ぶんぶんの進路歳時記

学習方法、進路選択、世界史の話題について綴ります

世界史論述 定番テーマに挑む(1 統治システム)

 国公立大学個別試験の世界史では必ず論述問題が出題されます。


 筑波大学の2016年の問題を見ると、第4問「19世紀末から20世紀前半までの朝鮮半島をめぐる歴史の展開」は穴埋め問題と同じく記憶を「はき出す」ことで対応できますが、第2問「14世紀半ばから18世紀末までの明清の海上貿易管理体制」は「海禁」や「中華帝国」などのマクロな視点が求められます。

 国公立大学の個別問題を攻略するには、1「センター試験の知識」に2「マクロな視点」を二周目の知識として加える必要があります。

 

 入試問題を専門的な知識で解説するサイトは他にありますので、ここでは高校生が利用可能な教科書レベルの知識と理解で問題にアプローチする方法について考えます。

 私は演習で生徒たちが意見を出し合いながらマトリックス(タテヨコ表)を完成させていく方法をとっています(おお、アクティブラーニング(笑))。今回はその再録です。

 主に大阪大学京都大学の問題を使用します。教科書に載っていても高校生の知識を超えるような内容も出てきますがご容赦ください。

 

 国立の定番問題について、次の順番で紹介する予定です(前期試験までに全部行くのは無理そう)。

  1. 統治システム
  2. 経済
  3. 外交
  4. グローバル化
  5. 宗教

 

*入試問題は著作物なので、著作権法の範囲で引用します。解答例は私の創作です。問題文は外部サイトから入手してください。

 

*論述用教材は過去ログを参考にしてください。

 

bunbunshinrosaijki.hatenablog.com

 

 最近出版された『みるみる論述力がつく世界史』(山川出版社)は、マクロな視点が必要な例題として選んでいて、解法に至る過程や解説も充実しています。私が補習でしていることに近いです。新3年生には夏休みぐらいから取り組んで欲しい、お薦めの一冊です。

 

  

1 政治制度

 

大阪大学 2011年

問題  秦と漢で形成された中華帝国の仕組み 250字程度

条件1 中央が地方を支配する制度 対外関係の原則 正統とされた思想 歴史書

条件2 秦漢で変化があれば触れる

語句  封建制 郡県制 委奴国王 儒家 司馬遷

 

マトリックス 

 

地方を支配する制度

対外関係の原則

正統思想

歴史書

郡県制→中央集権

遊牧民と争う

法家

 

郡国制→郡県+封建

漢委奴国王→冊封体制

儒家中華思想

司馬遷→正史

 

解答例

統治制度では秦は中央官僚を地方に派遣する郡県制を実施した。漢の初期には有力者を地方に封じる封建制と郡県制を併用する郡国制がとられたが、前2世紀半ばには実質郡県制になった。思想では秦は法家、漢は儒家を採用して政治の指針とし、後者は華夷の別など王朝の正統性の根拠になった。対外関係では、遊牧民とは妃を降嫁させるなど懐柔で関係を保ち、周辺国とは委奴国王朝貢に代表される形式的な君臣関係を結ぶ冊封体制が確立した。歴史書では過去の王朝の業績を紀伝体で記録する正史の形式が漢代の司馬遷や班固によって完成した。(248字)

 

ポイント

 

 皇帝を中心とする中央集権システムのハード面(郡県と冊封)、ソフト面(儒学と歴史)が課題です。「中華帝国」という概念がちゃんと理解できているかが問われています。

 まず問題文の指示をマトリックスにします。この場合は秦と漢を縦軸、4つの条件を横軸に取ります。

 

*発展 論述問題の多くは先ほどの筑波大学のように「19世紀末から20世紀前半」という文章から「何から書き始めて、何で終わるか」と縦軸を正確にとれるかが第一関門です。

    「初頭」は01〜10年、「末」は91~00年、「前半」「後半」は50年区切り、「半ば」は40年代〜60年代、が目安です。

    筑波大学の問題の場合「14世紀半ば」は明の建国、「18世紀末」はマカートニーの訪問になります。

 

 表の中に指定語句を入れて文章の枠組みを決めます。

  • 地方統治:秦は郡県制、漢は郡国制を採用した
  • 思想:秦は法家、漢は儒家を採用した
  • 歴史:正史が編纂された

 

 この枠組みに沿って文章にしていきます。字数が少ない場合は事実だけ、字数が多い場合は内容や前後のつながりを加えて、目標字数に届くようにします。

 

 追加する事項は次の5つです。

1 背景(間接的な原因)

2 契機(直接的な原因)

3 内容(事項の詳細 事件の経過)

4 結果(直接的な変化)

5 影響(間接的な変化)

 

 出題の意図は「秦漢で生まれたシステムが後の中華帝国のシステムになったことを事例を挙げて説明しなさい」ですから、誘導どおりに事例を挙げていきます。

 「変化があれば書くように」とありますから、郡県制と郡国制の違いがわかるように内容を書きます(封建制がヒント)。

 また後世につながる「中華帝国の仕組み」が問われていますから、冊封体制についても内容をしっかり書いて、後世への影響を匂わせます。

 

 文章にするときは各トピックの説明をなるべく均等にします。例題の場合は4項目なので、250÷4=だいたい60字、ただこの例題の場合は指定語句の兼ね合いで「地方制度」と「対外関係」で字数を多めに消化した方がいいです。

 

*発展 解答例では遊牧民との関係も書きましたが、高校生には難しいと思います(対外関係の「原則」なので「家人の礼」は書かなくてよいかも)。ただ京都大学に「遊牧民の懐柔の歴史」という有名出題があり、大阪大学遊牧民の研究が盛んです。

 

 高校生は最初は事項の羅列でかまいません。とにかく自力で書いてみて、わかっている先生に見てもらって、出題の意図に沿うような追加情報をどの程度入れるか教えてもらいましょう。

 

  ここからは演習です。頑張って解答してください。

 

2 税制

 

大阪大学 2014年

問題  8世紀~18世紀 中国の農民が負担した税制の変化 150字程度

条件1 8世紀、16世紀、18世紀の画期 何で納めた、誰が負担したか

語句  土地税 人頭税 穀物 銭 銀 成人男子 世帯

 

マトリックス 

 

Before

After

8世紀

租庸調:成人男子に現物で課税

両税法:世帯の資産に対して銭で納付

16世紀

両税法が複雑化→一条鞭法

土地税と人頭税を銀で一括納付

18世紀

人頭税逃れが横行する→地丁銀

土地税と人頭税を繰り込んで人頭税を廃止

 

解答例 

成人男子に土地を支給し穀物など現物で徴税した均田制が行き詰まると、8世紀後半に世帯の資産に応じてで徴税する両税法が実施された。明代に税の項目が複雑化すると、16世紀に土地税人頭税を一括して納する一条鞭法が実施された。清代に人頭税逃れが横行すると18世紀に土地税に人頭税を繰り込む地丁銀が実施されて人頭税が消滅した。(158字)

 

ポイント

 

 各時代の税制はセンター試験的に判別できても、内容の違い、背景を知っていないと文章になりません。

 政治制度、税制、官吏任用制度などは、なぜそれらが実施されたのか、背景や契機についても抜け漏れをつぶしておきましょう。

 

 

3 支配階級

 

京都大学 2008年

課題 宋代の士大夫層の新しさ 300字以内

条件 新しい土地制度、学術 以前と比較する

 

マトリックス 

 

支配層

貴族

士大夫

土地制度

荘園制

佃戸制

学術

訓詁学

宋学

 

解答例

唐では貴族が門閥を形成して政治の実権を握り、均田制が崩壊し両税法で大土地所有が公認されると没落農民を私有民化して荘園を拡大した。しかし唐末五代に貴族が没落すると形勢戸と呼ばれる新興地主層が台頭して貴族の荘園を集積し、小作人に土地を貸し出す佃戸制を行った。宋が文治主義を進め科挙を盛んに実施すると、形勢戸が科挙官僚として政界に進出し、儒教的素養を持つ士大夫層を形成して皇帝親政体制を支えた。儒教は、唐では経典の解釈を中心とする訓詁学が盛んで学問が固定化されたが、宋では禅宗の影響を受けて物事の本質を追求する宋学士大夫層に受け入れられ、遊牧民の圧迫の元で大義名分論や華夷の別など中華思想が体系化された。

(300字)

 

ポイント


 中国史の定番「唐宋比較」を士大夫の観点から書かせます。

 高校生だと字数が不足すると思います。まず佃戸制と士大夫の説明をしっかりまとめ、「荘園と貴族はその逆」と考えて、知識をつなぎ合わせて文章にします。

 最難関、難関国立大学の世界史はこの「知らないことでも知っていることを使って言葉をひねり出す」ができるとライバルに差が付けられます。

 京都大学駿台の話だと「加点法」の模様なので、苦手な人は必要な説明をして部分点でしのぐしかないです。

 

 

4 官吏任用制度

 

京都大学 2014年

課題 科挙制度の変遷

条件 政治 社会 文化に与えた影響

 

マトリックス

 

任用制度

政治

社会

文化

南北朝

九品中正法

貴族中心

門閥貴族の固定化

 

科挙始まる

北朝の貴族牽制

 

 

科挙

門閥貴族は蔭位の制

 

訓詁学唐詩

科挙

殿試、科挙官僚が政治の中心に

地主の政界進出、士大夫

宋学発達

科挙中断

モンゴル人優遇

士大夫冷遇

朱子学発達

科挙復活

皇帝親政

郷紳

朱子学が官学に

科挙

満漢偶数官制

 

考証学

清末

科挙廃止

ヨーロッパの進出について行けない

 

 

 

解答例 

隋は門閥貴族を牽制するため九品中正にかわって試験による官吏登用制度である科挙を実施した。唐代には蔭位の制などで貴族の勢力は維持されたが、則天武后以降科挙官僚が重視され、五経正義など儒教の教義が整理され、試験科目でもある唐詩が発達した。宋代には皇帝の面接試験である殿試など皇帝親政体制が確立して科挙が盛んになり、新興地主層が政界に進出して士大夫層を形成し、文化の担い手になった。元代には科挙は一時中断するが明代には復活し、朱子学が官学化された。また科挙合格者は郷紳として地方の政治や文化を担った。清代にも科挙は行われたがヨーロッパ列強との争いの中で政治の近代化が求められ、1905年に科挙は廃止された。

(297字)

 

答案作成のポイント


 テーマ史の定番です。受験生は「キター!」と思ったでしょうが「社会や文化との関わり」がくせ者です。科挙から蔭位の制、則天武后唐詩朱子学、郷紳あたりが逆検索できるかです。

 マトリックスからストーリーを建てましょう。この場合は「科挙が貴族支配を牽制し、地主を取り込んで皇帝親政体制を確立したが、近代化に負ける」です。これに儒教を中心とする中国文化史の流れがリンクすれば解答に近づきます。

 

まとめ

  • まずは事項の正確な内容、「いつ、どこ、誰、なに、なぜ」をセンター試験の勉強を通じて確実にしましょう。
  • 論述では事項の背景、契機、内容、結果、影響が問われます。用語を機械的に覚えるのではなく、教科書の記述の中で覚えましょう。
  • 論述はマクロな視点がないと解答できません。教科書の概念的な記述、資料集のモデル図、講義本や論述問題集の解説を読んで、普段から「へーっ」と思うことが必要です。

  

次回は経済史。

 

bunbunshinrosaijki.hatenablog.com