ぶんぶんの進路歳時記

学習方法、進路選択、世界史の話題について綴ります

外国籍生徒の交流会に参加する

 私の生活している地域は住民に対する外国籍の人の割合が県内1位、学校にもたくさん外国籍の児童・生徒が通っています。

 先日、外国籍の生徒たちの交流会があったので参加しました。

 

ペルー紹介の様子

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 この会は12年前に外国籍の高校生から「違う学校に行って会う機会が減った仲間と交流したい」という声が上がり、人権担当の先生の支援を得て立ち上がりました。

 外国籍の生徒が中心になって実行委員会を組織し、会を運営します。交流会には日本籍や外国籍の高校生・中学生が参加し、母国の紹介やゲームで楽しんだ後、分散会で日頃の悩みについて話し合います。

 2年前から先輩の講演が始まりました。この日は初期の参加者である柿内ディアナさんに来ていただきました。非常に考えさせられる話でしたので、本人の了解の上紹介します。

 

 

講演の内容

 

 ディアナさんは16年前、小学校6年生の時に来日しました。来日当時は全く日本語がわからない上に学校でスペイン語がわかるのは小2にひとりだけという状態でした。

 

 ディアナさんは日本とペルーの文化の違いに戸惑います。給食の和食が食べられない、お箸が使えない、ペルーでは小6の卒業時にパーティーや旅行があるのに日本にはないのでがっかりし、逆に卒業文集の意味がわからず適当なことを書いてしまいます。

 中学校で弁当にペルー料理を入れてもらったとき、その独特の臭いでからかわれます。話を聞いた保護者が中学校を訪れますが、それがきっかけで外国の料理をみんなで体験しようイベントが生まれ、現在でも続いているそうです。

 

 ディアナさんは勉強して日本語も上手になります。高校受験に挑みますが、テストとなると日本語のニュアンスや漢字が難しく、最終的には定時制に進学することになります。


 2年生の時に市役所の通訳の職を得ます。自分と同じように困っている人(特に日本語が分からないと年金、保険、税金が理解できず、日常生活に支障が出る)と関わる中で、もっとみんなの力になりたいと思うようになります。

 そこでディアナさんは大学進学を目指すのですが、彼女の置かれている状況ではかなりのハードルです。当時同じクラスで外国人はディアナさんひとり。分からないことはとにかく同級生や先生に聞きまくります。

 

 努力の甲斐あってディアナさんは合格し、大学で英語とスペイン語を学びます。卒業後は企業の通訳としてメキシコで働いた経験もあるそうです。現在は日本で仕事をしていますが、4月からはまた海外で働くそうです。

 

 

 この後会場との質問応答がありました。

 

 「日本語の勉強はどうしたのですか」という質問がありましたが、中学校の宿題が少ないので先生に「もっとください!」と直談判したそうです。家では他の人よりプラス2時間勉強し、母親からは「毎日漢字を5個覚える」というノルマがあったそうです。「間違ってもいいから使う」「本を読む」を心がけたそうです。

 

 ディアナさんは高校入試で第一志望は残念ながら不合格だったのですが、最初から「無理」とあきらめずにチャレンジしました。ディアナさんは「今を頑張れば後で楽になる」ということをこの時に学んだそうです。

  NPOで通訳のボランティアをしていたとき、救命救急講習の通訳を頼まれ、ディアナさんも一緒に講習を受けました。その後家族が急に倒れたとき、救急車がくるまで覚えたての心臓マッサージを続けて、家族は一命を取り留めたそうです。

  今、色々なことにチャレンジすることで可能性が広がる。マイナスの状態から始まってもいつかはプラスになります。「『できない』と他人から言われたことが『できた』に変わるとどれだけ快感か」とディアナさんは会場の笑いを誘っていました。

 

 

感想とまとめ

 

 入管法が改正されて日系人が労働者として来日するようになってすでに20年が経過しました。ディアナさんの頃とは違い、実行委員の高校生は日本生まれで日本語は堪能です。

 実行委員のひとりは祖父が中国人で「広島生まれのペルー人」と自己紹介していました。彼のように三つのアイデンティティをしっかり持っている人もいれば、この日参加した中学生の中には来日して日が浅く、日本語がほぼ分からない生徒もいました。保護者の日本語力を含め、ひとりひとり事情が違います。

 

 ディアナさんが前向きに生きてきたのは性格も多分にありますが(小学校の頃蹴ってきた男の子を蹴り返したそうです。後で話し合うと、男の子は「友だちになりたいのに言葉が通じないからとりあえず蹴ってみた」そうです)、彼女がしっかりヘルプを出し、周りがそれに答えたからでもあります。

 いくらチャレンジしたくても、言葉が通じない、周りが冷たいと問題を自分ひとりで抱え込んでしまいます。その結果コミュニティーの中で孤立し、育児支援生活保護など必要な保護が受けられない、それがまた「あそこの外国人さんは…」と新たな偏見の種になる可能性があります。

 

 外国籍の方に限らず、色々としんどいことを抱えている人すべてが「ヘルプ」を出しやすい環境(行政のシステムと住民の意識)を作ることは、私たちが「それは自分にも起こりうること」と思って行動できるかに懸かっています。

    分散会では日本語がわからない中学生に対し、実行委員は英語を使うなど彼がコミュニケーションしやすい方法を試行錯誤していました。ディアナさんも中学生の保護者の悩み相談に即席で応じていました。誰もがこうした配慮をできるようになれば、「チャレンジ精神」をみんなが発揮できる世の中になります。

 

    ですから私もまず職場で話しやすい雰囲気を作ります(笑)。

 

 会を運営した実行委員と人権サークルの皆さん、協力していただいたNPO法人伊賀の伝丸さん、どうもありがとうございました。

世界史の入試問題について考える(4 大阪大学2017)

 2017年の国立大学の世界史論述問題を解きながら、何に注意して授業に臨むか、どのような準備をするかについて考えます。

 

 最終回は大阪大学です。

 

*発展 3月末の駿台予備校大阪校の入試研究会で東京、京都、一橋、大阪の問題が取り上げられるので事前に解答例を作っています。予備校の解説を聞いて「今年は簡単だ」と評論家気分では受験生と相対する時に指導できません。

 関西の難関・中堅私立大学については解答例だけでなく「東南アジアの抵抗」なら「○○大学の△△年の大問□」と大問ごとに取り出せるようにしてあります。

 

追記 3/19

    駿台の研究会に行ったら参考になったので少し直しました。本番では推敲できないですね。すみません。

 

 

大阪大学 2017年

 


問1

課題 資料文が編纂された(1330年頃)当時のイタリアの政治状況について、地域差や様々な政治・宗教勢力に注意しながら 150字程度

 

メモ

北イタリア海岸 ヴェネツィアジェノヴァなど都市共和国、東方貿易で繁栄。

北イタリア内陸 フィレンツェは毛織物工業と金融業で海港都市を支える。メディチ家教皇を輩出。ミラノロンバルディア同盟の盟主として神聖ローマ皇帝と争う。

中部 教皇

南部 ナポリ王国アンジュー家シチリア王国アラゴン家が支配。カトリックビザンツイスラームの三勢力が混在する。

全般 神聖ローマ皇帝のイタリア政策に対して、教皇派、皇帝派に分かれて争う。

 

解答例 3/19  ちょっと直しました。

北部の海岸部ではヴェネツィアジェノヴァ、内陸部ではフィレンツェなどが都市共和国を形成し、特にミラノ神聖ローマ帝国から自立していた。中部には教皇領があり、南部ではアンジュー家ナポリ王国アラゴン家のシチリア王国があった。これらは神聖ローマ皇帝のイタリア政策に対して教皇派、皇帝派に分かれて争った。151字

 

ポイント

 名古屋大学に中世後期のドイツとイタリアを比較する類題あり。

 高校生だと「アンジュー家」「アラゴン家」は出てこない(関東難関私大レベル)が、それ以外は書ける問題。

 

 

問2

課題 引用史料で述べられているシステム(元の通貨システム)が当時の中国経済に与えた影響について、前後の時代やユーラシア西方地域との相違点にも注意して 250字程度

 

ヒントから芋づる 

史料の内容:商人の銀を取り上げて引き替えに紙幣を渡す。中国内でどこでも使える。
システム:銀と紙幣(交鈔)

前後の時代:銅銭。宋代の交子・会子。手形から発達した紙幣。

ユーラシア西方地域:現物経済が中心。十字軍以降貨幣経済が進展。金貨と銀貨

中国経済に与えた影響:

ユーラシア循環交易圏で銀が基本通貨に。

使わなくなった銅銭は日本などに輸出。

紙幣を乱発しすぎて物価が高騰し、元が滅亡する一因になる。

明は貿易を縮小する。銀の使用を一時禁止。

 

解答例  3/19  少し直しました。

ヨーロッパでは金銀が通貨として用いられていたが、中国では宋代より銅銭に加えて交子・会子など紙幣が使われ、元代には紙幣の交鈔と銀が主に使われた。モンゴルのユーラシア支配の時代には草原の道と海の道の循環ルートが形成され、銀を通貨とする東西貿易が繁栄した。余った銅銭は日本など海外に輸出されて貨幣経済の発達を促した。しかし元が交鈔を濫発したことで物価が騰貴するなど経済が混乱し、元の滅亡の一因となった。明は当初紙幣を発行し銀の使用を禁止するなど商業を抑制したが16世紀には銀が流入して決済の中心となった。251字

 

ポイント

 大阪大学の「グローバルヒストリー」研究とも関係が深い杉山正明先生が専門のモンゴルからの出題(2016年に新しい本が上程されている。出版記念?)。

 

*発展:『世界史の窓』は、交鈔は小額紙幣(銅銭の絵が描いてある)、高額紙幣の役目を果たしたのは「塩引」という塩(国家の専売)の引換券、と杉山先生の本を引用している(いつもお世話になります)。

 

 紙幣はすでに宋代で使われていたこと、当時のヨーロッパに紙幣がない(紙幣は巨大権力が存在する証)、金と銀の二本立てだったことが比較ポイント。

 「影響」=間接的変化は、東西交易の活発化と交鈔の乱発による経済の混乱を書きたい。

 明の紙幣「宝鈔」は『世界史用語集』では頻度1。明は宝鈔と銅銭(洪武通宝や永楽通宝)を発行し、金銀の使用を禁止していた(宝鈔も銀との交換禁止)が、民間では銀が流通して宝鈔の価値は下落した(『詳説世界史研究』参照)。

 高校生には「ドボン」だが、明が海禁と農村への統制を強めたことは有名なので、「元の重商主義の行き過ぎを反省?」と推理して言葉をひねり出したい。

    高校生は文章的に収まりが悪いが「16世紀に銀が流入した」と飛んだ方がいいかも。

 

bunbunshinrosaijki.hatenablog.com

 

 

 

 

課題 ロシア革命(十一月革命)とその結果成立したソ連によって、何が達成され、何が課題として残されたのか。300字程度

ヒント 生産手段を公有化した最初の社会主義革命

語句 民族自決 五カ年計画 冷戦 人工衛星

 

マトリックス

 

政治

経済

外交

十一月革命

ボリシェヴィキメンシェヴィキや社会革命党を打倒

土地に関する布告 農民に土地を分配

平和に関する布告 即時停戦 民族自決

ソ連成立

ボリシェヴィキ一党独裁

戦時共産主義→新経済政策

周辺地域の独立運動は失敗

1920年

スターリンの一国社会主義

第一次五カ年計画 重工業 農業の集団化

コミンテルン

世界恐慌

スターリンの個人崇拝 粛正

第二次五カ年計画 工業化すすむ

 

WW2

独ソ不可侵条約独ソ戦

独ソ戦で餓死者続出

東欧の解放

冷戦

社会主義陣営

核開発 ミサイル技術 人工衛星

対立→雪解け→対立→デタントアフガニスタン侵攻

冷戦終わり

政治の停滞→ペレストロイカ→複数政党制 大統領制

経済の停滞

新思考外交→東欧革命

ソ連解体

クーデター失敗 共産党解散

市場経済の混乱

バルト三国独立

チェチェン紛争

 

解答例 3/19  民族自決のところのニュアンスを変えました。

ボリシェヴィキは十一月革命後に地主の土地の没収と農民への分配を約束し、民族自決を原則とする共和国からなるソヴィエト連邦を結成した。1920年代からは2度の五カ年計画によって国営企業化と重工業化を達成する一方、農業の集団化を実行した。戦後は社会主義陣営を形成し、核開発と人工衛星に代表されるミサイル技術でアメリカと対峙し、冷戦体制の一翼を担った。計画経済は資本主義の行き過ぎの是正、民族自決は抵抗運動のモデルなどソ連社会主義は各地で資本主義の代替案となったが、実際には市民的権利の抑圧や計画経済の非効率、領内の少数民族の抑圧など矛盾が多く、前者は社会主義諸国の課題、後者は旧ソ連地域の民族問題として今なお存在し、核軍縮も未解決である。309字

 

ポイント

 「ロシア革命100周年、ソ連社会主義の総括をしなさい」という問題。ソ連崩壊を目の当たりにしたアラフィフの私なら600字でもokだが(笑)、高校生には厳しい。

 センター試験の復習でロシア革命スターリン、冷戦、ペレストロイカチェチェン紛争の抜け漏れをつぶした人は、「なぜペレストロイカなのか」で習う「ソ連社会主義の問題点」を軸にパーツをつなぎ合わせれば文章になる。その年のセンター試験や私大入試の復習は大事!(手前味噌)

 

bunbunshinrosaijki.hatenablog.com

 

 解答例は先にソ連の歴史をおさらいし、評価できる部分、課題となる部分を書いた。この方が書きやすい。

 

*発展:昔ロシア近現代史の石井規衛先生が研究会で「ソ連は重工業時代のユートピア」と説明していた。計画経済は鉄鋼や石炭をがんがん作ってじゃんじゃん消費する(ソ連のロケットはアメリカと比べるとかなりでかい!)時代には「みんな平等」という思いを抱かせることが可能でも(しかし農村の収奪が背景にある!)、省資源情報化時代にはフィットしない、といえる。

 

*発展:ソ連社会主義はなぜ国家主義で人民の自由を制限するのかというと、ロシア革命第一次世界大戦=総力戦体制の「申し子」だから、と考えればつじつまが合う。ジャコバン独裁も革命戦争勝利が名目だった。民主主義を守るために人々の自由が抑圧されるという逆説。

 

*発展:マルクスの言葉に「宗教はアヘン」とあるが、ソ連ユーゴスラヴィアは領内の様々な文化集団に対して「宗教や民族にこだわるのは時代遅れ。社会主義のもとでユートピアを実現する」と問題に蓋をした。しかし社会主義政権が崩壊すると人々は再び拠り所を民族や宗教に求めだした、と捉える。

 

 

Ⅲ(外国語学部以外)


課題 ガンダーラ地域で制作されたと考えられる仏像に英雄ヘラクレスが描かれている。このような像が造られた歴史的背景 200字

条件 文化交流と仏教の発展という二つの側面に注目しながら

 

条件から芋づる

文化交流:アレクサンドロス大王の東方遠征に付いてきたギリシア人が各地に植民する。前3世紀にバクトリアが自立する。ヘレニズムの彫刻技法やギリシアの宗教が伝わる。

仏教アショーカ王の時代の仏教は個人が修行して解脱する仏教クシャーナ朝の時代に大衆の救済を目指す大乗仏教が成立、菩薩信仰が生まれ、その像を造る必要が出てきた。

 

解答例

アレクサンドロス大王の東方遠征によって中央アジアギリシア人が植民し、後にバクトリアが自立してヘレニズム文化を伝えた。一方インド発祥の仏教は最初個人が修行によって解脱することを目指したが、中央アジアから北インドを支配したクシャーナ朝の時代に大衆の救済を目指す大乗仏教がおこった。この仏教は大衆を導く菩薩に救いを求めたので、信仰の対象として仏像が必要となり、ヘレニズム文化と結びついてガンダーラ美術が生まれた。204字

 

ポイント

サービス問題。解答例は固有名詞を減らして地理的な広がりを意識した。

 

 

Ⅲ(外国語学部)

 

問1 イ.タスマン ウ.クック

 

問2 

課題 アメリカ合衆国が太平洋を囲む地域に対してどのような政治的な発言権を有するようになったか。1860年代~90年代、1940年代後半~80年代のそれぞれの過程について、その時期に起きた戦争と関連させながら それぞれ80字程度

 

条件から芋づる

1860~90 ナポレオン3世のメキシコ出兵モンロー主義を適用 アメリカ=スペイン戦争でグァム、フィリピンを獲得 門戸開放宣言

→自国の利益を自由主義自由貿易で正当化

 

1940後半~80 日本の占領政策 太平洋諸島の信託統治 朝鮮戦争 SEATOやANZUS ベトナム戦争 中国との

→世界の自由主義を守ることが自国の利益

 

解答例

ナポレオン3世のメキシコ出兵に抗議しヨーロッパとの相互不干渉を主張した。また米西戦争に勝利して太平洋に進出し、列強の中国分割に対して門戸開放や主権尊重を唱えた。82字

国連常任理事国として太平洋諸島を信託統治朝鮮戦争に出兵した。またベトナム戦争に介入するなど共産主義からの自由主義の防衛を唱えたが、戦後は中国との関係改善に努めた。85字

 

ポイント

 アメリカの覇権主義に関するタイムリーな話題。

 前半はモンロー主義とアメリカ流帝国主義(アメリカファースト)、後半は国連反共主義自由主義の守護者)と比較の視点で書く。

 韓国はAPEC加盟国。「日本の占領軍の中心として民主化を指導し」も「政治的発言」(自由主義を広める)に当たるので私的にはOK

 SEATOとAUZUSを入れたいが「80年代」まで書く必要があるので、米中国交回復が79年なので「関係改善」と「逃げた」(笑)。高校生はANZUSの方が書きやすい。


*発展 1848年のアメリカ=メキシコ戦争アメリカ合衆国の領土が太平洋岸に達するが、当時はパナマ運河がない。50年代のペリー艦隊の世界周航は「合衆国は太平洋国家」というデモンストレーションともとれる。

 

 

問3

課題 ヨーロッパ連合に見られる協力の特徴 50字

条件 アジア太平洋経済協力との違い

メモ

EUの特徴 市場統合(域内のヒト・モノの移動の自由)、通貨統合(ユーロ)、政治統合(欧州議会

APECの特徴 多角的自由貿易体制を推進・強化、貿易・投資の自由化・円滑化、経済・技術協力を推進

 

解答例

加盟国間の商品や労働力の自由移動や共通通貨を設定するなど経済的統合度が強く、欧州議会で政治統合も進めている。55字

 

ポイント

サービス問題。EUの特徴を書く。

 

 

まとめ

 

 難関大学の世界史の論述問題を指導するには、普段から大学の先生が高校の先生向けに書いた入門書を読んで、「新しい歴史のとらえ方」をアップデートしておく必要があります。

 そうした「アップデート」は必ず現在の課題とリンクしています。歴史学は決して「象牙の塔」ではなく、文部科学省の「競争的予算配分」にせき立てられなくても、「今起きている問題を歴史に問う」が研究の動機です。

 世界史選択生はそうした「知の最前線」にいます。ぜひ世界史を楽しんで欲しいと思います。だから抽象的な話をしても寝ないで聞いてください(本音)。

特別展 古代ギリシャ -時空を超えた旅-@神戸市博物館2016-17

    先日神戸市立博物館で開催されている「古代ギリシャ展」に行ってきました。世界史好きな人にオススメなので紹介します。

 

公式サイト

www.greece2016-17.jp

 

*チラシを見ると展示物に©マークがついているので、チラシのアップは遠慮します。実物はHP及び展覧会で見てください。

 

 

館内の写真撮影許可ポイント 雄牛のリュトンの看板あり

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神戸市立博物館 表玄関

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 最初のセクションはクレタ文明以前の新石器時代、初期青銅器時代の展示です。

 

 目を引くのはスペドス型女性像です(HPの作品紹介第1章)。よくある豊満体型ではなく八頭身です(○々緒さん系の土偶?)。顔は「のっぺらぼう」ですが、元々は目や口や髪の毛が描かれていました。この方が色々とイマジネーションを掻き立てられます。

 出土したキュクラデス諸島はアナトリア(現トルコ共和国)からギリシアにかけての飛び石のような島々です。古代は海の方が移動に適しているので、「文明の伝播は島づたい」というのはアジアやポリネシアと同じです。

 

 絵で描くとこんな感じ めっちゃ適当(笑)

 

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 次は世界史の教科書でおなじみクレタ(ミノス)とミケーネ文明の展示です(同第2、3章)。

 

 資料集に載っているタコが描かれた壺などが展示されましたが、牛頭形の「リュトン」(お酒を注ぐときに壺にかぶせるカバー)は入口のポスターにもなっていて(左側に映り込んでいる)、展覧会の目玉のようです。

 クレタ文明というとミノタウロスの伝説に見られるように牛が有名です。神への供物として牛を犠牲にすることがありますが、そう毎回牛を解体するわけにはいかないから、これを酒の容器にかぶせて代わりにしたのだと思われます。

 

*発展 ギリシアの考古学に詳しい教授がいる名古屋大学の2017年の論述は「地中海世界におけるキリスト教以前の宗教について」で、リード文が動物を犠牲にする儀式の話でした。しかし高校生だとせいぜいエジプトとギリシャ多神教しか書けないのでは…。


 ミケーネ文明になると金や装飾品、儀礼用の武器など権威を見せつけるグッズが増えます。また線文字Bの実物が展示されていました。宮殿で作業をした人に日当としてイチジクと小麦を配った記録や、生け贄にした雄牛のリストでした。教科書がいうオリエントの影響を受けた「貢納王政」の実例です。

 

 

 次はポリス成立期の展示でした(同第4章)。いわゆる「アルカイックスマイル」はこの時代の後期の彫刻です。最初は陶器の壺の絵柄に幾何学模様(線だったりピクトさんみたいな人)が描かれますが、後半になると神や人々の活動の様子が壺に描かれたり、大理石の彫刻として作られるようになります。

 

 少女が走っている像がありました。スパルタでは「リュクルゴスの制」の下、子どもは男女問わず小さいときに親元から離れて訓練を受けますが、「ヘライア競技会」は女子のスポーツ大会で、像はその様子を描いたものです。丈夫な子ども=次世代のスパルタ戦士を産むためには身体を鍛えろ、ということでしょう。

 またセイレーンの像が多くありました。ホメロスの詩にも出てくる、海の航路上の岩礁から美しい歌声で船人を惑わし、遭難させる怪物です(某外資系コーヒーチェーンのあの人)。ギリシャ人が地中海や黒海に進出し、交易をしたり植民市を建設した時期に重なります。

 展覧会のハイライトは大理石で作られた男性像です。入り口のポスターにもありました(右側に映り込んでいる)。2017年度センター試験、国語の小説に登場する男の子なら、指さしして「○×○×!」と言いそうです(下ネタごめんなさい)。

 

 

 次は民主政時代の展示でした(同第5、6章)ギリシャで人々が最も躍動していた時代です。陶器の壺に描かれる神々や人々がダイナミックな表現になります。

 

 教科書に載っている「テミストクレス」と書かれた陶片(オストラコン)がありました! 世界史教員としては結構感動です。また民衆裁判員を抽選する機械(クレロテリオン)の一部がありました。裁判の当日に石製の身分証(古代にIDカードですか!)を穴に差し込み、ガチャガチャやって裁判員を決めるそうです。

 

 

こんな感じ 「テミストクレス」と読めます

 

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 さらに亡骸を清める香油を入れる壺には戦士の絵が描かれるなど、市民皆兵のポリスが戦死者の追悼を重視していた様子も垣間見ることができます。

 

*発展 高橋哲哉さんの『靖国問題』(ちくま新書)は賛否両論ありますが、彼が整理した「犠牲のシステム」と「国家による戦死者の追悼」は世界史を語る上で避けられない論点です。


 他にも病気治癒を祈願して奉納された乳房(小説の男の子なら(以下略))や足など「患部のレリーフ」、オリンピックの競技者を描いた記念の壺、競技者が身体に塗った香油をはがすための垢擦り棒(スキー板の「リムーバー」!)など、当時の人々も私たちも生活の様子や考えは基本的に変わらないのだとしみじみしました。

 


 最後はヘレニズムとローマ時代の遺物で、マケドニア人やローマ人がギリシャ好きだったことがわかります(同第7、8章)。

 

 しかしキリスト教が広がり、392年にキリスト教以外の信仰が禁止されると(テストに出ます! みくにの信仰)、ギリシャの文化も「異教」扱いになり、古代オリンピアの祭典は禁止(これも名古屋大学の過去問にあり)、彫刻の額に十字が刻まれたり、使わなくなった彫刻は建材の一部などにされたそうです。

 

 世界史好きな人には教科書の「あれだ!」が満載の展覧会です。音声解説が市村正親というのもいいところついています(笑)。

 

 神戸での会期は4月2日(日)までです。まだの人はお早めに。