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ぶんぶんの進路歳時記

学習方法、進路選択、世界史の話題について綴ります

国公立後期試験目前 前期の学習を小論文に利用する

面接小論文

 国公立大学前期試験の発表が始まりました。受験生の皆さんはぬかりなく準備をしていることと思いますが、後期試験は目前です。

    3月下旬まで行き先が決まらないのは精神的に過酷です、しかし適切なサジェスチョンがあればあきらめずに頑張れます。今回は後期試験でよく出題される小論文にどう取り組むかについて考えます。

 

追記3/7 1年経ったので少し追加しました。

 

 

はじめに 後期試験は小論文が中心

 

 後期試験で各大学が求める生徒はおおむね「センター試験の高得点者」(前期で上位大学を不合格だった人)かつ「学科適性のある生徒」(不本意出願の人を除く)です。そこで学科やコースの専門性に直結した小論文や「覚悟」を聞く面接が課されます。

 具体例をあげた方がわかりやすいのですが、小論文は著作権の兼ね合いで色々難しいところがあります。その中でも神戸大学は親切で、後期の赤本があり、大学のHPに出題の意図や採点基準が掲載されています(検索してください)。学部ごとに「こういう生徒がほしいです」がはっきりしていて勉強になります。

 ただ神戸大学は後期がない旧帝前期不合格組が集まる最激戦区で、一筋縄ではいかない問題が並びます。

 

 そう思って赤本を見ていると、文学部の問題で私が尊敬してやまない二宮宏之先生の文章が出題されていました。もちろんその本持っています! 若くしてお亡くなりになられましたが、絶対王政の分析は一橋大学の入試問題にベタで出題されたぐらいです。

 二宮先生の文章を読みながら、主に人文学系で必要な小論文の素養とアプローチの仕方を考えます(入試問題の解説ではなく、出典を読んでの感想です。念のため)。

 

Amazon.co.jp: 全体を見る眼と歴史家たち (平凡社ライブラリー): 二宮 宏之: 本

Amazon.co.jp: 神戸大学(後期日程) (2015年版大学入試シリーズ): 教学社編集部: 本

 

 

1 小論文試験は学科が求める適性をダイレクトに聞いてく

 

 神戸大学の文学部は2014年度「エコロジーの概念から見る風景論」、2013年度「近代科学の体制化」2012年「実証主義歴史学のあり方」など、文学部の核心である「ものの見方」に関する文章を読んで要約し、自分に引きつけて論じます。

 法学部は「衆参のねじれ」や「混合医療」などのテーマに関する複数の資料を読んで肯定・否定の立場とその論拠を整理します。いわゆる「リーガルマインド」が問われます。

 他学部も含めてとにかく神戸大学の後期試験は読む分量が多いです。まあ前期で最難関大学を受験しているのですから、この程度の分量でしびれを切らす人はいないはずです、きっと。

 

 

2 志望学部・学科に必要な「ものの見方や考え方」に強くなる

 

 小論文入試を突破するためには、まず普段から志望学部の研究テーマおよびそれと関連がある時事問題(特に是非が分かれるもの)に注意を払い、その学部学科特有の「切り口」を知る必要があります。

    文学部の場合は「定義」です。例えば「エコロジー」という概念を時系列の中に位置づけ、近接概念と比較しながら、その意味を明らかにします。

    法学部では自分の意見を言うよりは、肯定側、否定側の根拠を明らかにして論点を整理します。また「エコロジー」について聞かれたら、どのような法律でそれを具体化するのか、メリットとデメリットを見据えて論じます。

 

 普段から「文学や歴史の道に進む」「法律家になる」という意識で読書する必要があります。文学部を志望するなら、これまで私たちが当然と思っていたことを別の側面から定義し直すような歴史や哲学の新書を、法学部を志望するなら現在争点になっていることについて、肯定、否定の意見をコンパクトにまとめてある新書を読んでおきます。

    直前だとそんな余裕もないので、文学部なら学校で買っている現代文の用語集、法学部なら「『日本の論点』、『新聞切り抜き速報社会科』を読みます(最近なら18歳選挙権と高校生の政治活動、派遣法の改正の是非、ヘイトスピーチなど表現の自由あたりが争点です)。

 

 

3 志望学部・学科が求める「論の建て方」に強くなる

 

 タフな小論文を課す後期入試は、一見「受験勉強だけで手一杯の生徒はお断り」という大学のメッセージにも見えます。しかし最後まであきらめてはいけません。受験勉強の中に小論文に役立つカードがあります。

 

 ひとつめは「比較と関連づけ」です。人文学系では「同級生は友人ではない」(滋賀県立大学の問題です。HPで設問が公開されています)のように、似ている概念を比較して共通点・相違点・関連性を整理する課題が多く、まずその論旨を要約させます。

 いきなり過去問をやってショックするよりは、似たようなテーマの要約問題に取り組んだ方が効果的です。

 最近は「要約しなさい」という出題が配点の多くを占める傾向があります。ただし難関にで出題される難解な文章の場合「文中から抽象的な部分を抜き出してつなげる」といったマニュアル要約では、読んで意味が通じません。

 著者の主張は何か、何に対して反対し、賛成しているのか、その根拠は何かを明らかにする必要があります。そのためにはある程度の「専門予備知識」は必要です。人文、社会科学系では現代文、世界史、倫理・政治経済の知識を使って比較と関連づけをしながら、筋の通る文章にしたいです。

 

 もうひとつは「事実と論理」です。自由論述は、具体と抽象を織り交ぜながら論理に論理を重ねます。個人的な印象や、一般的でない事例は避けます。

 先ほどの「同級生は友人ではない」を例にとると、著者の主張が「学校は勉強をするところ→勉強の成績は同級生との比較によって相対的に評価される→同級生は競争相手であり利害が対立するから助け合えない→友人ではない」であれば、これに反対するなら、具体「大学入試は他校生と争う」→抽象「同級生と常に利害が対立する訳ではない」→具体「競争が助け合いにつながることもある」→抽象「だから同級生は友人になり得る」のように論を進めます(あくまで私の意見です)。

 

 二項対立の課題はこの「比較」「要約」「論理に論理を重ねる」で何とかなりますが、難関大学では三項を比較したり、争点が複数あるものを整理したりすることが求められます。

 

*発展    大阪市立大学法学部の2012年の後期、「法律の適用する時には物差しが必要だが、物差しの目盛りが恣意的でも杓子定規でも人々は法を信用しなくなる、ではどうあるべきか」という「落とし所」に関する問題でした。

 

 神戸大学で出題された二宮宏之先生の文章に戻ります。彼は実証主義の歴史を次のように比較していると私は考えます(入試問題の解説じゃないですよ。あくまで私が出典を読んだ感想です)。

 

マトリックス

時代

背景

歴史叙述

人物

19c

革命による時代の大きな変化

歴史の大きな流れをとらえ、その中で歴史的存在である自らを位置づける

ミシュレトクヴィル

19c半

科学の世紀

歴史は科学であるべき 実証主義に基づく。自分を消して史料に忠実であるべき。

フェステル テーヌ 強い個性と実証主義の緊張関係がある

19c末

科学の世紀

実証主義を重視するあまり些細な事実をバラバラに考証するだけ核心に迫らない

ひからびた「歴史学のための歴史学

1920年

WW1でヨーロッパの合理主義が危機

すべての事象を全体の関連の中でとらえる。

アナール派

 

 

実証主義のいいところ

よくないところ

 

方法論

認識論

方法

史料の収集と厳密な史料批判に基づく仮説と検証

史料にこう書いてあるということをバラバラに羅列するだけ

結果

歴史学を科学的な学問として担保する

文書偏重によって研究の関心も文書に残る事件ばかり

影響

史料の整理が進み、より実証的な研究ができるようになった

個々の事件を時系列に並べるだけ。研究が起源論や系譜論になり、結論は決定論的になる。

 

実証主義歴史

全体史が目指すこと

出来事をバラバラに考える

関連でとらえる

過去を過去と考える

過去をその時点の現在としてとらえる

歴史を今に至る系譜と決定論的に考える

不可知な未来を前にその時々に人がどう選択をしたかを歴史の創造と考える

自分の意見を入れずただ史料を考証する

過去を現在から断罪するのではなく、現在の問題意識から過去に問いかけ、過去を読み直す行為を自覚的に行う

 

 「実証主義歴史学の特徴」は、二つ目のマトリックスの混在している「方法論」と「認識論」を比較しながら要約します。また「実証主義歴史に対する批判」は、一つ目のマトリックスのⅢの内容を整理します。

 神戸大学が公開している「出題意図」を読むと、二宮さんの文章を読んで実証主義を特徴づける二つの要素を比較したり(横の比較)、実証主義の歴史に対する批判をアナール派の主張と絡めて要約したり(縦の比較)しながら内容を理解してください、と言っています。私の読みと近くてほっとしました(笑)。

 

 では「過去の歴史家の態度の変遷」を踏まえて、「過去と現在の関係」をどう考えればいいでしょうか。つまりマトリックスの1~3を踏まえて、アナール派の「現在から過去に問いかける」をどう評価すればいいかです。

 

 これは私の考えですが、たとえば「戦場で性のあり方」は、かつて歴史研究として取り上げられることは少なかったですが、女性の権利の高まりとともに注目されるようになりました。とはいえ今の目線から過去を断罪したり、「従軍慰安婦」のように政治的思惑が歴史研究に優先したりするのは学問的に好ましくありません。

    アナール派が言う「過去との対話」とは、現在に生きる私が自分のまなざしに備わる「フィルター」を意識しつつ、過去の人々、とりわけ外交文書に出てくる政治家ではなく手紙や教会の史料に出てくる声なき民が「その時どう考え、どう生きたのか」をすくい上げることと思われます。

 

 これに対して「外交史こそ歴史のロマンだ」とか「歴史家は事実だけ書けばよい」と反論するという方法がありますが、「過去の歴史家の態度の変遷」で既に批判されているので、蒸し返すにはそれ相応の論理が必要です。

 アナール派に対する批判はたくさんありますが高校生は知らないので、まずはアナール派の考え方をしっかり要約します。その上で賛成、反対、素朴な疑問をぶつける程度でよいと思います。

 

 

まとめ

 

 小論文に出される課題は、一見難しく見えるものも「比較と関連づけ」、「事実と論理」で成り立っています。

    神戸大学の出題意図を読むと、大学の先生は高校生に大学生レベルの知識を期待しているわけではなく(もちろん教養がある人は有利です)、高校生が知識をフル活用して、複雑なものをひとつひとつほぐし、文章をどの程度「読めるか」を見ています。

 まずはどの学部でも必要な要約です。その上で各学部が要求する「マインド」にもとづいて論点を整理し、自分の意見を書きましょう。

 

    難解だからと行って尻込みせず、受験勉強で積み重ねたことを信じましょう。