ぶんぶんの進路歳時記

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世界史の入試問題で試されることを考える(京都大学の出題・傾向・対策後編)

 京都大学の典型問題を解答しながら傾向と対策について考えます。後編です。

 

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 前編(過去の出題一覧のまとめ)はこちら

世界史の入試問題で試されることを考える(付録 京都大学の出題傾向と対策前編) - ぶんぶんの進路歳時記

 

2016年の問題解説はこちら

世界史の入試問題について考える(その2 京都大学2016) - ぶんぶんの進路歳時記

 

 毎回確認ですが、入試問題は著作物で、著作権法の範囲(自説のための引用で自説が主、引用が従の関係 図版資料は不可)で利用します。

 

 

2 事項の中でテーマに沿う部分のみを抽出する

 

2015年のⅢ

課題 清朝が列強と結んだ条約で承認した経済的権益、隣接国家との関係の変化、その結果どのような状況に陥ったか。

条件 アヘン戦争以後の4回の対外戦争の講和条約 60年のスパン 

 

メモ

戦争

講和

利権

隣接国家との関係改変

アヘン戦争

南京条約

五港開港 香港島の割譲

 

アロー戦争

北京条約

11港開港 外国人の内地旅行 キリスト教布教の自由 九竜半島南部割譲

対等外交の原則

清仏戦争

天津条約

 

ベトナムの宗主権放棄

日清戦争

下関条約

台湾、澎湖諸島を割譲 開港場での企業設置権

朝鮮の宗主権放棄

義和団事件

北京議定書

外国軍隊の北京駐屯 賠償金

 

 

解答例 下線部はたぶん落とせないポイント

1856年に英仏はアロー戦争を起こし、天津条約、北京条約で開港場の拡大や外国人の内地旅行の権利清朝に認めさせ経済進出を図った。清朝は総理各国事務衙門をおいて諸外国との対等外交を受け入れ、洋務運動で近代化を進めた。84年にはフランスのベトナム保護国化を契機に清仏戦争が発生、天津条約で清朝ベトナムの宗主権を放棄した。94年には日清戦争が発生、下関条約清朝朝鮮の独立を認め冊封体制は解体した。また日本に開港場での工場設立を認めたため、列強は最恵国待遇を利用して中国の分割を始めた。1900年には義和団事件が発生、清朝は列強に宣戦するが敗北し、北京議定書で外国軍隊の北京駐屯を認め、半植民地化が進行した。(296字)

 

ポイント 

 アヘン戦争以後の「4つの戦争」における「経済的権益」「近隣諸国との関係改変」のヒントから必要な事項を表にまとめていきます。戦争、条約、内容、その後への影響を書くことで4つの事項がストーリーとしてつながるようにします。「領土割譲」は「経済的権益」に入るのか入らないのか微妙ですが、利権と冊封体制の崩壊で押した方がじわじわと半植民地化していく感じが伝わります(駿台は領土割譲は入れないと言っています)。

 このように京都大学の世界史は多くの知識から誘導に沿って書くことを絞り込み、「ざっくり」としたストーリーを描くことを要求します。2007のⅠ 2010のⅠ、2013のⅢ、2014のⅢも同じ傾向です。

 

 この際に必要なのは「概念の理解」です。例題の場合は中国の冊封体制とヨーロッパの主権国家体制というモデルの違いや「朝貢」「対等外交」がわかっていないと単なる事実を羅列しただけのちんぷんかんぷんな答案になってしまいます。

 2010年の出題も同様で、中国共産党と中国国民党はどの点で対立し、どの点で妥協したのかは、社会主義民族主義という概念がわからないとうまく整理できません。

 

 過去の出題では、市民皆兵と傭兵、帝国統治システム(ローマ、中国、イギリス)、封建制度、世界の一体化、奴隷貿易啓蒙思想、市民革命、民族主義と宗教、自由主義社会主義などの抽象的理解が求められています。

 

対策

 たぶん普通の(笑)世界史の先生ならこうしたことを授業で熱く語るのですが、聞いたからといって理解できる訳ではありません。荒巻さんや青木さんの講義本を読んだり、河合塾の論述問題集(解説が親切)をやりながら「ああ先生の言ってたことはこういうことか」と思い出してもらえれば幸いです。

 抽象的な概念理解を伴うタテの変化や比較は京都大学の過去問だけでなく、大阪大学の過去問に良問があるので練習しましょう。筑波大学の問題も練習になります。東京大学は「狭いスパン広い地域」の問題が近年はトレンドで、縦の変化を好む京都大学とは傾向が違いますが、「テーマから教科書横断的に関連事項を思い出す」という頭の使いどころ、帝国支配など抽象的概念を理解する練習にはなります。

 

 私は世界史の論述対策として、縦横表を作って論点をまとめたり、抽象的概念を解説したりしながら生徒と一緒に問題を解く、つまり「解法」を一緒に考えるということを行っています。

 

3 ざっくりとした理解、批判精神に基づく筋立て

 

2011年のⅢ 

課題 アメリカの関与による国際秩序の形成

条件 1921年~1930年 政治的、経済的 具体的な取り決めに触れる

 

メモ  取り決め      政治         経済

1921年 ワシントン会議   軍縮 日本牽制    中国市場進出

1924年 ドーズ案                 ドイツ支援

1928年 不戦条約      軍縮

1929年 ヤング案                 ドイツ支援

1930年 ロンドン軍縮会議  軍縮

 

解答例 下線部はたぶん落とせないポイント

 アメリカ合衆国国際連盟には参加しなかったが自国の利害に関わるアジアの門戸開放とヨーロッパの再建には積極的に関与した。1921年からのワシントン会議では九カ国条約で中国の門戸開放を再確認し、海軍軍縮条約で主力艦の保有トン数を制限して、イギリスに並ぶ海軍力を確保する一方大陸進出を狙う日本を牽制した。また英仏の戦債帳消し要求は拒否するが、ドイツに対してドーズ案で賠償金の支払いの緩和とアメリカ資本による支援を約束した。その結果ドイツが英仏に賠償金を支払い、英仏がアメリカに戦債を償還する循環が生まれ、ヨーロッパに一時的な安定が生まれた。さらにロカルノ条約、不戦条約ロンドン軍縮会議で平和維持に努めた。(297字)

 

ポイント

 ワシントン体制とヨーロッパの戦間期のことを羅列すれば解答になるような気がしますが、それでは文章がまとまりません。

 たぶんこの出題は、ブッシュ(子)大統領がイラクその他で「一国行動主義」に走り、様々な矛盾が噴出したことを念頭に置いています。「アメリカ合衆国は今も昔も『きれい事』を口にするけど、本音は自国の利益が第一では?」という批判精神から戦間期の歴史を見直すと、ばらばらの事項がつながりを持ちます。

 2007年のⅢ「1960年代の多極化の様相」も同様で、ベルリン封鎖キューバ危機で冷戦頂点→PTBTで緊張緩和→「冷戦って実は米ソで世界を分割してるだけじゃん!」という異議申し立て(東西で)→植民地主義に対する異議申し立て(南北問題)という筋立てて事項をつないでいきます。

 

対策

 京都大学の入試問題は、国語、数学、英語においても、ただ事実を羅列するのではなく「ちゃんと問題の意図、出題者の意図が理解できているか」を聞いてきます。これは某予備校情報ですが「得点開示を見ると、受験生はできていると思っていても点がないことがある」そうです。情報源の京大実践模試の採点を見ると、方針が合っていれば比較的甘め、逆は0点ということはあります。

 したがって、問題を読んで出題者の意図を見抜き、答案で「ざっくりわかっていて、かつ細部の知識もきっちりありますよ」ということをアピールできる力が必要です。まずは出題の意図を見抜く「アンテナ」を立てなければなりません。

 そのためには世界史をただの暗記科目と考えないことです。2でも話しましたが、授業中から抽象的な概念に注意し、事項と事項のつながりを発見し、それを現在と比較し自分たちの問題として批判的に捉える姿勢が必要です。もやっとしたらすぐ参考書で調べ、興味が湧いたら新書を読みましょう。

 この「歴史の事項を現在の自分に引きつけて批判的に考える」力こそ、世界史の最大の楽しみであり、私が高校生に身につけて欲しい力のひとつです。それは同時に東西の最高学府で学ぶ際に不可欠な「専門予備知識」でもあります。

 

まとめ

 京都大学を受験する生徒には、合格を目指して嫌々勉強するのではなく(京大の二次はそういう人をはじくことを狙っているような問題です)、その準備をしながら、新しい知識や発見が蓄積される喜びを感じ、「京都大学にふさわしい力」を身につけて欲しいと思います。

 なお一問一答60点分はけっこう大きいですし、京大を受験する生徒はこのブロックで56点近く取るそうです。

 こちらは正確な知識(漢字・カタカナのややこしいものや紛らわしいもの)を試すものと、やはり「歴史を自分に引きつけて考える」力を試す問題(由来もの、抵抗もの、他教科もの、グローバルもの)が出題されます。

 やはり過去問や私大の類題をしながら「へーっ」とか「それって今のあれ」という発見を楽しみながら、ぬかりなく準備してください。

 

こちらの頁も参考に

世界史の学習法について考える(その4 試験に出やすい用語の法則 難関大学編) - ぶんぶんの進路歳時記