ぶんぶんの進路歳時記

学習方法、進路選択、世界史の話題について綴ります

高校入試直前 入試で問われる「社会科」の学力について考えるその1

 三月の高校はとにかく忙しいです。卒業生を送り出すと次は高校入試。新しい生徒を迎え入れる準備が始まります。

 「公立王国」である私の県も、最近は中学校から県内外の私立に進学したり、往復三時間かけて他地区の有名進学校やスポーツ強豪校に通ったりする生徒もいて、どの高校もうかうかしていると定員割れの危機にさらされます(私の勤務校も他人事ではありません)。

 それで今はどこの高校も「高校生活入門講座」と称して、中学生向けに学校の良さをプレゼンしたり、授業を公開したりしています。中学校との兼ね合いでそれは9月の土曜日に行われることが多いのですが、この時期は部活の秋季大会の最中で、どの週に開催しても生徒や教員が多数不在、まさか自習を公開するわけにもいかず、その対応に苦慮します。

 それで私が勤務する学校は、その日にいる教員で生徒向けの体験授業をすることになり、私にもその話が回ってきました。他の教科は「高校の○○入門」のようなことをしていましたが、私は関西の私立大学がオープンキャンパス等で自分の大学の入試対策講座をしていることをヒントに、高校入試問題を題材に話すことにしました。

 もちろん塾がやっている問題予想やテクニック論ではなく、高校入試の問題の中に示されている「中学校でこんなことを学んでほしい」、「高校ではこういう力が必要」を解読して、本番までの時間をどう過ごすかを話しました。

 私は前の記事のように大学の過去問を研究して合否の崖っぷち問題を特定する取組をしているので、同じことを高校入試問題でやってみると、なかなか興味深いことがわかりました。

 以下はその話に加筆や修正を施したものです。参考にしたのは私の県の高校入試問題(教育委員会のHPにあがっています)、中学校の地理、歴史、公民の教科書と資料集など、中学生なら誰でも入手できるものです。

 

著作権法の範囲内(出所明示 引用が従)で問題文を引用します。

 

1 地理 「地理的思考力」が問われる

 地理の文法は「この地域はこういう地形や立地だからこういう気候や産業になって、その結果こういう生活が特徴になる」です。日本や世界の生活の特徴を空間的制約から論理的に考え、他と比較して相対化します。

 合格のためにマストな知識はまず「雨温図」です。生徒が立地・地形・気候といった地理的論理を理解しているかを試すのにうってつけです。次に「産業、生産物、資源」です。これも生徒が各地域の特徴と産業を関連づけられるかを試します。

 特に、日本地理なら住んでいる地域の常識の反対、世界地理なら日本の常識の反対が出やすいです。私の県は太平洋側なので日本海や瀬戸内の気候について説明する問題が何度も出題されています。世界地理では地中海が出題されていました。この「知識で自分の生活を相対化する」は高校の勉強や大学の学問の根幹に関わることです。

 

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 三重県公立高等学校入試問題 平成24年度 第1問

 

 また地理の基本である地図の読図、図法、時差は大問の最初に「ジャブ」として出題されますから、抜け漏れがないようにしておきましょう。

 

 対策ですが、教科書は地域ごとの構成になっていて、○○地域の雨温図はこうで、産業はこう、と書いてあります。その順番で覚えた後「逆コース」で復習します。雨温図を見てどこの地域か言える、主要農産物、工業製品の産出国を1位から4位ぐらいまで言えるようにしておきましょう。資料集で気候や産業のまとめページを活用します。

 ライバルに一歩先んじるには「ビジュアル問題」です。「都市の排水溝」の写真を見て何の目的で作られたかを書かせたり、EUが飛行機のパーツを各国で生産してフランスで組み立てる理由を答えさせる問題がありました。どちらも教科書の図版とキャプションに載っていました。

 勉強を嫌々やっている人は教科書の本文を読んだら勉強はおしまいです。そうした人をふるい落とすために図版と解説から出題しているのだと思います。出題者はよく分かっています。

 

 対策はまず図版に一通り目を通し、「へえ、意外」「ああ、なるほど」と面白がることです。例のように「都市のゲリラ豪雨」や「EUの危機」などニュース性のあるものは要注意です。全国ニュースより5時台のローカルが生活に密着していて役に立つことがあります。

 そして授業を大事にすることです。同業者だから言っているわけではありません(笑)。もし先生が授業態度などの注意に時間を使ってしまうと、本文以外の話をする余裕がなくなります。落ち着いて授業を受けて、先生から話を引き出すのが高得点の近道です。(つづく *入試問題の方針は県で違うこともあります)