー)」と成績に不釣り合いな志望をして担任を困らせることもあります。

 

 佐野さんがおっしゃるように、「自分が持っている情報は非常に狭い」ことを自覚することです。

 私の住む地方都市だと大卒で就く身近な職業は教育や医療など資格系、他には銀行員など出会える「社会人」の範囲が狭いです。また高校生は勉強、部活、塾、SNSで生活がパンパン、落ち着いて物事を考える余裕がありません。

 

 まずは大学の学問や職業に好奇心を抱くことです。そのための方法は二つです。

 

 ひとつは「現物を見る」です。

 学問については、模擬授業をしっかりやってくれる大学のオープンキャンパスに参加することです。

 学問は多様です。文学部は文学ばかりやっている訳でなく研究内容は多岐にわたります。また福祉と旅行の例のように、最近は境界線に新しい学問が生まれる傾向があります。

 オープンキャンパスに行くとそうした学問の奥深さや、それが社会の何とつながっているのかを知ることができます。

 さらに大学生の先輩の相談窓口があるので、大学や学生生活の裏話(笑)を聞き出すこともできます。

 

*発展 オープンキャンパスに行く前に予習しましょう。

 

お薦め(五十音順) 

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 職業については、プロフェッショナルの話を聞いたり、仕事の現場を見ることです。

 ライフネット生命出口治明さんの講演に参加しましたが、どういう動機で保険業をしているのか、学生時代に何をしなければいけないのかについて、数字・ファクト・ロジックを使って明快に話されていました。

 企業訪問のプログラムがある高校は、大学のどういう学問が現場とつながっているのか、仕事や学問がどのような形で社会に貢献しているのかを実感しましょう。

 

*発展    最近はコンピテンシー(主体性や協働性)を重視するキャリア教育(大学や商店街とコラボするとか)が盛んですが、目的をはっきりさせないと「行事のための行事」に陥り、生徒(教員)に負担感だけが残ってしまうこともあるので注意です。

 

 ただこうしたイベントは一過性のものになりがちです。

 私が重視するのは「高校の教員が自分の専門について熱く語る」です。

 高校生が学問に触れる一番身近な機会は教員です。授業の中で「歴史学はこんなことも研究対象なんだ」「世の中の色々なことは物理でできている」、もっとダイレクトに「○○大学出身の先生は言うことが違う」と生徒が思えば、「大学について掘り下げて調べよう」という気になります。

 いや、そういう気にさせなければいけません。

 

 そのタイミングで担任が「○○大学だとこんなことができる」と水を向けます。教員は自分の専門は当然として、大学の学問に興味を持って守備範囲を広げる必要があります。

 ただし教員も授業以外の業務が多くて生徒と同じく余裕がありません。授業は点数を取るためのドリル、進路指導は受験産業の偏差値(「○○大学は△△大学が無理な生徒が行くところ」と指導されても興味が湧きません。実話)や、「国立か私立か」という表面的な情報だけでは生徒の興味をひくのは難しいです。

 


2 勉強しながら行き先を見つけ、力をつける

 

 進学校に入学した以上は「上級学校への進学」がゴールです。「なりたいことが決まらないから勉強する気が湧かない」という前に勉強するべきです。佐野さんの「筏下り」の例えは秀逸です。川に入った以上は下るしかありません。

 「家業を継ぐために医学部」のように目標がはっきりしている人よりも、そうでない人の方が多数派です。「勉強する中でやりたいことを見つける」方が現実的です。

 

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 そう考えると高校のプログラムは重要です。なぜなら「できること」が増えた方が興味を持つ学問に出会いやすくなるからです。

 予習・授業・復習のサイクル、小テストや定期考査での確認、実力テストで未知の問題に対応する力をつける、一年生で国数英にめどをつけ、二年生で理科や社会で得意かつ将来につながる科目を見つける、というように短期・長期のスパンで生徒を鍛える戦略が必要です。

 

 「自分の教科や部活動だけ強ければいい、よそもビシバシやればいいではないか」という考えでは生徒が消耗するだけです。宿題の量を他教科と調整したり、部活動の休養日を設定したりと、「組織全体で生徒を無理なく鍛える」ことを考えなければいけません。

 

*発展 元プロ野球監督の野村克也さんはことあるごとに「野球人である前に社会人であれ」、つまり野球は勝つことが目標であり、そのためには自分が組織の中でどの役割を担えばいいか考えよ、と言っています。「弱いチームの選手は勝利よりも個人成績ばかり考える」は耳の痛い話です。

 

 三年生になると受験が本格化します。生徒も教員も大学そのものと、入試問題の両方に興味を持って取り組まないと1年間持ちません。行きたくもない大学に合格するために嫌々勉強している生徒に教員が「最後まであきらめるな」と言っても逆効果です。

 二年生が終わるまでに勉強の中で新たな発見をしたいです。

 

 教員も同じです。私が今何とか(笑)進学校でやれているのは、毎年大学の入試問題を解き、生徒とバトルした結果、ものの見方や考え方が更新されてきたからだと思っています。

 

 

まとめ

 

 生徒に余裕がないと目の前のことを疎かにし、その結果進路が見えてきません。だから将来がイメージしやすい資格系に走りがちです。

    また教員も余裕がないと小手先ごとに走ってしまいます。

 将来を考えるにはまず興味を持つ、そして掘り下げることです。それができる環境を整備することが教員の課題です。

 月並みですが、まずは授業を大事にすることにつきると改めて思いました。

 管理職さんには教員数の増加を切にお願いします(笑)。

 

 ご協力いただいたリクルートマーケティングパートナーズ様、ありがとうございました。