ぶんぶんの進路歳時記

学習方法、進路選択、世界史の話題について綴ります

世界史の入試問題について考える(3 一橋大学2017)

2017年入試の世界史の問題について考えます。第3回は一橋大学です。

 

過去の出題についてはこちら

 

bunbunshinrosaijki.hatenablog.com

 

解答例作成の方針と問題の入試方法はこちら

 

bunbunshinrosaijki.hatenablog.com

 

一橋大学 2017年


課題 引用文が述べる現象(貨幣の量が増えると物価が上がる)が、スペインの盛衰と16~17世紀のヨーロッパ経済について与えた影響について 400字

 

マトリックス

 

スペイン

ヨーロッパ経済

16世紀

ポトシ銀山の開発 銀の流入

穀物価格の上昇 物価の騰貴

 

スペインの覇権

封建領主の没落

 

カトリック政策やオスマン帝国との戦いで軍事費増大。

国内貴族を保護して銀は国内産業育成に使われない

商業の中心が大西洋岸に 北イタリア諸都市の衰退

 

オランダ独立戦争

イギリスの私掠船がスペインの銀船隊を襲う 無敵艦隊の敗北

アントウェルペンに銀が集中 毛織物 バルト海交易

17世紀

衰退

オランダが商業の中心に アムステルダム 中継貿易

 

 

英仏の重商主義 毛織物工業を重視

 

解答例

3/6  イギリスと新大陸の銀の関係を追加しました

3/24 「17世紀の危機」について追加しました

16世紀にスペインがポトシ銀山を開発すると新大陸の銀がヨーロッパに流入した。人口増加による穀物価格の上昇もあってヨーロッパでは銀の価格が下落し物価が高騰する価格革命が発生した。このため西欧では封建地代に頼る領主が没落して市民層が台頭し、貿易の中心が大西洋に移動して地中海の貿易都市が衰退した。東欧では輸出用の穀物の生産のために農奴制が強化された。しかしスペインが得た銀はカトリック政策に基づく対外戦争に費やされ、国内産業にも投資されず、ネーデルラントアントウェルペンに銀が集まった。スペインはこの地を圧迫したが抵抗運動が発生しオランダが独立した。またイギリスに銀船隊が襲撃され無敵艦隊が敗北して大西洋の制海権も失い衰退した。17世紀に銀の流入が減って物価が下落し経済が停滞する中でオランダが世界商業の中心となり、イギリスは海賊行為で得た銀で毛織物業を奨励し、重商主義と西欧と東欧の国際分業が確立した。399字

 

 

学習のポイント

 ここ何年かの教養主義から打って変わって、今年は経済系の最高峰らしい世界システム論に関する出題。当ブログの「グローバル化」で一部紹介(予想したのではないので「ズバリ的中」ではないですが)。

 定番部分については「こんなの出ない」とか言わずにちゃんと一通り演習する。慶応の経済学部や商学部の問題をする。

 

 

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 価格革命がスペインの盛衰と16~17世紀ヨーロッパの経済への影響について答える。

 スペインの盛衰については、新大陸から銀が流入→それを元手に対外戦争(カトリックの保護が大義名分)→ヨーロッパの覇権を握る→銀が国内産業育成に使われず、アントウェルペンに流出→オランダ独立戦争→イギリスが私掠船でスペイン船を襲う→無敵艦隊敗北→衰退というストーリーを書く。

 16~17世紀のヨーロッパ経済については、16世紀は価格革命の影響(領主の没落、西欧は工業化、東欧は農場領主制)、17世紀はオランダ、イギリス、フランスの台頭を説明する。スペインの重金主義、オランダの中継貿易、イギリス、フランスの貿易差額主義(毛織物工業の奨励)も比較したい。

 特にイギリスの重商主義はスペインの銀船隊を襲って獲得した「海賊マネー」が元手。ラテンアメリカガイアナスリナムフランス領ギアナが並ぶのは、英蘭仏の海賊行為の名残。

 

追記 3/24

 17世紀は経済の不振、人口増加の停止、物価の下落など「17世紀の危機」と呼ばれる状態になるが、成長に限界に来たこと、気候の変動に加えて新大陸からの銀が入ってこなくなったことも一因とされる(オランダが例外的に繁栄したのはアジア内貿易で日本の銀が手に入ったから)。

 東京書籍と帝国書院の教科書は経済史や「世紀の概観」に強いので先生に頼んで購入し、論述用の教材にすること。

 

 なおちくま新書の『銀の世界史』と『世界史を作った海賊』は「私掠船」などスペインとイギリスの対立について詳しい。最難関大学を受験するなら勉強の片手間に関係する新書ぐらい読んでおくこと。

 

 

問1 トルデシリャス条約

問2

課題 19世紀の奴隷解放の歴史のなかでハイチとアメリカ合衆国はそれぞれ他とどのような異なった特徴を持っているか。100字

 

解答例

ハイチではプランテーションの黒人奴隷が蜂起し、1804年にフランスから独立して黒人共和国となり奴隷制が廃止された。アメリカ合衆国では奴隷制をめぐって南北戦争が勃発し、北部が勝利して奴隷制憲法で禁止された。100字

 

ポイント

 ハイチは奴隷の蜂起から共和国成立、アメリカ合衆国南北戦争の結果であることを示す。字数が少ないので固有名詞は避ける。

 

問3

課題 ラテンアメリカ独立運動の契機、担い手、独立後の経済政策 275字

 

メモ

契機 アメリカ独立革命、ナポレオンのスペイン征服 ウィーン会議後の反動

担い手 中心はクリオーリョ。革命には他の階層も動員

独立後 イギリスに経済的従属 クリオーリョの地主制は解消されず。

ブラジル ポルトガル王子を皇帝に迎え平和的に独立。


解答例

スペインがナポレオンに征服され植民地支配が緩んだことやイギリスの海上封鎖を契機にラテンアメリカ生まれの白人であるクリオーリョが本国から自立しはじめた。ウィーン会議後スペインの支配が再び強まると、彼らはメスティーソなど従属階層を巻き込んで独立戦争を本格化させた。米英の支持を得て独立は達成されたが、クリオーリョが政治を独占しその大土地経営は維持され、一次産品の輸出と工業製品の輸入でイギリスに経済的に従属した。ブラジルではナポレオン戦争中にポルトガル王室が避難したが、周辺地域で独立運動が発生すると王族が皇帝となりブラジル帝国が平和的に独立した。272字

 

ポイント

 契機=直接の原因はナポレオン戦争について書く(いわゆる「大西洋革命」は背景=間接的な原因)。経済的な部分はイギリスとの関係を書く。

 ブラジルの部分は高校生には難しい。ちなみにポルトガル三十年戦争中にスペインから自立し、その後はイギリスのジュニアパートナーと化す(リカードの比較生産費説はイギリスとポルトガルが例)。大陸封鎖令の時代、ポルトガルがヨーロッパの穀物を闇で輸出する基地だった。難関私立でおなじみ「アシエント」も、奴隷貿易本体に深く関わっているのはポルトガル

 

 

課題 ザイトンとはどこか。その都市を取り巻く11~13世紀の国際関係 400字

 

マトリックス

 

泉州の様子

取り巻く国際関係

11

市舶司が置かれる。ジャンク船で東南アジアへ

北宋遊牧民の圧迫。朝貢貿易は廃れ私貿易が中心。

12

南宋時代の最大の貿易港

南宋が江南を支配。金と対峙。

13

ユーラシア循環経済で海の道と草原の道がつながる マルコ=ポーロが訪れたとされる

モンゴルの平和

周辺諸国に出兵。朝貢を促す。

 

解答例

泉州。11世紀に北宋は周辺の遊牧民の圧迫を受けて領土を縮小し、北では契丹と兄弟の礼を結び、西では西夏と君臣関係を結んだ。このため唐代の朝貢貿易は廃れ私貿易が主流になり、またチョーラ朝が宋に使節を送るなど海の道での交流も活発化した。泉州には市舶司が置かれてイスラーム商人が訪れ、中国商人はジャンク船を使って陶磁器や銅銭を輸出した。12世紀に北宋は金に首都開封を占領されたので杭州に逃れ南宋を維持した。南宋は金と和議を結び淮河を境とし南宋が金に臣下の礼を取った。南宋の拠点が江南に移ったことで泉州は最大の海港都市となった。13世紀にはモンゴル帝国西夏や金を征服し、南宋も元に滅ぼされた。また元は日本や東南アジアに出兵して各国に朝貢を促した。このモンゴル帝国の征服によって草原の道と海の道をつなぐユーラシア循環ルートが生まれ、東西交流が盛んになり、泉州はマルコ=ポーロが訪れるなど東西の結節点として繁栄した。398字

 

ポイント

 マルコ=ポーロの『世界の記述』ではザイトンが泉州、キンザイが杭州(臨安からキンザイ、と覚える)。

 

*正確には臨時の宮廷(行在 アンザイ)

 

 高校生だと400字が厳しい問題。教科書の宋、元で泉州の記述がある部分を「国際関係」と「交易」の面からピックアップする。

 北宋冊封体制が崩れて私貿易、南宋は江南の政権、元の征服活動は朝貢を促すことが目的であったことに気がつけば、それぞれの時代と泉州との関わりが見えてくる。日本もいわゆる「元寇」後は日元貿易を行っている。

 なお元代の「ユーラシア循環経済」は2015年の東京大学および大阪大学で何回か出題されている。ブログでも紹介済。

 

bunbunshinrosaijki.hatenablog.com

 

 またセンター試験で「チョーラ朝」が出た時にちゃんと復習してあれば宋代の南アジア、東南アジアとの関係が書ける。帝国書院や東京書籍の教科書だと「三仏斉」とか出てくるが、固有名詞が思い出せなくても話は通じる。

 

4 私大一般、国立二次の「削り問題」攻略のための復習ポイント 参照

 

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まとめ

 今年は一橋大学「決めうち」の人より東京大学の過去問を含めてグローバル化など定番テーマを一通り対策していた人の方が有利な問題でした。

 「傾向が変わった」とも言えますが、過去に奴隷貿易グローバル化の話題は出ていますし、早稲田や慶応を併願しているなら当然準備している部分です。

 もともと一橋大学は社会科学系の最高峰であり、経済に関心のある生徒が集まるのですから、今回の話題は「ど真ん中の直球」なのかもしれません。

 ですから定番の中世史や東アジア近現代史に比べると今年は解答の方針が立てやすい問題でした。

 センター試験、併願の私立大学、国立大学二次とまんべんなく学習し、同じ難易度の大学の過去問をすることで実力を養成しましょう。