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ぶんぶんの進路歳時記

学習方法、進路選択、世界史の話題について綴ります

三年生9月 志望理由書の書き方について(3 ストーリーを完成させる)

面接小論文 高校三年生

 前回は志望理由書を書く時に必要な「具体的なパーツ」を書き出しました。

  こちら 

三年生9月 志望理由書の書き方について考える(その2 興味・研究・将来を掘り出す) - ぶんぶんの進路歳時記

 

 毎年看護師を希望する生徒がいて、彼らの志望理由書を見ると判で押したように「子どもの頃に私(保護者、祖父母、友だち)が入院して看護師に親切にしてもらった」と書いてあります。

 大事なのはその件をきっかけに「看護師の仕事は何か」「どのような資質が必要か」「何が大変で何をやりがいに感じるのか」を調べ、その上で「私はこの道に進んでこれをしたい」と覚悟しているかどうかです。

 

 ただ大学の先生は受験生の知識よりも「本当にうちで勉強をしたい」と思っているかどうかを見ています。出来合いの知識を並べるだけではすぐボロが出ます。

  つまり受験生の「この大学・学部に行きたい」という気持ちと調べた知識がつながっている必要があります。

 

 第3回は志望理由書の「型」を理解しながら、受験生の思いと大学の学びをつなぎ、志望動機が大学に伝わるような志望理由書を完成させていきます。

 

 

活動1 志望理由書の「型」を理解する

  • 志望理由書は、自分の志望を「過去、現在、未来」という区切りで示し、それと「志望する大学の学び」を結びつけて書く必要があります。
  • 具体的にはこのような感じです。

① 現在    志願者の興味や将来の夢

② 過去    ①のように思った動機

③ 過去~現在 ②を実現するために身につけたい資質、やりたい学問

④ 現在    志望大学の中で③と直結するやりたい学問

⑤ 現在~未来 大学で取り組みたいこと、大学で身につけたいこと

⑥ 未来    ⑤を活かして社会に貢献したいこと 

 

 『テストの花道』では「キャラ一貫」と表現されていました。

 

NHK テストの花道 - 過去の放送 -「勝つ面接へ!3つの極意」

 

 

活動その2 パーツを過去・現在・未来に整理する

  • 「やりたいことのマンダラート」のキーワードを「ストーリーボード」へ書き出します。

  過去1 その学問をしたい、その職業に就きたいと思ったきっかけ。

  過去2 過去1をきっかけに調べた、その学問や職業に必要な資質。

  現在  大学で勉強したいこと。

  未来  将来つけたい力、やりたい仕事。

 

  • 「大学のマンダラート」のキーワードも「ストーリーボード」へ書き出します。

  過去 その大学の基本情報(ポリシー、立地、設備)

  現在 その大学で学べる学問や研究内容。

  未来 その大学で身につく力、就職先。

 

 前回のマンダラートをストーリーボードに落としてみました。

 

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 2つを見比べて、自分の興味と大学の研究でつながるところを見つけます。この場合だと「海外の小説を原書で読みたい」→「原書を読むには言語だけではなく文化も知りたい」→「この大学は文学も言語も文化もトータルに学べる」です。

 

 ただし推薦入試は「他ではなくてこの大学で学びたい」から生徒が志願します。この程度のことはどこの大学でもできます。

 そこで「興味のキーワード」の中で大学の学びに繋がりそうなものをより具体化していきます。「大学のキーワード」も同様で、気になった研究について調べます。

 この場合は興味の「アガサ・クリスティ」と大学の「ジェンダー批評」が繋がりそうです。前者についてはもう一度読み込み、どこになぜ興味を持ったのか考えます。後者については図書館で関連する書籍を調べます。

  すると「私がぼんやりと疑問に思っていたことが、○○大学の○○専攻で学ぶとクリアになるかもしれない」ということが見えてきます。

  

    ただし「大学の学問」に合うように自分のしたいことを無理に「創造」してはいけません。必ず自分の奥底に眠っている疑問や興味を掘り起こしてください。HPの情報や担任の「入れ知恵」だけでは面接に耐えられません。

 

 

活動その3 パーツを志望理由書の型に落とし込む

 

*注意 奈良女子大学文学部は現在推薦入試はありません。「バーチャル志望理由書」です。

  

 私は奈良女子大学文学部で英米の文学を勉強したいと考えます。

 私は海外の推理小説を読むのが好きです。あるとき、アガサ・クリスティの短編を読んでいて理解できない単語が出てきました。その後別な短編集を読むと、その単語がイギリス人には事件を解く手がかりになると知りました。私は文化の異なる海外の文学を翻訳する難しさを感じ、将来海外の文学を原書で読むためにはその背景にある文化や歴史も深く学ばなければならないと感じました。

 奈良女子大学言語文化学科では欧米の文学に加えて言語や歴史についても学べると知りました。女性作家が好きな私は特に「ジェンダー文化学」という学問に興味がわきました。アガサ・クリスティの短編では編み物が好きな淑女が登場し、豊富な経験を武器に知識人の紳士たちが解けなかった事件の真相を言い当てます。私は文学作品の裏に隠されたシンボルやジェンダーを考察することで、別な視点から作品の意味を理解するという研究に強く惹かれました。

 また奈良女子大学には留学制度があり、英文学の本場で研究ができることに魅力を感じました。イギリスでのイギリス文学研究と、日本人の英文学の研究との視点の違いなどを比較したいです。

 さらに奈良は歴史遺産に恵まれ、奈良女子大学はその立地を活かした日本史や日本文学の研究が盛んだと知りました。留学生も多いと聞きました。私は英米の文学だけでなく日本の文学や歴史も学び、日本人が見る日本や外国、他国の学生たちが見る日本や母国について、彼らと議論しながら知識を深めたいと考えます。

 私は奈良女子大学で学び、留学制度を活用して見聞を広め、将来は異なる文化の知識、ジェンダー学の視点を活かして日本だけでなく国際社会で働くことのできる社会人になりたいです。そしてまだまだ男性が中心である社会の中で隠れた問題を解決する仕事に就きたいと考えます。

 以上のことから私は奈良女子大学文学部を志望します。(797字)。

 

 ちょっと強引な部分があるのと、「ジェンダー批評」についてもっと掘り下げる余地はありますが、最初の原稿がこれなら担任も指導のしがいがあります。

 

 

4 学部によって視点が違う

 

  受験産業は最近親切で、2学年の模擬試験のオプションで生徒の志望理由書を点数化するサービスがあるそうです。この「バーチャル志望理由書」を生徒が提出したところ(指導なし即宿題だったそうです)、110点満点で57点でした。

 減点の理由は、「自分が取り組みたいテーマが書かれていない」「将来なりたい職業が書いていない」「論理の飛躍、矛盾、説明不足、不要な内容が多い」で、今後に向けては「解決したい社会の課題などをあげて、社会にどう役立ちたいのか具体的に書きましょう」ということでした。

 

 指摘には同意できるところも多いのですが、文学部に「なりたい職業や解決したい社会の課題、社会にどう役立つか」を直接求めるのはどうかと思います。

 文学部には「役に立つために学問をする」よりは「学問を極めていたら役に立ったかも」のような姿勢の専攻が多いです。学問に対する強い関心を書いた方がいいのでは、と個人的には思います。

 

追記 2/26

また宿題が出たので同じ生徒がリベンジしました。

*注意 大阪市立大学文学部には現在推薦入試はありません。

 

 私は大阪市立大学文学部で教育学を学びたいと考えます。

 きっかけは私の高校の卒業生で大阪市立大学文学部教育学コースの方のインタビュー記事を読んだことです。その先輩は「就活」が小手先のテクニックで乗り切る風潮や就活のために大学の専門教育がないがしろにされる現状に疑問を抱き、専門教育とキャリアのつながりについて研究していました。私は教員養成のイメージしかなかった教育学でそのような研究分野があることに驚きました。

 また私は高校のキャリア教育が「なりたい仕事から大学を選ぶ」という、大学を職業学校のようにとらえている風潮に前々から疑問を感じていました。私もキャリア教育のあり方を問い直す研究をしたいと思いました。

 現在の就活やキャリア教育の問題点を解決するために、まず日本の学生が就活やキャリア学習といった学生生活最大の「イベント」をどうとらえているか、積極的に活用できているのか、負担になっているのか、を明らかにする必要があります。そのためにはキャリア教育だけでなく、教育全体が学生にどのような影響を与えているのかを学ぶ必要があると考えました。

 大阪市立大学文学部の人間行動学科教育学コースでは教員を養成するだけでなく、教育制度がいかに成立したのかという過程や、普段なら気づかない日本の教育文化の特徴を外国と比較して明らかにするなど、教育学、教育行政のあり方について研究していると聞きました。そのような環境ならば、現在のキャリア教育とその延長上にある就活について批判的にとらえ直すという研究ができるし、また学んだことを教育現場で活かすこともできると考えました。

 そこで大阪市立大学オープンキャンパスに参加しましたが、文学部の学科紹介のビデオである先生が「今年は誰もニートにならず無事就職しました」とおっしゃっていたのに衝撃を受けました。就職率の良さや取れる資格の多さをアピールする大学が多く、高校生も保護者もそれが一番の関心であることへの皮肉ともとれる発言です。このような皮肉を言っても許容される大阪市立大学の懐の深さに感動し、ここなら私のやりたい現在のキャリア教育に批判的な研究もできるはずだと確信しました。

 以上の理由から私は大阪市立大学文学部で教育学を学び、将来は受験指導や就職指導に関わる予備校、就職サイト、大学、高校などで学生が勉強した中身が評価される就活やキャリア教育を実現したいと考えます。995字

 

 今回は110点満点中110点でした!

 業者のコメントは「取り組みたいテーマや社会や文化・技術の発展に役立つと言うことが明確に伝わり、取り組む意義も説明されているため、説得力が高い」そうです。「論の飛躍・矛盾・説明不足・不要な説明もない」そうです。

 受験産業への皮肉を書いてそこから褒められるというのは変な話ですが(笑)、おかげで「心の底にあるマグマ」を自覚して言語化し、志望理由がはっきりしてよかったです(本人曰く「また変わるかも」)。

 

 

  法学部、工学部など将来の職業がはっきりしていて、興味→したい学問→職業という見通しが立ちやすい場合は、「社会にどう役立つか」を着地点に、その大学でしか学べないことを踏まえて、過去→現在→未来の順で書くべきだと思います。

 

*発展:医学部や看護学部の地域推薦だと「なぜ医者?」はもちろんですが「どうして○○県の医療に貢献したいの?」が問われます。

 

 大学、学部毎に「どういう生徒を欲しいか」が違います。各学部のアドミッションポリシー(求める学生像)やディプロマポリシー(こういう力をつけて世に出て欲しい)をよく見て、志望理由書の基本的な「型」は守りつつ、興味関心、大学での研究、将来の社会貢献など、どこに「振り」をつけるか考えましょう。

 さらに短い志望理由書の中で「私はその学部が必要としている資質がありますよ」とさらっとアピールしたいです。詳細は企業秘密(笑)ですが、別の機会にします。

 

 

まとめ

 

 志望理由書は「うまくしのぐ」ものではなく、自分の心の奥にある志望動機を言語化し、面接に備えるという推薦入試合格のための重要なプロセスです。

 

 昨年法学専攻と看護専攻の生徒の面接練習をしました。すでに大学には志望理由書を提出してありましたが、細かく突っ込んだところ答えに窮して二人とも泣いてしまいました。

 しかし二人が泣いたのは自分自身に対する悔しさからです。その後二人は身近にいる弁護士や看護師から直接話を聞き、志望大学のポリシーを調べ直し、「私は大学で何をしたいのか」を問い直した末、「やはりこの大学・学部でなければならない」と自分の言葉で言えるようになり、見事合格しました。

  こういう芯の強い生徒が推薦に向く生徒です。

 

     そして教員の仕事は出来合いの知識を生徒に与えて「その場をしのがせる」ことではなく、生徒の中に埋もれている志望動機に道筋をつけて実体化することです。

 志望理由書の指導を通じて生徒と一緒に戦い、成長したいものです。

 

次は面接です。

 

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