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ぶんぶんの進路歳時記

学習方法、進路選択、世界史の話題について綴ります

入学式直前 「中学生が高校生になる」について考える

進路指導 高校一年生

 高校の合格発表があり、合格者は高校の説明会に参加して各種手続き、教科書などの購入、制服や体操服の採寸を一通り済ませた時期だと思います。後は4月はじめの入学式を待つだけになりました。

 私のブログは、高校の教員が生徒の前でどんな話をするか(教科、学習、進路)の参考になればと思って書いています。今回は合格者登校日や4月の一年生の集会で話した内容を加筆、修正し、新入生が「高校生」になる心がけについて考えていきます。

 

1 高校と中学は違う

 まず合格した中学生に訴えたいことは、高校に合格したことはゴールではないということです。では上級学校進学や就職内定がゴールなのかというと、それも違います。

 中期のスパンで考えると、学校教育のゴールは「社会人というスタートラインに立つこと」です。そのために社会人として必要な知識、スキル、ものの考え方を学校生活の中で身につけなければなりません。

 高校生は社会人になる一歩手前、卒業すれば大人として扱われます。教育には「発達に応じて行う」という原理があり、小学校や中学校だと「そこまでとやかく言われない」ことはあります。何かしでかしたら叱るだけでなく、児童・生徒の生活背景まで踏み込んで指導します。

 しかし社会人は結果がすべて、約束を破る、時間を守らない、TPOに合わないことをする、人を傷つけるなどすれば最悪解雇あるいは刑法犯です。高校も最近は生徒の生活背景に寄り添った指導をしますが、社会人の一歩手前なので「中学で許されたからといって社会で許されない、それは高校でも許されない」ことを自覚してもらう必要があります。

 

 「中学で通用したことは高校では通用しない」のは生活面だけでなく学習面も同じです。

 たとえば、週授業時間を考えると中学では英語4時間、数学4時間程度ですが、高校では英語5時間、数学6時間。つまり毎日予習と復習が必要で、週末には課題、週明けには小テストがあります。定期考査は4日~5日で数学と英語は2回試験があります。

 また覚える分量も膨大で、たとえば英単語の場合は文部科学省によると中学だと1500語(aとかtheも入れて)程度ですが、高校卒業時には3000語(高卒程度の英検2級が5000語)、難関大学だと英検準1級の7600語は必要です。スピードも違います。中学校の英語だとhaveという動詞だけで一時間使って理解する、という場面がありますが、高校の場合中学校で3年間かけた文法事項を、さらに内容を増やして1年足らずで終わらせます。

中央教育審議会 初等中等教育分科会 教育課程部会 外国語専門部会(第9回)議事録・配付資料 [参考資料4-2] 附3:中等英語教育の到達目標−文部科学省

 

 したがって、中学時代に一夜漬けをしたり、学習塾でテストに出そうなところだけを教えてもらったりしてテストを切り抜けていても、学習量の多い高校では同じ方法は通用しません。

 それから高校には「単位」という概念があります。これは週授業時数と同じです。設定された最低点を下回ると単位不認定(赤点)となり、それがたくさんあると「原級留置」といって、もう一度同じ学年をやり直すことになります。

 

2 高校で「社会人基礎力」を身につける

 では高校生活を乗り切る学習スタイルとは何でしょうか。実は社会人として必要な力とほぼ同じです。経済産業省は「社会人基礎力」を提唱しています。それは<3つの能力/12の能力要素>からなります。これを学校生活に当てはめていきます。

www.meti.go.jp

1 前に踏み出す力(アクション)~一歩前に踏み出し、失敗しても粘り強く取り組む力~

2 考え抜く力(シンキング)~疑問を持ち、考え抜く力~

3 チームで働く力(チームワーク)~多様な人々とともに、目標に向けて協力する力~

 1は主体性です。自分で手を動かし、頭を働かしたことしか自分の身になりません。予習をするときはわからない単語は辞書で調べ、宿題は自力で解きます。難しいから、苦手だからといって投げ出さず、小さな手がかりを見つけて答えを導きます。

 高校では学習活動以外にHR活動や部活動といった「特別活動」があります。クラスや部活動で役員を決めたり、体育祭や文化祭で何かをするときには人任せにせず、自分から「やります」と言います。責任を負うのはしんどいですが、経験はやった人にしか残りません。

 国公立大学を志望する人は5教科7科目900点満点というセンター試験をかいくぐらなければなりません。さすがに7科目とも好きという人はいません。苦手なものに向き合う力、うまくいかないときに踏ん張る力は社会人になると必ず役立ちます。

 

 2は、まず「疑問を持つ」ことです。黒板や宿題の答えを丸写しするのは勉強ではなくて作業です。志望校に合格した先輩の大半は、予習でわからないところを整理して、授業は復習のつもりで聴くといっています。答えがあっているではなくその答えに納得できるまでが勉強です。

 それから「目的を設定し確実に行動する力」です。テストがあるから慌てて勉強するではなくて、目標を立てます。一年生の最終目標は国数英で基本事項(文法・語法・公式活用)を漏らさず理解することです。各定期考査で「得意科目は90点、苦手は平均点」というような目標を立て、試験範囲をすべてカバーするためにはいつ頃から何を勉強するか段取りを考えて実行します。

 私の学校は学生手帳を携帯しますので、そこに大目標、中期の計画、日々の取り組みを書いて、実行できたかを振り返ります。

 余裕のある生徒は授業で先生が言ったことを「あれって本当かな」「もう少し知りたい」と思って図書館に行って調べましょう。創造力や新しい価値を生み出す力は決して瞑想から生まれるのではなく、これまでの知識の蓄積から生まれます。

 

 3は、HR活動や部活動で学ぶ最大のことです。学習面でも、最近はどの学校でも「アクティブラーニング」が盛んで、教え合い、調べ学習、発表が行われています。わからない問題をどこがわからないか整理して先生に質問するのもチーム力です。最初に書いた約束や時間を守ることや、TPOにあったマナーや礼儀、人の話をしっかり聴くことはチームで働くために不可欠です。

 

 このように、経済産業省の提唱していることは、ほとんど学校生活の中にあり、学校生活を適切に送ることが社会人基礎力を自然につけることにつながります。

 ひとつ加えるなら、1から3を実行するモチベーションは「楽しむ」です。自分で汗をかいて知識や技術が蓄積されること、あれこれ考えて新しい発想が生まれること、友だちの力に感心すること、そしてしんどいことに立ち向かう自分がかっこいいと思えることが楽しいと思えるようになれば、学校生活は充実します。

 

 さて最後に、主体的に頭を使って学習するためにやはり必要なのが学習時間の確保、特に家庭学習の時間です。ところが中学時代に勉強する習慣がなく(学校に勉強する雰囲気がないとそういう生徒は増えます)、学習塾で勉強し、高校入試も最後の3ヶ月間の追い込みで志望する高校に合格すると、「直前に出そうなところを教えてもらって追い込めば合格できる」という成功体験を得てしまいます。

 私の学校は生徒の通塾率は高く、小中で通っていた塾に高校に入学してもそのまま通います(講師は小中担当なので高校生は衛星予備校のビデオ学習中心、というところもあります)。

 学校の授業でわからないこと、もっと知りたいことを解決するため、つまり主体的な学習のオプションとして塾に通うことはよいことです。ただ家庭学習に時間をかけない、手や頭を駆使して勉強してない生徒が、勉強がわからないから塾に通っても、個別指導の塾なら効果は期待できますが、そうでない塾の場合は宿題が増えて家庭学習の時間がさらに減るので逆効果になることもあります。

 また「○○大学に□□人合格しました!」というのを見て、そこに通っているだけで自分が勉強できると錯覚したいだけなら、塾にお金を払っているだけです。塾もそういう生徒を望んでいません。まず「私」があって「私が学校の授業や塾の授業を活用する」という「主体的に考え行動する」ことを見失ってはいけません。

 

 高校はゴールではなく、社会人になる最後で最大のトレーニング場所です。モラトリアムを満喫するのではなく、社会で通用しないことは高校で通用しないと心得ることが、高校生になる第一歩だと思います。新入生が高校生活の中で社会人基礎力を身につけることを期待してやみません。