世界史の論述定番テーマ 第4回は「世界史の中のグローバル化」についてです。
歴史学は「現代の課題について歴史を通じて一言言う」というスタンスです。今回のは最もホットな話題のひとつです。
前回はこちら。
bunbunshinrosaijki.hatenablog.com
* 字数が4000字をオーバーしたので、近代以前のグローバル化は別の機会にします。
1 大航海時代~ヨーロッパの海外進出
例題1 大阪大学 2008年
課題 グローバル化がどのように進んだかについて 15~17世紀 300字程度
条件1 先導した主要勢力 主要な進出先の変化
条件2 アジアの諸国家や交易ネットワークなど非ヨーロッパ世界の動きとヨーロッパとの関係
条件3 グローバル化を先導した商品や産物
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先導勢力 |
主要な進出先 |
アジアの諸国家や交易ネットワークとの関係 |
商品・産物 |
15世紀 |
アフリカ、アジア |
既存の国家の秩序や交易ネットワークに参入する |
香辛料、生糸 |
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16世紀 |
スペイン |
新大陸 |
既存の秩序を破壊する |
銀 さとう |
17世紀前半 |
オランダ |
東南アジア、新大陸 |
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香辛料 |
17世紀後半 |
イギリス |
インド、新大陸 |
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綿布 たばこ |
17世紀後半 |
フランス |
インド、新大陸 |
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毛皮 |
解答例
15世紀末にポルトガルがインド航路を開発してインド、東南アジア、中国に達した。彼らは明の秩序やイスラームの交易圏に参入しつつ、時に武力を用いて拠点を確保し、日本銀を元手に香辛料や中国産の陶器を買い付けた。またアフリカの王国と結んで黒人奴隷を新大陸に輸出した。16世紀にスペインは新大陸で既存の権力を滅亡させ、銀山開発やさとうプランテーション経営を行った。17世紀前半にオランダはインド航路を押さえ香辛料貿易を独占し、北米やカリブ海にも進出した。17世紀後半にイギリスはインドで綿布の交易を行い、また北米に入植して先住民と争いながらたばこプランテーションを拡大した。遅れてフランスもインド貿易や北米植民地開発に乗り出した。306字
ポイント
ヨーロッパの対外進出の展開を書かせる。私立の入試問題の定番。
問題は条件2。アジア地域は商人の交易ネットワークや既存の秩序(明、ムガル帝国)がしっかりしている。ポルトガルはゴアやマラッカを占拠したり、ディウ沖でマムルーク朝と戦ったりするが、種子島に漂着したポルトガル人が王直(倭寇の親分)の船に乗っていたことからわかるように、現地勢力と仲良くしながら交易圏に食い込んできた。
その辺を新大陸での横暴な振る舞い(アステカやインカを滅亡させて、自分たちの都合のいい経済システムを作る)と比較することが必要。
類題 京都大学 2009年
課題 新大陸の発見が新旧世界にもたらした直接の影響
語句 先住民 作物
新大陸 |
ヨーロッパ |
中国 |
スペイン人が既存の秩序を破壊 |
銀が流入 価格革命 |
銀が流入 |
原住民を酷使 銀山の開発 |
固定地代の領主衰退 |
租税の銀納化 |
原住民の人口が激減 |
経済の発展 人口増加 |
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黒人奴隷の輸入 |
商業の中心が大西洋に |
新大陸の作物 |
砂糖などのプランテーション |
東欧は農場領主制 |
トウモロコシの栽培 |
複雑な民族構成 |
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新大陸の作物が流入 |
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ジャガイモの栽培 |
解答例
新大陸ではスペインの侵略によって既存の国家が破壊された。先住民は銀山などで酷使され、疫病などで人口が激減した。そこでプランテーションの労働力として黒人が輸入されたので民族構成が複雑化した。ヨーロッパでは新大陸の銀が流入して物価が上昇し、固定地代に頼る封建領主が没落し、商業の中心は地中海から大西洋に移った。東欧では農奴制を強化され西欧向け穀物を生産する農場領主制が広まった。またジャガイモなど新大陸産の作物が伝来し、アイルランドなど寒冷地の食糧事情を改善した。中国では新大陸の銀が流入して経済が発展し、一条鞭法など租税の銀納が始まった。また新大陸産のトウモロコシが伝来して18世紀の人口増加を支えた。299字
ポイント
こちらは大航海時代の「影響」=間接的な変化を書かせる問題。リード文に「アジア」「新旧両大陸」とあることに気づく。
最近は、価格革命は新大陸の銀が流入する前から起きている(人口増加で穀物需要が増加した)という説が主流。
2 19世紀のグローバル化
例題2 大阪大学 2008年
課題 グローバル化がどのように進んだかについて 19世紀~20世紀初頭 300字程度
条件1 先導した主要勢力 主要な進出先の変化
条件2 アジアの諸国家や交易ネットワークなど非ヨーロッパ世界の動きとヨーロッパとの関係
条件3 グローバル化を先導した技術や人の動き
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主要勢力 |
主要な進出先 |
アジアの諸国家や交易ネットワークなどとの関係 |
技術や人の動き |
19世紀前半 |
イギリス |
中国 東南アジア |
戦争で現地勢力を破る 不平等条約 |
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19世紀後半 |
イギリス、フランス、オランダ |
中国 東南アジア |
植民地の分割 抵抗運動 |
中国人、インド人の移民 蒸気船 |
19世紀末 |
イギリス、フランス、ドイツ |
アフリカ |
植民地の分割 |
海底ケーブル |
20世紀初頭 |
アメリカ |
中国 東南アジア |
中国の半植民地化 |
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解答例
19世紀に世界の工場の地位を築いたイギリスは清朝に自由貿易を認めさせ、インドや東南アジアではプランテーションを開発して、工業製品の輸出と原料の輸入という国際分業体制を築いた。この結果インド系や中国系の労働者が汽船を使って東南アジア、カリブ海、オーストラリア、アフリカへ移住した。フランスもベトナムで現地勢力や清と争って植民地を拡大した。1870年代にドイツやアメリカの工業化によってイギリスの地位は低下するが、イギリスは海底ケーブルによる通信や鉄道・海運のインフラ、金融で優位を保ち、列強のアフリカ、太平洋、中国の分割でも多くの利権を得た。これに対して従属地域では民族主義的な反乱や、近代化を受容して自己改革をする動きが生まれた。311字
ポイント
進出先の変化と、自由貿易推進の19世紀前半と、帝国主義による領域囲い込みの19世紀後半という質的変化を説明するという方針をたてれば、汽船や海底ケーブルといった技術の説明がスムーズにいく。ベトナムのくだりはなくてもよい。
イギリスの19世紀前半は「自由貿易帝国主義」と理解する。公式の植民地をたくさん持たなくても(コストがかかって無駄)、イギリスの商品は世界一なので、自由貿易(それを可能にしたのが海軍力と各地に整備した港湾施設)を推し進めて経済的に世界の覇権を握ることができる。
19世紀後半は「社会帝国主義」と理解する。アメリカ合衆国やドイツで工業力が増し、イギリスの「世界の工場」としての地位が低下すると植民地を囲い込んで、そこに資本を投下したり、国内の失業者を移民させて社会問題を解決する。また海底ケーブルによる通信網をイギリスが持っているので、先物取引の情報収集や世界中での為替の決済が可能。イギリス以外の国もイギリスのシステムに合わせたほうが便利(デファクトスタンダードの走り)。
類題 東京大学 2013年
課題 17世紀~19世紀の大西洋、インド洋~太平洋にかけての交易によって生じた開発の内容、人の移動、それに伴う軋轢 540字
条件2 奴隷制度廃止前後の差異
語句 アメリカ移民法改正(1882年) リヴァプール 産業革命 大西洋三角貿易 奴隷州 ハイチ独立 年季労働者(クーリー) 白人下層労働者
指定語句から「芋づる」
- 奴隷州…南部と北部が経済対立。奴隷州をめぐる争い(北米)
- 白人下層労働者…アジア系労働者に仕事を奪われる(北米)
書くべきこと
1 開発の内容
- 北米:タバコ、綿花のプランテーション 大西洋側の農園 大陸横断鉄道
2 人の移動
- 北米:黒人奴隷→中国人労働者
- カリブ海:黒人奴隷→インド人年期労働者
3 軋轢
- カリブ海:黒人の蜂起
解答例
カリブ海地域では17世紀より砂糖プランテーションが形成された。ヨーロッパからアフリカへ日常品や武器を販売し、アフリカから黒人奴隷を購入してプランテーションで働かせ、生産した砂糖をヨーロッパへ輸出する大西洋三角貿易が発達した。リヴァプールは18世紀に奴隷貿易の港として繁栄し、その富は三角貿易の対価として取引されたインド産綿製品に刺激されて綿工業が起こったマンチェスターに投資されて、産業革命につながった。フランス革命が起こるとサント=ドマング島で黒人の蜂起が発生し、1804年にハイチ独立が達成された。この影響でカリブ海地域では奴隷制が廃止され、かわってインド系の年季労働者が導入された。北アメリカ地域では産業革命の影響で19世紀から綿花のプランテーションが拡大し、その労働力として黒人奴隷が使用され、イギリスの奴隷貿易禁止後も奴隷制が継続した。奴隷を必要とする南部と工業化が進み奴隷制に否定的な北部が奴隷州を巡って対立し、1861年に南北戦争が発生した。この結果奴隷制度は廃止され、新たな労働力として中国系移民が太平洋岸の農園や大陸横断鉄道の建設などに従事した。しかし移民労働者に職を奪われた白人下層労働者との間で対立が生じ、19世紀後半のアメリカ移民法改正で中国系移民が禁止された。533字
ポイント
「黒人奴隷が禁止された後の労働力にインド系や中国系の労働者が汽船に乗って移動した」というのは高校生には厳しい(東京書籍や実教出版の教科書には載っている)。南北戦争とインド大反乱、アロー戦争がほぼ同じ頃。最難関大学ではたびたび出題されるテーマ。
リヴァプールと奴隷貿易とアイルランド移民についてはNHKの『世界遺産』リヴァプールの回がコンパクトにまとめてある。
続きます。
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